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勉強初心者に本居宣長が教えたこと7

以下の文章は『勉強初心者に本居宣長が教えたこと6』の続きです。
最初から読む場合はこちらから『勉強初心者に宣長先生が教えたこと。』

登場人物
先生:本居宣長(もとおり のりなが)〈享年71歳〉
生徒:春ひみの(はる ひみの)〈高1〉
原文を参照できるよう、本文内に「岩波文庫『うい山ふみ 鈴屋答問録』本居宣長著 2007年4月13日第39刷」のページ番号を記載しています。
※本作に登場する宣長先生は、あくまで実際の本居宣長をイメージしたキャラクターとお考え下さい。

宣長の推薦図書「古事記伝」

岩波文庫『うい山ふみ 鈴屋答問録』30~35ページを参照

ひみの
「うーん、うーん」

宣長
「おや、珍しく本を読んでいるね。なに読んでるの?」

ひみの
「古事記…」

宣長
「おお!ついに読み始めたね。でもなんでそんなにうなってるの?内容が難しい?」

ひみの
「難しいとかいう以前に、全部漢字で書いていてまったく読めません」

宣長
「え!?原文でそのまま読んでるの?それは無理だろう」

ひみの
「でも、宣長先生がよく言ってるじゃないですか。古典の解説書は中国の考えが入っているのが多いから、なるべく原典を読みなさいって」

宣長
「だからって、なんの知識も無い状態で原文を読んでもわかるわけないよ。まずは解説付きのものから読まないと」

ひみの
「じゃあ、古事記を読むときはどんな解説書が良いんですか?」

宣長
「それは当然『古事記伝』だね。内容が詳しいし、なにより漢心から離れた視点で書かれているから安心だよ」

ひみの
「そんな本があるんですね。誰が書いたんですか?」

宣長
「私」

ひみの
「なんだ、宣伝ですか。大学生の兄が教授は自分の本を教科書にすれば、数十冊も毎年売れて良い商売だって言ってましたよ」

宣長
「いっしょにしないで……、古事記伝は私が30年もかけて書いた本なんだから」

ひみの
「ものすごい時間がかかったんですね。もっと早くできなかったんですか?」

宣長
「私がこれを書いたころは古事記の内容をきちんと読める人がほとんどいなくなっていたんだよ。ちょっとした単語も意味が分からなくて、弟子や子ども達と一緒に時間をかけて研究したんだ。たとえば『タニグク』ってなんのことかわかる?」

ひみの
「わかりません」

宣長
「タニグクっていうのはカエルのことだよ。これは鹿児島の方言に似た言葉が残っていたことでわかるようになったんだ」

ひみの
「地方の方言まで調べたんですね」

宣長
「そう、とにかく調べられることをとことん調べていたら30年もかかって、冊数が44巻にもなっていたよ」

ひみの
「大変だったんですね。でも、なんでそんなに古事記の研究にこだわったんですか?」

宣長
「それはね、神代の日本を知るには古事記が最適だからだよ」

ひみの
「でも日本書紀もありますよね?」

宣長
「古事記が日本書紀と違う点として、漢文風の装飾が少ないことがある。日本書紀は漢文で書かれているけど、古事記は万葉仮名と漢文の併用で書かれているからより日本的な表現がされているんだ。
次に、古事記は日本書紀より神代、つまり神様について書いている量が多いので『道』についてより深く知ることができる。
こういった理由から、私は古事記を重視して研究していたんだ」

ひみの
「そうなんですね。私も頑張って古事記を読んでみます」

宣長
「うん、頑張ってね」

あとがき

ひみの
「つまり、先生は古事記が道を知るために最適だと考えたから、30年も研究した。ということですね」

宣長
「そうだね。古事記は日本の精神を学ぶのに最適だからね」

ひみの
「でも、日本書紀と同じで古事記も全部漢字で書いてますよね?日本の精神が書いてあるなら、なんで漢字しか使われていないんですか?」

宣長
「古事記は奈良時代に作られたので、そもそも平仮名は無いからね。ちなみに平仮名が使われるのは平安時代からですが、当時は女文字とも言われ、男性はほとんど使わなかったみたいです」

ひみの
「平仮名は漢字より下の文字なんですか?」

宣長
「いや、むしろ平仮名は漢文に比べて日本的な表現がしやすいのだけど、政治の世界では長く漢文だけが使われていました。男性は慣習を守ろうとする考えが強く、女性は合理的な方法を取り入れる傾向があったみたいだね」

ひみの
「昔から男女の考え方の違いってあったんですね」

おわり

参考図書
『うい山ふみ 鈴屋答問録』本居宣長著 岩波文庫 2007年4月13日第39刷
『日本の思想15 本居宣長集』吉川幸次郎編 筑摩書房 1969年3月30日初版

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