見出し画像

書籍レビュー『次の震災について本当のことを話してみよう。』福和伸夫(2017)大地震をどう迎え撃つか

※3500字以上の記事です。
 お時間のある時に
 お付き合いいただけると嬉しいです。

※この記事は
 2019年1月2日に書いた記事に
 加筆修正をしたものです。


地震の怖さがわかる

2018年9月6日、
北海道胆振地方中東部を震源とする

マグニチュード6.7の大型の地震を
体験しました。
(北海道胆振東部地震)

私の住む札幌市内でも
震度5強を観測、
その直後に北海道全域で停電が発生し、
大混乱を招きました。

これは道内で
一番大きな発電所が
地震の影響で破損し、停止したことで、

電気の供給が間に合わずに起こった
「ブラックアウト」と言われる現象で、
全道の電気の復旧には
2日を要しました。

今となっては、このように冷静に語れますが、
地震の発生直後から電気の復旧までは

とにかく情報がなく、
わけが分からなかったですし、
途方もなく時間が長く感じたものでした。

私が本書を手に取ったのは、
まさにこの地震がきっかけでした。

おそらくあの経験がなければ、
今でも「大地震」なんて
どこか他人事に感じていたでしょうし、

地震について深く知りたい
と思っていなかったかもしれません。

地震後の復旧にもある程度目途が付き、
それでもやはり、地震は怖いですし、
いろいろと知っておきたいと思い、

地震関連の本を探していた時に
見つけたのがこの本でした。

北海道胆振東部地震の
約1年前にこの本が出版されており、

あの地震が来る前に
この本を読んでいたら、
何かが違ったかもしれないと思いました。

本書では、地震のメカニズム、
これまでに国内で起こった震災の実態、

そして、今後、懸念されている
大型地震が起こった時に想定される
シミュレーションについても
綴られています。

帯には
「国民の半数が被災者に。」とありますが、
決して大げさな表現ではないですし、
中身を読んでもらうと分かると思いますが、

この地震大国日本において、
どの地域でも震災が
他人事でなくなる日がくるでしょう。

日本の地震の歴史について
知ることができる

本書では国内で起こった大地震について、
古くは1586年の天正地震から触れられており、

特に、関東大震災(1923)、
阪神・淡路大震災(1995)、
東日本大震災(2011)については、
詳細なデータも含め掲載されています。

地震の歴史に付随して、印象的だったのは

日本の神社や礼拝所が
地震、津波の教訓をもとに建てられ、
その大切な伝承役となっている

本書 p.176

という点です。

仙台市内には浪分神社(若林区)や
浪切不動堂(宮城野区)
といった場所があります。
いかにも津波と関係のありそうな
名前であることがお分かりでしょう。
ここから先は津波を遡上させないぞと、
不動像が海をにらみつけている姿を
想像してみてください。

本書 p.176

これらが主に伝えるのは
1611年の慶長三陸地震による津波。
天正地震から25年後、
慶長伏見地震から15年後、
慶長大地震から6年後のこと。
関ヶ原の戦いを経て江戸時代に入り、
仙台藩は伊達政宗が治めていました。

本書 p.176

仙台藩の沿岸部では1783人と
牛馬85頭が溺死したと記録されています。
地震に衝撃を受けた政宗は、
津波を意識した復興事業に力を入れました。

本書 p.177

津波で浸水した場所は塩田にして、
製塩業を復興事業として進めました。
塩釜(塩竈)をはじめ
「塩」や「釜」がつく地名が
仙台の沿岸部に多くあります。

本書 p.178

高台を中心とした基本的な街づくりは、
その後の仙台の発展と
400年後の東日本大震災の被害軽減に
つながったはずです。
あらためて独眼竜の眼力のすごさを感じます。

本書 p.178

このように歴史の出来事にも
地震が影響を与えているケースが
多く紹介されており、
非常に興味深く感じました。

この他にも東日本大震災に
類似した大地震として、
896年の貞観地震が紹介されており、

岩手、宮城、福島の東北三県を含む
陸奥むつ国」を揺らした巨大地震として、
平安時代の歴史書『日本三代実録』に
詳しく記録されています。

本書 p.179

この後にその原文が記載され、
以下のような現代語訳が記されています。

「26日に陸奥国で大きな地震があった。
 (中略)海では雷のような大きな音がして、
 ものすごい波が来て陸に上った。
 その波は川をさかのぼって
 たちまち城下まで来た。
 海から数十百里の間は広々とした海となり、
 その果ては分からなくなった。
 原や野や道はすべて青海原となった。
 人々は船に乗り込む間がなく、
 山に上ることもできなかった。
 溺死者は千人ほどとなった。
 人々の財産や稲の苗は流されて
 ほとんど残らなかった。」

