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【バットマン死亡説】99%の人が気づかないダークナイトライジングがバッドエンドである理由【オッペンハイマー】

ノーランの新作が『オッペンハイマー』であることを考慮すれば、『ダークナイトライジング』はただのハッピーエンドではないことが見えてきます。

*本稿はかなりシリアスな解釈をしていますので閲覧にはご注意ください。


#ネタバレ

▼あらすじ(99%の一般論):

The Dark Knight Rises (2012)

ベインがゴッサムシティで中性子爆弾を起動します。バットマンはゴードンやキャットウーマンと協力してベインとタリアを倒し、中性子爆弾を入手しますがもう爆発は止められません。起爆装置を単体で解除できるパヴェル博士をベインが殺害して、最後の手段だったウェイン産業の地下施設もタリアが水没させてしまったからです。爆発まで残り1分50秒でバットマンは飛行機で中性子爆弾を海上に運び出しゴッサムシティを救います。

しかし爆発に巻き込まれてバットマンは消息を絶ったのでした。アルフレッドはブルースが死んだと思い、遺言の通りにウェイン邸を孤児院として市に寄贈し、自身は退職して傷心のままヨーロッパ旅行に出掛けます。そしてカフェテラスで勘定するときに、向かいのテーブルに座って食事するブルースとセリーナに気付き、遠くから微笑んで無言で頷くのでした。

The Dark Knight Rises (2012)

一見、ブルースが実は生きていて、バットマンを引退するために世間を騙した。そして現在は愛する女性と幸せに暮らしているというハッピーエンドに見えます。しかし現実はそんなに優しくありません。

▼解説(1%が見抜いてるノーランの本心):

この映画で起きていることを正しく理解するために、事実を順番に紐解いていきます。

https://alternativemovieposters.com/amp/dark-knight-rises-daniel-norris/

●中性子爆弾とは

同じ核爆弾でも、ヒロシマとナガサキに使われた原子爆弾とも、戦後に米露がこぞって実験した水素爆弾とも、本作で登場する中性子爆弾は別物です。

中性子爆弾
(読み)ちゅうせいしばくだん
(英語表記)neutron bomb

核兵器の一種。原子爆弾、水素爆弾に次ぐ第三の世代の核兵器ともいわれているが、原理的には非常に小型の水素爆弾と考えてよい。アメリカ軍の正式名称では放射線強化兵器(ERW: Enhanced Radiation Weapon)とよばれている。戦場で使いやすいようにという目的で開発された典型的な戦術核兵器である。爆発の威力と残留放射線は広島型原爆の10分の1あるいは数十分の1程度に小さいが、爆発の瞬間に発生する放射線、とくに人体に即効性のある中性子線を強くし、これで人員を殺傷することをねらっている。熱線や爆風による致死領域よりも、放射線による致死領域のほうがずっと広く、建物や戦車は破壊されずに残っても、中の人間が致死線量以上の放射線を受けることになる。アメリカでは1957年ごろから開発研究が始められ、76年ごろほぼ完成した。カーター大統領はまずヨーロッパに配備しようとしたが、オランダなどの各国で強い反対運動が起こり、生産と配備を一時延期していた。81年8月、レーガン大統領は生産の再開を決定した。最初は155ミリ榴弾(りゅうだん)砲とランス地対地ミサイル用の弾頭がつくられ、ついで巡航ミサイル用の弾頭がつくられた。フランスもアデス短距離弾道ミサイルにERWを搭載する計画であったが、90年6月に政治的理由で中止された。

安斎育郎著『中性子爆弾と核放射線』(1982・連合出版)

中性子爆弾とは、映画や漫画でよくあるスクリーン映えする派手な大爆発ではなくて、熱線や爆風を抑えて放射線照射に特化した、見た目は地味ながらも、その周辺の人間や生物だけをターゲットに絞った《殺傷目的の兵器》です。

原爆や水爆が都市や工場地帯を破壊することが目的なのに対して、中性子爆弾はとにかく人間だけを破壊することに特化した全く別物の兵器です。ドラクエの呪文に例えるなら、原爆がイオラで、水爆がイオナズンなら、中性子爆弾はザラキです。もしくはゲーム違いですが、ファイナルファンタジーの魔法に例えるなら「死の宣告」のような感覚です。

なので一時的な爆風や熱線を回避できても、バットマンが搭乗している飛行機くらいの薄い装甲ならば、放射線が大量に貫通して、一瞬で数シーベルト以上の線量を被曝してしまうのが中性子爆弾です。まずは「映画でゴッサムシティを救った瞬間にブルースは中性子爆弾の至近距離に居た」ことを押さえておく必要があります。

