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ハチと戦う中学生

私はハチが嫌いだ。虫全般が苦手なのだけれど、特にハチが苦手。
ハチを「蜂」と表記すると、あの姿を鮮明にイメージしてしまうから、「ハチ」と書くことで和らげている。

ハチが嫌いなので、日常生活ではできるだけ関わらないようにしている。外を歩いていてハチらしき虫が飛んでいれば、「急がば回れ」という言葉を使っても言い訳ができないくらい遠回りをして避ける。とにかく苦手。

しかし、どれだけ苦手でもハチと対峙しなければならない時がある。それが、学校内、特に授業中にハチが乱入してきた時だ。この時ばかりは、一目散に逃げたくても、教員として耐えなければならない。そう何度もあるわけではないが、年に数回はハチが入ってくる。

入ってきたとしても、すぐに出て行ってくれれば問題ない。けれど、教室内に居座られると、対処しなければならない。生徒をハチから遠ざけて、様子をうかがう。出て行かなければ、学級委員に職員室へ助けを呼びに行ってもらう。ここまですれば、後は体育会系の先生が殺虫剤や虫あみを持って来てくれるので一安心。

さて、ハチが入ってきた時に一番気をつけなければならないのは、ハチと戦おうとする生徒がいることだ。多くの生徒がハチを見て「ぎゃー!」と言ったり、慌てたりしていると、「俺が倒す!」と名乗りを上げてくる生徒がいる。基本的に男子。手には教科書やノートを棒状に丸めて持っている。流石にハチと戦うには心許ないか・・・。
兼務などもあり、今まで4つの中学校で勤務をしたが、どの学校にも「ハチと戦う中学生」がいた。

カメムシやカナブンなど、命の危険がない虫なら、処理を任せてもいいかなと思う。けれど、ハチは別だ。戦いを挑んで、もしその生徒が刺されでもしたらと思うと恐怖でしかない。「VS.ハチ」だと思っていたのに、いつの間にか「VS.ハチと戦う中学生」という構図ができあがる。勇敢な先生がハチを駆除する前に、無謀な生徒の気持ちを静めなければならない。

そもそも、どうしてハチと戦おうとするのだろうか。ハチ嫌いな私には理解できない。正義感なのか、目立ちたいだけなのか。強いヤツを見たら「ワクワクすっぞ!」と戦ってみたくなるドラゴンボール的なやつなのか。もしかしたら、私には想像できない理由を彼らは持っているのかもしれない。

私にも、中学生の時があった。生徒の思いに共感して、助言をしたり、一緒に悩んだりできるのは、自分も同じ時期を経験しているからだと思う。けれど、生徒の全部を知った気になってはならない。教員が分からないものを、生徒が持っていることだってたくさんある。もしかしたら、それがその生徒にとって重要なことなのかもしれない。ハチと戦う彼らは、まるでそのことを教えてくれているようだ。分からないからと、切り捨ててはいけないのだろう。

とまあ、ちょっと良い感じにまとめてみようと思ったけれど、やっぱりダメか。どんな理由があっても、ハチと戦う生徒は止めないと。頼むから、ハチと戦うのはやめてくれ。


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