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世界の終わりと、降り止まない雨。

雨が、降っていた。

いつものことだった。ここ数年、雨が降らない日は見たことがない。大地は根腐れを起こし、もうもうと立ち込める霧のような臭気に慣らされて、それでも僕たちは生きていた。

世界は、ゆるやかに終わろうとしているのだと思う。どこかで聞き飽きた陳腐な言葉でしかないけれど、終焉とはこんなにも穏やかなものなのかと、僕は今日も窓の外を見つめている。

「準備、できた?」

不意に、窓越しに視線が交わされる。戸口に立っているのは僕の姉。げっそりと痩けた頬に、それでも優しげな笑みを浮かべた。

「準備ってほどのこともないけどね」

僕は本当になんでもないことのように笑った。

降り続く長雨で廃れたのは大地ばかりではない。緩んだ地盤に建造されていた家々は崩れ落ち、人が住めるところなんてもうほとんど残されていない。

赤い紙が届く。それが終了の合図だった。

僕はこれから、この大地の礎となる。
なんてことはない。
ゆるやかに滅びゆく世界の終焉時刻を、ほんのすこし伸ばしてみようというだけだ。
無作為に届く、赤い紙。

お国のために。ナンセンス。

微笑む姉の右目から雫がこぼれた。
大丈夫。僕もただゆるやかに、そして穏やかに、僕の時間を止めるだけなのだから。


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