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出産は何が起きるか分からないけれど、そもそも人生で何が起きるか分かった試しもない『きみは赤ちゃん』

やあ、僕だよ。
ついに妊婦健診も残り一回と迫る中、相変わらず腹の中の人は逆子のままである。
助産師さんに「居心地がいいんですね」と言われた時は、「あっ、これ帝王切開レポで見たやつ!」と思ったよ。

たくさんの書類(連帯保証人だの身元引受人だの物々しい書類が多数)を用意し、PC R検査の予約をし、入院予約表なるものを記入してもなお、実感がない。
夫の方が「切腹だ!」と騒いで(はしゃいで)いて、一応逆子体操をする僕の横で腹に手を当ててみたり、外出禁止令を申し渡してみたりしている(そして僕は無視する)。

今回は完全にタイトルで選んだんだ。ネットで見かけてね、今この瞬間の僕にふさわしい本だと思ったんだよね。
ありのまま、誰のためでもない記録という感じで、非常に参考、、になったよ。

さあ、早速始めようか。
今日も楽しんでくれると嬉しいよ。

本作あらすじと感想

僕は川上未映子氏の本を読んだことがない。

森博嗣氏とは少し違う理由で、芥川賞受賞作家だからである。というのも、僕は芥川賞受賞作は高尚な文学だと思っていて、どちらかというとエンタメに寄った本を優先して読んだ結果、芥川賞受賞作家の本はどうしても後回しになってしまうのだ(読んだら読んだで楽しめるのだけれど直木賞受賞作が最優先!)。

noteで記事を読んでいると句読点を入れない、心理や背景描写がつぶさな文章に出会うことがあるが、川上未映子氏の『乳と卵』にインスピレーションを得てこの文体にしていると言及してある記事があった。
以来、とても気になる作家の一人ではあった。でも芥川賞受賞作って読むのに頭使うんだよね。僕の頭では到底すんなりと飲み込めない。

が、今回の本はエッセイである。
僕の頭でも十分に楽しめる小気味よいものだった!

レビューでは「パートナーに対する態度がひどすぎる」などと書かれていたが、事実、表れ方が個々人で違うものの、ホルモンの作用というのは逃れられない大きなもの。
妊娠前まで希死念慮に度々殺されそうになるためにピルを常用していた僕は、ホルモンのやばさと20年以上付き合ってきた。

だからもしもこれを書いたのが女性だったら「ああ、生理が軽くて羨ましいなぁ」と思うし、男性だったとしたら「想像力の足りない人なのかなぁ」と思うかもしれない。
しかしそれと同時に、ひどい面もあるなと自分に置き換えて想像してしまう。僕はとてつもなく夫が好きで、川上未映子氏の「あべちゃん」に対する思いと同様の思いを抱くなどまったく実感できていないのである。

こっちはおなかを切ってオニを生んでからこっち、まったく眠っていないのにくわえてホルモンの崩れで頭が半分おかしくなっているのに、おなじくらいって、それはいったいどうなんだろう。こっちは1年近くもおなかで人間を大きくして、切腹して、生んで、そして不眠不休で世話をして、いまもこんな状態で仕事までしてるのやから、ほかのことはぜんぶ、ぜんぶ男(あべちゃん)がするくらいで、ちょうどなんじゃないだろうか。ちがうのだろうか。わたしまちがっているのだろうか。っていうか、それ以外に、いったい男に「なにができる」というのだろう。

この引用部分は、「おれは料理はできないが、ほかの家事はけっこうやっているので分量的にはおなじではないでしょうか」と「あべちゃん」が主張したのを受けての川上未映子氏の反応だ。

確かに男性の体で産むことはできないし、同じ分だけ苦しめと思っているわけでもない。
しかし、自分に出来ないことをやり遂げた相手に対しての賞賛や尊敬はありすぎてもあまりある。ましてや自分の愛する相手が死ぬ思いをして(させられて)守った、お前の、、、系譜である。
幸いにも現代では父の育児参加が(建前上は)評価される風潮なのだ、評価すらされない母を差し置いて何が「おなじくらい」だというのか。

ホルモンの作用を受けていない今ですら、ここまでの想像が出来てしまう。
大体、今まで夫が家事を引き受け、僕はのびのびと仕事していたというのに。彼が家事や育児をしないなんてあり得ないと分かっているのに、「もし夫が頑張れなかったら腹の子ともども、僕は追い詰められるかもしれない」と思ってしまう。

産後のホルモンバランスでどれだけ被害を被るのだろう、僕の夫は。ピルを飲み始める直前、一番ホルモンのやばさにさらされていた僕はヒステリックに夫を責めることはなかったが、何かにつけて「とりあえず死なないことには始まらない」と静かに主張していた。怖い、怖すぎる。

