記事一覧
140字小説【山頂にて】
「僕1人?お母さんは?」「……」私は早朝から6時間かけ登頂した。すでに太陽は傾き始めている。頂上には5歳くらいの男の子が1人で座っていた。軽装でリュックも背負ってない。「こんにちはー」中年男性が登ってきた。男の子はもういない…中年男性は男の子がいた場所に花を供えると手を合わせた。
140字小説【優しさ探し】
僕は間違い探しをしながら生きてきた。でも何か違う気がしていた。階段に蹲る低血糖の青年。声を掛けジュースを買ってきた人を見た。止まない雨の中、困り顔の少女が民家の軒下に立っている。少女の前に車が止まった。「返さなくていいから」と傘を渡して走り去る人を見た。本当に探したかったのは…。
140字小説【先輩】
「早まるな!銃を下ろせ…」「お世話になりました。先輩が見届け人で嬉しいです。何かに取り憑かれたような薄ら笑いを浮かべた僕は、勤務中の交番で銃口を自分のこめかみに当てた。「サヨナラ…」僕はじわりじわりと近づいてくる先輩の前で引き金を引いた。「カチン!」「先輩……弾を抜いたんですね」
140字小説【新たな窮地】
「手伝おうか?」昔より太っていて最初は誰かわからなかった。車がぬかるみに嵌まる窮地に現れた古い友人、救世主だ!「待ってろ、同じ部屋の仲間も呼んでくる」「助かる!脱出できたら手伝ってくれたみんなに焼肉奢るよ」「よっしゃ!!」貫禄のある男たちの活躍で脱出した。力士たちの活躍で……。
140字小説【鑑定失敗?】
私の友人が夫と営む買取専門店へやってきた。要らないものは何でもここへ売りにくる。鑑定は友人の担当だ。ダメ夫と噂の旦那は奥でゲームをしているらしい。無数の偽物を見破ってきた目利きの鋭い友人に「昔に戻れるなら何がしたい?」と聞くと、友人は店の奥を睨みながら「鑑定をやり直す」と呟いた。
140字小説【もう少し、もう少し…】
轟音と共に家が揺れた。家族は暴走車が突っ込んできたのかと思ったらしい。自室の椅子が壊れ、代わりに購入したバランスボール。座り心地は悪くはない。でも背もたれが欲しい所だ。「あっ!壁があるじゃないか」壁の前にバランスボールを置いて座る僕。背もたれを倒すように傾き…「あ、あぁぁぁ!!」