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アメリカ印象派展制作中!③ウスターこだわりウラ話

来年(2024年)アメリカ・ウスター美術館所蔵のアメリカ印象派の展覧会「印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵」が開催されます。今回は隠れ家的美術館、ウスター美術館のプライドとこだわりをご紹介!
 


▶アメリカの大美術館は大富豪からの寄贈作品がベース

アメリカの大きな美術館に特徴的なのが、裕福な個人コレクターからの寄贈品がベースにあるということです。1870年に開館したニューヨークのメトロポリタン美術館はアメリカを代表する資産家、ロックフェラー一族を始めとする名だたる富豪の寄贈品や援助によるところが大きいですし、ワシントン・ナショナル・ギャラリー(ワシントンD.C.)も銀行家アンドリュー・メロン(1855-1937)ら錚々たる実業家がプライベートコレクションや美術館の建設資金を寄贈したことが始まりでした。世界有数の日本美術のコレクションでお馴染みのボストン美術館も所蔵品の9割は寄贈品だといいます。これらに共通するのは、新興国だったアメリカがヨーロッパ列強に経済的・文化的に追いつこうとした時代、桁違いの資産をなした富豪たちがもっていた財力と審美眼です。

ニューヨーク メトロポリタン美術館

▶これぞコレクション愛!Museum purchase

一方ボストン美術館と同じマサチューセッツ州にあるウスター美術館は、1898年の開館以来、一貫して自前のコレクションにこだわってきました。
約38,000点の所蔵品の6割は美術館が直接画家や画廊から購入した、いわゆる美術館購入(museum purchase)です。制作されて間もなく購入された作品も多く、すなわち「同時代の(=まだ必ずしも評価が定まっていない)作家の作品を“美術館として”認める」ということ。来年日本にやってくる展覧会「印象派 モネからアメリカへ」にも、こうした美術館購入の作品が数多く出展されます。今でこそ人気の高い印象派も当時は「前衛美術」という位置づけですから、ウスター美術館の気概と目利きの力を実感するポイントと言えるでしょう。

ウスター美術館で開催された
Frontiers of Impressionism 展

▶アンチエイジングとワイン?修復に見る欧米アプローチの違い

“美術館購入スピリット”は、作品の「保全」と「修復」にも見ることができます。「保全」とは文字通り、いかに作品を保つか、ということ。アーティストが残した作品を保全して次世代に受け継ぐのは美術館の大切な使命の一つです。
 
例えば油彩画では、作品を空気から遮断し保護するため、表面にワニス(ニス)によるコーティングが施されますが、経年とともに劣化、黄変して画面が暗くなってしまうため、古くなったワニスを取り除くことがままあります。しかしながら美術館や国によってその考え方やアプローチは違うようです。
 
以前、ロシアのエルミタージュ美術館の展覧会を開催した際には、特にオールドマスターと呼ばれる17世紀、18世紀の作品は全体が暗く、黄色っぽかったのを憶えています。これはワニスの劣化によるもの。美術館の担当者は膨大な数のコレクションに修復・保全作業が追い付いていないと言っていました。一方、アメリカの「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」の折には、ルノワールの作品《ポンヌフ、パリ》が修復後初めて出展され、絵具のフレッシュさが際立ち、画面から光を放っているように見えたのが印象的でした。

ピエール=オーギュスト・ルノワール《ポンヌフ、パリ》1872年
ワシントンナショナルギャラリー蔵
Courtesy National Gallery of Art, Washington

ウスター美術館の修復室長リタ・アルバートソンさんによれば、アメリカの美術館では、なるべく作品が完成した当時の状態に近づけようとするのが一般的とのこと。一方フランスの美術館などのように、なるべく人の手を入れずに作品を保つ、ある意味経年劣化も味わいの一つととらえる考え方もあるそうです。(最近はこれも変わりつつあるとのことですが)

この話を聞いて思い出したのが、フランスでよく言われる次のフレーズ:
”人間とは上質なワインのようだ。年を重ねるほどに魅力が増す”
(Les hommes, c'est comme le bon vin. Ça se bonifie avec l'âge.)
 
少し乱暴な言い方をすれば、「アンチエイジングに積極的なアメリカと、年齢を重ねるのは美しいこと、という考え方のフランス」ということになるかもしれません。
 
リタさんによれば、ワニスは作品に光沢と奥行きを与える効果があるため、個人コレクターは特に好む傾向があったとのこと。これに対してウスター美術館は、美術館として作品が制作されて程なく画商や画家本人から直接購入しているため、ワニスでテカテカになっていない作品も多いとのことです。今回の「印象派展」の2つのキービジュアルもそうした作品です。

展覧会会場で作品と向き合うとき、美術館購入の背景と保全に対する考え方という、ちょっとマニアックな視点から鑑賞するのも面白いかもしれません。

山田五郎さんでお馴染み
『ぶらぶら美術博物館 プレミアムアートブック」(KADOKAWA刊)で紹介されました


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