とはいえ、この本のおかげで心構えは出来たような気がしている。
ホルモンにめちゃくちゃ追い詰められても手首を切る直前に思い出せたらラッキーだからね。

合理的な育児方法

パンダマウスの育児を知っているだろうか。
彼らは同じ群れの成体が寄り集まって、授乳も世話も交代制で行う。せっせと自分の妹が子どもらの世話をしている横で母親は腹を出して寝ている、なんてことがある。
群れをつくる哺乳類は往々にしてこういった育児方法であることが多い。

人間の育児の難易度は全世界的に右肩上がりらしい、とどこかの記事(ソースは忘れた)で読んだ。
特に先進国の現代人は誰も彼もが忙しく、「仕事」なるものにかかりきりになって隣人を助ける余裕がないのが理由だという。そもそも人間は自身の生存戦略を「脳」という臓器に賭けたおかげで誕生時には未成熟である(頭の成長を待つと3年から4年腹の中にいなければならず、生存率が下がる)。

人間が古来より集団で育児をしてきたのは自然なことだといえる。すごく主観的な感想なのだけれど、「仕事」にかまけて種の保存をないがしろにする現代人は、歪な進化の象徴に思えてならない。

別に僕が育児を人任せにしたいっていうことじゃないよ!本当だよ!

最悪スマホさえあれば、寝ながら仕事出来るから

産後のうつもクライシスも怖すぎる。どうやったら最小限に抑えられるのだろう。
よく分からないまま、2月24日以降を自分で決めた産休予定にしていたがまんまと入りそびれ、いまだにちょっとした仕事をしている。
川上未映子氏の場合は、フルタイムどころか国内でもトップクラスの生産性のばか高い仕事だろうから比べるべくもないのだけれど、夫は入院中も仕事をしようとしている僕を必死で止めている。

それでもなんか怖いのだ。
今、止まってしまったらせっかくやってきたことが、また一からになりそうで。

自分がもしも仕事を振る立場で、出産で一ヶ月間が空くと聞いたらどうだろう。
その人にしか出来ない仕事だったら喜んで待つはずだ。でも大抵の仕事は「その人でなくてもいい仕事」ばかりで、僕の仕事もそういう類の仕事だ。
「出産なんておめでたい、今は子どものことを第一に考えてくださいね」と心からメッセージを送るだろう。しかし、その反面宙に浮いた「その人でなくてもいい仕事」を自分でやるかというとやらない。
やっぱり誰かに振るだろう。だってそうしないと自分の仕事が出来ない(しかも仕事を振る立場の人はほとんどの場合、その人にしか出来ない仕事を抱えている)からだ。

これは僕の判断である。
ここを僕のお客さんが読むことはないと思うけれど、受けた案件は死ぬ気で納品するので心配しないでくださいね。

そういえば結婚して2年経った

2020年(令和2年
)2月22日に僕らは結婚した。
長い同棲期間があってから籍を入れると離婚するケースが多々あるらしい(信用できない提供元の情報)ので、少々身構えていたがまさか2年後の2022年2月22日に子を孕んでるとは思わなかった。

結婚することが怖かった。
飽き性で雑な僕はnoteで度々書いている通り、思いやりに欠ける恋愛(?)ばかりしていた過去があり、そして夫と付き合い始めた頃も「この人まで傷つけたら人でなしにもほどがあるな」と予防線を張っていた。
深みにはまった僕がありのまま愛すると、大抵の人間は疲弊する(一般的な「愛が重い」みたいな話であればよかったのに)。

半年付き合ったあと、あれよあれよという間に一緒に暮らすことになった。
親との折り合いの悪さと合わない大学、極貧生活に疲れきっていた僕は夫と暮らすことで救われたかった。この時点では歴代の恋人たちと肩を並べる程度の「好き」だったと思う。

彼の最も素晴らしいところは度々書いているけれど、当たり前に他人のために行動し、それを鼻にかけず、かといって鼻にかける人間を馬鹿にもせず、自分と他人が別の人間であると冷静に見ているところ。
別の角度から見れば、他人に入れ込まない分とても冷たいともいえる。彼の行動理由は全て自分軸、「やりたいからやってる、何か問題ある?」だ。
他人の利益は関係ない。一応他人の損害も考慮しているらしいから、そのバランス感覚あってこその素晴らしさなのだろう。

こんな逸材を見つけるなんて、人生は何が起きるかわかったものじゃない。
出産だってまさか帝王切開だとは思ってなかったのだし、この時期まで名前が決まってなくてありがたくも仕事してるとは思ってなかった。

だから産後のうつもクライシスも絶対、絶対、ぜーったい予想通りに行く気がしない。
今考えてるすべてのことが無に帰すくらい、いっさい予測不能の事態が起きるのだ。例えば夫が疲れ切って号泣して自殺未遂を図るとか、父と母が急に物わかり良くなるとか、宇宙人が居候し始めるとか、億万長者になるとか。

そしていよいよ来週、最終確認だ。
僕はこの、腹の中の彼とついに遭遇する。腹を切るかどうかの判断は入院当日まで一応持ち越される。

…と書いている内に腹が張ってきた。
おいおい、頼むぞ。逆子のまま破水なんて勘弁してくれよ!



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