●放射線被曝とは

原子爆弾の攻撃力は概ね3つに分けられます。

熱線:とても熱い光。水分を蒸発させて黒焦げにする。
爆風:物理的に吹き飛ばす力。身体を引きちぎる。
放射線:目に見えない小さな粒子。細胞のDNAを破壊する。

 Terminator 2: Judgment Day (1991)

爆弾というワードから私達はどうしても熱線と爆風のイメージをしやすいです(ターミネーター2でも有名なシーンがあります)が、原子爆弾でより多くの被爆者が気をつけるべきなのは放射線被曝です。

用語チェック⚠️
被爆:爆弾などの被害に遭うこと
被曝:放射線などを浴びること

この放射線というのは実は自然界にもあって常に太陽から地球に降り注いでいます。放射線とは顕微鏡でも観測できない非常に小さな粒で、身体を貫通します。そして貫通するときに、たまたま細胞のDNAに当たるとそこでDNAが壊れることがあります。DNAが壊れた細胞は細胞分裂する時にエラーが起きるようになります。このエラー状態の細胞が増えすぎるとガンや腫瘍と言われるものになります。

しかし繰り返しになりますが、放射線は自然界にも存在するもので、人間の細胞エラーは常に起きています。そこで、人間は勿論あらゆる生物の身体には、エラーになった細胞を自分から壊してしまう機能(アポトーシス)があります。これはいわゆる《免疫力》と呼ばれるものの一部です。一般に免疫力というと身体に侵入した異物や病原菌を排除することを指す場合が多いですが、自分自身のダメになった細胞を壊すという機能もあるのです。

むしろある程度は自分から放射線を浴びて体内にエラー細胞を作ってそれを自分で壊してしまう方が、若い細胞が新たに作られるので代謝が進んで健康体になれるという考え方もあります。これがラドン温泉などが健康に良いと言われる科学的根拠です。

他にも、骨折したときに患部がすごく痛むのは、新しい骨細胞を作って骨を繋ぎ合わせる前に、まずは折れた箇所のダメになった骨細胞を自分自身の免疫力で破壊するプロセスが痛いのです。このように生物には自分を積極的に作り替える機能が備わっています。

逆に言えば、歳を取ってガンが悪化してしまう人とは、この免疫力が落ちてエラー細胞が増えすぎてしまった状態だと言えます。というか、元々人間の免疫力には限界があるので、生まれた瞬間から身体中のDNA破損とエラー細胞は着実に増えていきます。肌にはシミができて、髪は白くなって、モスキート音は聴こえなくなって、眼球は濁って、骨は脆くなって、関節の動きは鈍くなってきます。このような変化は内臓や血管でも同じように起きるので、それが生命活動に支障が出るレベルに到達したときに人はそれをガンや心不全や脳梗塞や動脈硬化と呼ぶだけです。老化とはそういうことです。

ところがまだ若くて免疫力が正常でも、原子爆弾などで放射線を異常に大量に浴びたり、日頃から大量に浴びる状態が続くと、免疫力を大きく超えた速度でエラー細胞が増殖します。これが原発事故などで大量に放射線被曝したときにガンを発症しやすくなるメカニズムです。実態はもっと複雑ですが、シンプルに言えばそういうことです。つまり乱暴な言い方をすれば、放射線被曝=スーパー老化加速ビームだとも言えるでしょう。

こうした症状が少し時間が経ってから判明するのが放射線被曝の恐ろしいところです。爆発の瞬間は凌いだつもりになってても、実は放射線によって細胞が文字通りDNAレベルで蝕まれている可能性が残るのです。それが判明するのは何年も経ってからという場合もあります。私が先ほど「死の宣告」だと表現したのはこのためです。遅効性の毒なのです。

●放射線被曝とは(超大量の場合)

さらに一度に浴びる放射線を増やすと、たとえば先ほど説明したようにガンになりやすくなるレベルの更に1,000倍くらいの放射線を一気に浴びると、DNAが壊滅的に破壊されて、まともに分裂できる細胞がほとんど無くなってしまいます。

そうなると、一般に身体というのは(毛髪や爪など細胞の死骸で構築する部分を除き)個々の細胞は約4週間で死んでそれまでに細胞分裂して新しいコピーを作り入れ替わるとされていますから、つまり約4週間くらいで全身の細胞が死に絶えて、身体が生きながら腐って溶けていく病状になります。これが『はだしのゲン』などでも描かれた被曝してから数日から数週間で嘔吐と血便を繰り返して死んでいく人達に起きていたことです。

