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樹木希林さんの演技がグッとくる「海よりもまだ深く」

9月15日、女優の樹木希林さんが亡くなった。樹木希林さんと言えば、わたしにとって是枝監督作品の印象が強い。

「万引き家族」「歩いても 歩いても」「そして父になる」「海街diary」……。どれも、本当にその人が存在するかのような自然な演技が大好きだった。

海よりもまだ深く

樹木希林さんが出演する映画のシーンで印象的だったのが、2016年公開の「海よりもまだ深く」。

この映画は、元妻(真木よう子さん)に愛想をつかされて離婚した男(阿部寛さん)をとりまく家族の話だ。

以下、簡単なあらすじ。

一度文学賞をとったきりの作家で、探偵事務所に勤める主人公の男(阿部寛さん)は、妻(真木よう子さん)との離婚後、息子との月1回の面会を楽しみにしている。彼は長い間「自称:作家」で、息子の養育費を払うにも一苦労。自分の姉(小林聡美さん)にお金をせがんだり、お金を増やそうと競馬につぎ込んでしまうような、なかなかに情けない男だ。けれど、息子には何がなんでも会いたいし、元妻に新しい彼氏ができたことにはショックを受ける。彼は、母(樹木希林さん)を頼みの綱に、息子を連れて団地を訪れる。


台風の夜のシーン

台風の夜、阿部寛さんとその母親役の樹木希林さんがふたり、団地の部屋で会話するシーンが今も胸に残っている。

「なんで男は今を愛せないのかねぇ。いつまでも失くしたものを追いかけたり、叶わない夢見たり。そんなことしてたら毎日楽しくないでしょ」
「幸せっていうのはね、なにかを諦めないと手にできないものなのよ」

そして、テレサ・テンの「別れの予感」という曲がラジオから流れてくる。

樹木希林さんが演じる淑子は、海よりも深く人を愛したことなんてないと言う。だからこそ楽しく生きていけるのよ、と。

「人生なんて、単純よ」

何気ない日常のワンシーンなのに、不思議と惹きつけられるのは間違いなく彼女たちの演技力だと思う。


「一晩寝かせたほうが味がしみるのよ。人とおんなじで」

このシーン以外でも、樹木希林さんの言葉にはなんだか重みがある。劇中、煮物を作りながら言う「一晩寝かせたほうが味がしみるのよ。人とおんなじで」も。

彼女の言葉は、なんだか書き留めておきたくなる。自分のおばあちゃんやおじいちゃんでも、きっと似たようなことがあると思う。歳を重ねて、いろんなことを見て聞いて経験してきた人の言葉は、ずっしりとしている。

わたしが作中の樹木希林さんの言葉を理解するにも話すにも、まだまだ人生という修行が足りない。

いつか、その言葉がしっくりくるときはくるのだろうか、とか考える。

なりたい大人になれなくても

「海よりもまだ深く」は、家族の話だけど、同時になりたい大人になれなかった大人の話でもある。売れる作家になれなかったとか、理想の父親になれなかったとか。

主人公(阿部寛さん)は「パパはなりたいものになれた?」と息子に聞かれてこう答えていた。

「パパはまだなれてない。なれたかどうかは問題じゃないんだ。大切なのはそういう気持ちを持って生きてるかどうかってことなんだよ」


映画を見終わって、なりたい大人になれなくても人生は続くし、そんな自分の人生も引き受けて生きていくんだよなぁ、と思った。




編集:円さん



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