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【詩】演技



好きだったんだよ、一緒にいて楽しくて、一緒に食べたカレーは刺激的な味がして、一緒に寝たベッドはふわふわして、全部全部好きだった、時間を共有して、笑顔で話して、その隣にいる人間、という役をしている私が。
いつもいつも、何が「正解」な言葉、態度でいればいいのか、目隠ししながら手探りして、人から聞いた話を耳に入れれば、不安と希望が入り混じった、難色のカクテルを飲み干す、視野が狭まる、酩酊状態、私は何がしたいのか、あの時願った代償が、こんな変化球で返ってくるなんて、意識を飛ばしたいのね、いいかげん目覚めなさいと、笑い方すら忘れてしまう。
舞台に立った女優のように、結末は知っていた、設定通りにしか出来ないから、その通りになる、魔法はここまで、好きだった、その気持ちは、確かにあった、手に取れない砂のように、掴めないまま、私は役を降りた。

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