平成11年9月30日に茨城県の核燃料加工施設で発生した東海村JCO臨界事故では、3名の作業員が高線量被曝して、うち2名がDNAを大量に破壊され1名は83日間かけて、もう1名は211日間かけて、ゆっくり身体が溶けながら死んでいきました。Netflixのドラマ『THE DAYS』でもその様子がリアルに描かれていました。アメコミ映画好きにも判りやすく説明すると、全身が『デッドプール』の中身みたいな容姿になって死にました。

この放射線被曝で身体が溶ける現象と、最初の爆発時の熱線で身体が溶ける(焼け爛れる)現象は、なんとなく見た目が近いので混同されている人が多いのではないでしょうか。

●爆発当時のブルースの状況は

さて、ここまでで中性子爆弾と放射線の恐ろしさは十分説明できたと思うので、改めて、爆発した瞬間のブルースの状況を整理しましょう。

ブルースがタリアが運転するトレイラーを事故らせて、中性子爆弾を飛行機にケーブルで繋いだ時点で、爆弾に搭載されたタイマーは1分57秒でした。

そこから、セリーナと話して→セリーナとキスをして→飛行機に飛び乗って→ゴードンと少し話して→飛行機で爆弾を持ち上げて(ここまでで約1分を消費)→海に向かって飛んで→障害になるビルをミサイルで破壊して→子供達が乗るバスの横を通って→橋を飛び越えて→海に向かって一直線に飛び立ちます。

1分50秒なんて一瞬で使い切りますよ。(苦笑)

Batman (1966)

しかもブルースが爆弾を運び出すのに使えた時間は1分です。

ブルースがここで乗っている飛行機は正確には回転翼機(ヘリコプター)ですが、ヘリコプターは構造上300km/hくらいまでしか速度を出せないので、あの短時間で十分な距離を取ることはできません。

もう一度かきますが、放射線に特化した中性子爆弾ですよ。熱線や爆風は小さくても、DNAを直接破壊する放射線はガンガン飛んでくるのです。

●本当は怖いダークナイトライジング

以上のことから、導き出される結論は《ブルースは致死量の放射線を被曝したと考えられる》ということです。

よって、ブルースは発癌リスクがとんでもなく上がって、いつ病気になるか判らない恐怖と闘いながら生きていく状態なのです。

だからこそ(登記してある)財産は全て孤児院とアルフレッドに譲って、バットケイヴもロビンに譲って、自分は残り僅かな時間を必要最小限のお金(へそくり;裏金)だけ持って細々と生きる覚悟をしたのです。

これが私が考える《ノーランの悪意》の核心であり、本作が抱える一番怖い部分です。

強力な熱戦や爆風を浴びて一瞬で命を落としたのでもなく、これからの余生を健康に生きられる保証も限りなくゼロに近く、ただ病気の恐怖に怯えながらブルースは過ごすのです。こんな悪意に満ちたバッドエンドがありますか!?

▼考察(映画の要素から読み解いていく):

●ノーランはそれとなく匂わせている

なぜ私がこのような解釈をしたのかというと、そもそもこのシークエンスの描写はかなりおかしい部分が多いからです。

1)海へ出たはずなのにビルの影

説明するために連続して写真を載せます。

邪魔なビルを爆破して
無事に川に抜けたバットマン
ビルを横目に
さらに海を目指す
橋を越えて、まだ海は先
見守るブレイク
ようやく海岸線まで来た
はい、ここでバットマンの顔

実はこの時点でバットマンの左側にはもうビルがない筈なのですが、なぜか操縦席のバットマンの顔にビルの影がかかります。動画で見るとよく判ります。これはどういうことでしょうか?

2)やけに穏やかなスモーク

さらに連続写真を続けます。

先ほどと同じ場面です
見えなくなるくらい沖まで来て
はい、ここで爆弾のクローズアップ(残り4秒)

このショットの爆弾ですが、びっくりするくらい穏やかにスモークが流れています。高速で飛んでいる飛行機に吊るされているようには全く見えません。

さらにタイマーの位置は飛行機のフックをかけた位置と近いので、ほぼ真上を向いています。であれば、この部分はもっと夕陽を受けて黄色く光って見える筈です。しかし映画ではむしろ青白い室内のような味気ない照明です。

これまでノーラン映画では、たとえ設定が非現実的でも、そのショットごとの見せ方だけはリアルにこだわって、だからこそノーランマジックに皆が騙されてリアルに感じるのが売りでしたが、このショットには明らかにそういう要素が欠如しており、異質で浮いています。

なぜノーラン組がこのようなヤケクソな仕事をしたのでしょうか?