本書 p.179~180

東日本大震災の津波の光景と
そっくりではないでしょうか。
この「城下」とは多賀城
(宮城県多賀城市)。
東日本大震災でも多賀城市内は広く浸水、
人口約6万人のうち188人が亡くなっています。

本書 p.180

このメッセージを知っていたら、
東日本大震災は
決して想定外の災害ではなかっただろう
と著者は綴っています。

この他にも貞観地震については、
和歌に残された例なども紹介され、

やはり、地震のことに限らず、
歴史について学ぶことは
大切だと改めて考えさせられました。

防災について楽しく学べる


本書の構成は、
序章「見たくないものを見る」に始まり、

1章「危険な都市、危ないビル」
2章「次の大震災の光景」
3章「未曾有は繰り返す」
と地震の恐怖を生々しく伝える
記事が続きます。

しかし、これはこれで現実として
受け止めなければならないことでも
あるのですが、

ただ不安を煽るだけで終わらないのが、
本書の素晴らしいところです。

4章「すぐできる対策とホンキの対策」
終章「意識を変えれば何でもできる」では、
著者が実践している防災対策の実例や
防災に対する心構えについて示しています。

特に個人的に共感したのが、
著者の提唱する
「楽しみながらの防災対策」というもので、

周りに対して防災のことを伝えるにあたっては

子どもたちにも
「これは大事なことだから」
と言い聞かせるのは禁句です。
子どもは「面白い」かどうかが先。
だから私たちも「ぶるる」や
プリン実験をはじめとした
面白い道具、楽しい教材で
引きつける工夫を続けています。

本書 p.269~270

とあります。

これを読んで、
「よく分かってるなぁ」と思いました。

ちなみに、文中にある「ぶるる」とは、
著者が耐震教材として開発した
小型の模型です。

模型を手に取って揺らすと、
木造住宅の筋交い(※)の有無によって
揺れや倒壊のしかたの違いが
わかるものなんだそうです。

(※筋交い:すじかい。
  柱の間に斜めに交差させて取り付けた木材)

(さらに、「ぶるる」シリーズとしては、
 木の模型以外にも
 さまざまなものがあるようです。)


本書の中には内閣府の中央防災会議で、
当時の小泉首相、安倍官房長官(のちの首相)が
「ぶるる」を手に取っている写真が
掲載されています。

この会議に参加した著者は、
首相に対して超高層ビルの耐震が
不充分であることを指摘し、

そこから10年かかって、
ようやく国が対策を
打ち出すようになったという話でした。

他にも本書の中では、羊羹とプリンに
「きのこの山」と「たけのこの里」を突き刺し、
それをお皿に乗せて揺らす実験なども
紹介されており、

建物と地盤の関係が
わかりやすく解説されています。

防災に関しては
個人でできることだけではなく、
地域が連携して行なう必要があることも多く、

そういった試みの一つとして、
「ホンネの会」が紹介されていました。

これは著者が、個々に昔から付き合いのあった
製造業、電力、ガスの防災担当
という異業種交流ではじまった
気軽な飲み会だったようですが、

本音でやりとりを交わす内に
防災に関する問題点が浮上してきたそうです。

2017年の時点では月1で
70社から人員の集まる大きな組織に
なったそうなんですが、

私自身も実際に
大きな地震を経験してみて、
こういった横の繋がりは、
とても大事だと感じました。

非常に意義深い本だったので、
つい長々と書いてしまいましたが、

これからの日本では
「大地震」は誰にとっても
他人事ではありません。

そうは言っても、
「なってみないと分からない」
というのは私も同じで、

経験する前は大地震が
わが身に及ぶとは考えもしませんでした。

とにかく、防災や耐震のプロが
地震について一般の人にも
わかるように書いた素晴らしい本なので、
一人でも多くの方に読んでほしいと思います。


【書籍情報】
発行年:2017年
著者:福和伸夫
出版社:時事通信社

【著者について】
1957年生まれ。愛知県出身。
名古屋大学教授・減災連携研究センター長。
1981年、大手建設会社に入社。
1991年、名古屋大学に転じ、2012年より現職。
建築耐震工学、地震工学、地域防災を専門とする。

【関連記事】


この記事が参加している募集

読書感想文

サポートしていただけるなら、いただいた資金は記事を書くために使わせていただきます。