【書評】幼児教育の経済学(ジェームズ・ヘックマン・2015)

2000年にノーベル経済学賞を受賞した知の巨人、ジェームズ・ヘックマン氏の著書の訳本。

AI時代到来の期待と不安、2020年の教育改革などを背景に、現在「非認知能力」がブームと言えるほどの関心を集めています。その源流がヘックマンです。

これからの教育に携わる人、ましてや「非認知能力」を語る人は読んでおいて当然の本でしょう。


全三章で構成され、

第一章は未就学期への教育効果が非常に高いというヘックマンの主張、
第二章が各専門家からのヘックマンの主張に対する賛否あるコメント、
第三章がヘックマンによる、第二章のコメントに対する反論や解説です。

第一章でヘックマンの主張が語られるわけですが、この本には「非認知能力」が重要と結論づけるに至った背景や過程はほぼ書いてありません。エビデンスとかは横に置いて、ヘックマンの主張をわかりやすく伝えるための小冊子のようなものと捉えるべきでしょう。主張自体に懐疑的な人、エビデンスまでしっかり当たりたい人はこの本だけでは完結しません。

面白いのは、第二章で批判を含む各専門家のコメントを掲載し、第三章はそれを受けてさらに解説しているところです。1ラリーではあるものの、一冊の本の中で議論が交わされているのです。日本人はなかなか書かない構成でしょう。


この本を読むとわかるのですが、ヘックマンの主張は「非認知能力を伸ばすことが重要であること」、「そのために最も効果的なのは未就学期(4−5歳まで)にそのための教育を施すこと(特に貧困層)」の大きく2点です。

昨今の「非認知能力」ブームは一つ目の主張は大きく取り上げられるものの、二つ目の主張はやや置き去りな感もあります。想定している子どもが小学生や中学生でも、注釈なしにヘックマンの主張を持ってきています。(小学生以降は手遅れというわけではありません。)

改めて「未就学期の教育」に注目すると、日本の子どもたちのほとんどが保育園や幼稚園に通っていて教育を受けているわけですし、経済的に不利な家庭は保育料の減免を受けています。無償化も実施されます。既にヘックマンが主張する施策はかなり実施されているわけです。

改善点があるとするならば、その「質」でしょう。教育、ましてや幼児の非認知能力を伸ばす教育は、それを見守る大人に「ゆとり」がなければとてもじゃないけど出来ません。幼児教育の現場は慢性的な人手不足に悩まされていますし、家庭の保護者も「ワンオペ育児」のようなゆとりとは程遠い状況に置かれる方が非常に多いです。

保育園や幼稚園の先生方、そして家庭で子どもを育むお母さんお父さん方にゆとりを与えられるかどうかが今後の日本を左右するのではないでしょうか。


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