3)バットマン泳げないよね

ついに爆発
よかった、安全な距離だ!
核爆弾らしいキノコ雲
ゴッサムシティからは、この遠距離

この映画でブルースは足に矯正器具をつけています。よって泳ぐようなしなやかな動きが難しいです。さらに、先ほどタリアにナイフで脇腹を刺された直後なのでめちゃくちゃ痛くて、絶対に長時間は泳げません。

爆発の前に飛行機から脱出したとしても、海に落ちたと考えられるので、これは助かる見込みがありません。これまではアルフレッドが迎えに来てくれたり、フォックスが手配した飛行機に捕まったりしていましたが、そういうサポートはなくて、自力で泳いで帰らなくてはならないのです。しかし、そんな体力はありません。

ちなみに季節は冬で、雪が降ってますからね。長時間氷水に浸かっていると人は簡単に凍死しますよ。

ここでは3点指摘しました。このように映画の最後だけ、急に演出が雑になっているのです。なぜでしょうか?

私はこれはノーランからの隠されたメッセージだと解釈しています。わざと不自然な演出、というか《それまでとリアリティラインが異なる演出》にすることで、視聴者に「今見ているものを疑え」と訴えかけているとしか私には思えません。

●ノーランが判りにくくした理由

要するに会社(スタジオ側)の都合でしょう。

思うに、ノーランは初期案から、この作品でバットマンを殺すつもりだった筈です。それも放射線被曝という最強に最悪でシリアスな方法で。でないと、第3作であそこまでブルースの身体をボロボロにしませんよ。あるいは、第2作の《純然たる悪》の存在ジョーカーのインパクトを超えられませんよ。核の恐怖くらいしか選択肢が無かったと思うのです。

それで物語や脚本を練っている段階でプロデューサーとエグゼクティブプロデューサー(=出資者;当時のワーナー社長など)に中間報告するわけです。この作品でバットマンは被曝して死にますと。

しかし常識的な感覚を持ったプロデューサー陣であれば、こんな提案はまず承諾できるはずもありません。

ビジネスの観点で考えて、人気のキャラクターを殺すのは勿体無いです。グッズの売り上げに響きます。スタジオはチャンスがあれば続編を制作したいと常に考えるものです。

エンタメの観点で考えて、そもそも子ども向けのヒーロー映画で主人公が死んでしまうなんてできません。個々の作品はどうなのかとか、いろんな意見があるとは思いますが、このヒーロー映画というジャンル全体としては子供達に夢を見せ続ける使命があるのは間違いありません。

政治的な観点で考えて、主人公が放射線被曝で病気になるなんて認められません。そもそもアメリカでは原子爆弾は自国の兵士に犠牲者が増えるのを防ぐために落として戦争を早期終了に導いた《正義の爆弾》なので、それが原因でヒーローが病気になるとかシャレになりません。米国はよくヒロシマとナガサキに落として終戦になったからオオサカやトーキョーに落とさずに済んだのだと正当化しますが、それってサノスの指パッチンと本質的には変わりませんからね。

よって、プロデューサー陣が総出でノーランの野望を止めにかかった筈です。その結果、じゃあ監督の腹の中ではそういう設定にしても良いから、どちらとも解釈できるような要素を追加して、パッと見はハッピーエンドにしろ。…というところに着地させたのだと思います。

それで後からシーンを追加したから、私が上記で指摘したような科学的にリアルじゃないショットや、ヤケクソに素材を使い回したような雑な編集が目立つのです。

こんなことをするスタジオだから、ワーナーは。だからノーランは『オッペンハイマー』を撮るためにユニバーサルに移籍するしかなかった。というのが私の読みです。

●オートパイロットは後付けだろう

そして、映画で葬式の後にフォックスが《実はブルースがすでにオートパイロットを完成させていた》ことに気づくという描写があります。

これも、おそらくプロデューサー陣に説得されて追加したものだと予想します。

直前にセリーナにさえ「オートパイロットは無い」と発言しているあたり、敵を欺くにはまず味方からを実践しているような、いつものバットマン仕草ではあるのですが、これも私は疑わしいと思っています。

要するに、どちらとも取れるように後付けで足されたエピソードでしょう。おそらくプロデューサー的な存在の誰かに「そんなもん自動操縦でも何でも使って解決しろ」とか言われたんじゃないでしょうか。(笑)

十分安全な位置で助かるつもりだったなら、一瞬だけ海岸線のあたりで飛行機から黒い物体が海に落ちるとか、もう少しネタを仕込めた筈です。しかしそういうことをせずに、説明だけで済ませている点が非常に怪しいです。


…と私は思います。

信じるか、信じないはか、あなた次第。(笑)

(了)

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