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讃える

出会った瞬間から私の心はうち震えていた。
レンゲの上でふるふると煌めく白。
鼻先までほわほわと上がる湯気。
『生姜をのせ、黒酢に付けてお召し上がりください。』
召し上がり方?
召し上がり方がある。
期待に胸が踊る。
完璧に調和し完成された小宇宙だ。
爽やかな薬味の香りを纏い静かに眠る芳醇。
口に入れた瞬間にじゅわっと溢れだす感動。
広がる官能。
滴る旨味のマリアージュ。
小籠包は奇跡。黄河。受け継がれてきた手のぬくもり。

そんな衝撃的だった初めての出会いを、微笑ましく思い出している。

先程ははんぺんを食べた。
夢かと思った。なぜこのような素晴らしい食べ物が世の中に存在するのだろう。
滑らかな表面。目を和ませる広々とした白。
包み込むように心を癒す優しい柔らかさ。
在るようで無いような弾力。
温かな膨らみは口のなかでふわっと消えていく。
武骨な己を嘲笑いながら儚さを追いかけてみる。
はんぺんは幻。天国。魚。霞み。



でもだからといって 私の決意は固い。
デロリアン(※タイムマシーン)に乗ったら過去へ行くと、先祖の墓前に誓っている。

例え身近な食材すぎて、その出会いが衝撃的なものではなかったとしても。
夢のような食べ心地でなかったとしても。
ただただ、納豆を深く愛しているから。

生まれたその瞬間に立ち会うのだ。
それは奇跡の始まり。
あきらかにお腹を壊しそうで、腐っているようにしか見えない豆を、食べてくれてありがとう。
初めて納豆を作った偉大なるお方よ。

そこまでの苦労とお腹の痛みを、乗り越えてきた全てをこの目で見たい。

そして、初めてそれを食べ、日本の歴史に光を灯した瞬間。
私は言うのだ。

『初めまして。私は未来から来ました。
今それを召し上がったあなたを称え、感謝をお伝えするために。
あなたの苦労と痛みと涙、その勇気に敬意を表します。
この発酵させた豆はいずれ日本中に広まります。
あなたを祖先とする私たち日本人は、この発酵させた豆と共に、未来を見据え歩み続けています。
あなたと同じ地を踏み締め、同じ豆を噛み締めながら。
今、この豆を食べてくれて、ありがとう。』

二人は涙を流しながら、しっかりと強く抱き締め合う。
でもそれは昔の日本人のコミュニケーションではないかもしれない。
困惑させるだろうから抱き締めるのはやめよう。
私は目と口から溢れんばかりの感謝を伝える。
そして奇跡が生まれた喜びに全身で舞い踊ろう。


だがしかしこれを、どうしてかき混ぜようと思ったのだろう。
どの瞬間にそう思い付いたのだろう。
よりねばねばして食べにくいと思わなかったのだろうか。いつから主流になったのだろう。

私は純粋な疑問を抱え、次の奇跡に立ち会うために、またデロリアンに乗り込む。



……そうして過去には行くが、未来には行くまい。
なぜならこれからの新しい納豆との出会いを、自分自身で体感したいからだ。

そう、私はこの一生をかけて納豆の無限の可能性を探求するつもりである。

様々な土地で手塩にかけて育まれる豆。
新たな品種も増え続けるかもしれない。
インターネットの普及により、容易になった人々の繋がりと共に、新しいレシピは常に生まれ続けている。
世界中の多様な食材と様々なレシピに、今後納豆は出会ってゆくのだ。 
その度に生まれ変わる、神秘の味わい。
豊かに織り成される至高の香り。
内に秘めたポテンシャルが今こそ解き放たれる。
混ざり合い絡み合い、世界中を凌駕してゆく。

納豆は革命を起こすのだ。
繋がり合う一粒一粒の奇跡。
神々の戯れ。美しさ。
納豆の存在は世界へ轟き、その名の音色を鳴り響かせるだろう。
未来から讃歌が聴こえる。
歌え。踊れ。讃えよう。納豆を。

NATTO! 世界で一番美しい。
NATTO! 世界で一番美味しい。
NATTO! 世界で一番愛されている食べ物。


過去と未来が交差する今。
今、私はここにいる。
納豆が作った体で、心から愛する納豆と共にいる。

これから全てを見たい。
納豆の広がりに、人々が繋がり合う喜びを感じたい。

納豆という希望と共に、私は生きてゆく。





(※)バックトゥーザフューチャーのタイムマシーンの車です。時計台のシーン大好き。ドク大好き。


(※)トップの画像は鳥獣戯画と納豆をコラボしてみした。
兎や猿や蛙たちが納豆と戯れているように見えませんか?
最初はテーブルの上に納豆を乗せて写真を撮ったのですが、いかんせんテーブルが作業台すぎて(美しくなくて)、納豆の魅力が充分に引き出されなかったのです。
だから、鳥獣戯画の手拭いを敷いてみました。

鳥獣戯画と納豆がこんなに見事に合うなんて、誰が想像できたでしょう。
改めて納豆は素晴らしいです。
また一つその魅力に気付かされ、心を奪われました。
そんな穏やかな晴れた日の午後。







おまけ書きました(*´ ˘ `*)


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