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ホテルローヤル

昨日の夜、前から気になっていた映画を見に行った。

映画は静かなものだった。驚きもどんでん返しもなく、それほど大きな感動もなく、しんみりと見終わった。
だが、家に帰り、寝る前になり、朝になり。今じわじわと込み上げてくるものを感じている。



映画の舞台は釧路湿原を見下ろす丘に建つラブホテル『ホテルローヤル』。

このホテルの経営者夫婦の娘である主人公の雅代(波留)は目指していた美大の受験に失敗した。そんな折、母のるり子(夏川結衣)は若い男と出ていき、雅代は流されるままにこのホテルの女将として働くことになる。

家族、従業員、お客、このホテルで巻き起こるそれぞれの物語。

それが、それぞれにせつない。

最初は愛から始まり。最後は別れで終わる。


ホテルの従業員である能代ミコ(余貴美子)は、足が悪く働けない旦那のため、毎日懸命に働いている。幼いころ母から言われた「一生懸命に働け」という言葉を支えに。だが、手塩に掛けて育てた一人息子は知らぬ間に暴力団組員になり逮捕されていた。それをテレビのニュースで知る。

こんなに働き、あんなに愛したのに。


母親が男と駆け落ちして出ていき、父と暮らしていた女子高生の佐倉まりあ(伊藤沙莉)。父も家から出ていき一人きりになってしまう。携帯に電話をしてみるが・・・

親から着信拒否され居場所を亡くした女子高生。


まりあ(伊藤沙莉)にせがまれ、教え子となりゆきでホテルに泊まることになってしまった教師・野島涼介(岡山天音)は、妻が自分と結婚前から、自分の上司と関係を持っていたことを知ってしまう。しかもそれはもう10年以上、妻が高校生だったころから続いていた。

教師として教え子を励まそうとしながらも「自分はいらない男だった」と絶望する。


釧路湿原を見渡せる場所。一山当てようと意気込みここにラブホテルを建てたのは雅代の父・田中大吉。前妻と別れ、るり子(夏川結衣)とホテル経営を始めたのだが、娘には信頼されず、最後にはるり子に逃げられ、そして病床に伏せることに。

うまくいくはずだった人生。


そして雅代(波留)は、ホテルローヤルを廃業する。

この好きだった釧路湿原の景色とも。

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それぞれが愛から始めた人生。

だが思い描いたようにはいかない人生。

最後は別れで終わる。

夢や希望みたいなきらびやかなモノがあるわけではなく、ただ、それぞれの人生がそこに横たわっている。


唯一、本間真一(正名僕蔵)と 本間恵(内田慈)の熟年夫婦のからみだけは美しさを感じた。
子育て、介護、から解放されやっとホッとする時間ができたと思ったら、もうこんな歳になってしまっていた。でも、またここから。何年かぶりに激しく愛し合った後「また来ようね」と帰り際に約束する二人。
(あとで内田慈さんが現在37歳だと知り「37は全然熟女じゃないぞ!」と少し憤りを感じたのはナイショです)


この映画は、見る人によってまるで受け取り方が違うのだろうなと思う。

元になった小説は7話からなる短編集だ。そのどこに自分を重ね合わせるか、あるいは重ね合わせられないのか。

僕は僕で、この歳だから感じられることもあり、これまで経験してきたたくさんの別れが、このじわじわと込み上げる感情の元となっていることは間違いなさそうだ。


さて、映画のラストシーンには『白いページの中に』という曲が流れる。
そもそも僕がこの映画に興味を持ったのはCMで聴いたこの曲からだったのだが。

物語と映像とこの曲が、ぴたりと、まるで手のひらを合わせるようにマッチして、最後の最後に、ほろりとさせられた。

メロディー、声、そして歌詞。

『バグダッド・カフェ』という映画に使われた曲『コーリング・ユー』は、その映画の世界観と抜群の相性をみせたが、この曲とこの映画にも、それと同じレベルの親和を感じた。


---『白いページの中に』---

いつの間にか私は 愛の行方さえも
見失なっていた事に 気付きもしないで
振り向けば やすらぎがあって 
見守る瞳があった事を
サヨナラの時の中で やっと気付くなんて

長い長い坂道を 今登ってゆく
好きだった海のささやきが 今は心にしみる
よみがえる午後のやすらぎも 
白いぺージの中に




久しぶりに… 

ラブホテルに行きたくなりました。

え?


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