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ナタリー・ポートマンの筋肉は本物なのか?(+映画『ソー:ラブアンドサンダー』感想)

メイキング動画がYouTubeで公開されたことで議論を呼んでいるようです。この騒ぎをまとめた海外の記事を日本語訳しながら解説していきます。

▼翻訳)ラブアンドサンダーの筋肉に疑いの目:

https://www.dailydot.com/unclick/natalie-portman-cgi-arms-thor/

シリーズ4作目にしてまさかのカムバックを果たし、筋骨隆々なマイティ・ソーに変身したジェーン・フォスターを演じたナタリー・ポートマンですが、彼女の筋肉が4月の予告編公開からSNSで盛り上がっていました。しかし売れっ子にはアンチが付き物です。以下は7月11日のDaily Dotの記事を引用して日本語訳したものです。

ソーラブアンドサンダーのナタリー・ポートマンの演技については、彼女の腕の筋肉の話題で持ちきりだ。しかし最近ではマーベルがCGで作ったのではないか?彼女が筋トレと食事で作ったという報道はフェイクではないか?という疑惑が大きくなりつつある。

ポートマンの肉体改造は映画の公開前からずっと、撮影現場のパパラッチ写真などもありファンを魅了してきた。ぶっちゃけ、最近のMCU映画ではヒーローを演じる俳優が体を鍛えるのはお決まりのプロモーションになりつつある。

https://www.girlswithmuscle.com/forum/thread/1547192/
https://www.masculinedevelopment.com/chris-pratt-workout-guardians-galaxy-get-lean-toned/
https://www.dailydot.com/irl/kumail-nanjianis-eternals-body-memes/

しかしクリス・プラットやクメイル・ナンジアニと異なり、ポートマンの筋肉を信じない人達が居る。つまり、この疑惑の根底には女性差別の考え方も見て取れる。証拠はあるのかって?メイキング映像で彼女の腕にVFX用のドットが映っていたのだ。

THOR: LOVE AND THUNDER (2022) Behind the Scenes Featurette

ナタリー・ポートマンのCG筋肉疑惑はTwitterとRedditで素早く広がった。でも私には気になることが二つある。A)クリス・ヘムズワースの腕にも同じくVFX用のドットがある。これはCGで鎧などを追加するためだ。B)人間の筋肉はいつも全く同じ形ではない。

最近のハリウッドでは最高の肉体を見せるための技術に溢れており、スクリーンに映った時に完璧に見えるようにする。つまり現実世界でリラックスしてる時は柔らかくも見える。女性の場合は特に。女子プロレスラーだってそうだ。だからヘムズワースと比較しても意味はないし、ポートマンは10ヶ月訓練したとトレイナー(Naomi Pendergast)は語る。

VFX用ドットが指摘された映像だって、ポートマンの腕はいつもよりは大きい。パパラッチの写真でもそうだった。これらのことから、ポートマンは映画では「決めポーズ」のために力を込めていたか、もしくは他の映画でも当たり前に使われるCG修正で筋肉を少し増量していたかのどちらかだろう。

このCG疑惑は製作陣がきっぱり否定している。身長である。ポートマンは160cmだがマイティ・ソーになるためには180cm必要だ。ケヴィン・ファイギは「我々が魔法を使ったのは彼女の背を高くすることだけで、他は全て彼女自身の役作りによるものだ」とTotal Filmで語った。

https://www.gamesradar.com/natalie-portman-on-being-a-newbie-thor-in-love-and-thunder-and-her-preparation-for-the-role/

同作のプロデューサー(Brad Winderbaum)もWall Street Journalで「ナタリーは役作りのために腕の筋肉を作ったけど、20cmも身長を伸ばすのは不可能だ」と語る。これらの説明は彼女の腕のドットを完璧に説明するが、筋肉がフェイクだと信じる人達には通用しないだろう。

※YouTubeにも『ナタリーはクリスと向き合うには背が低すぎる』という動画がある。

我々(Daily Dot)はナタリー・ポートマンの事務所にコメントを求めている。

海外記事からの引用はここまで。なお最後の一文によると、ナタリーの事務所からの返信はまだ無いようです。

▼記事に対する私の感想:

半分は真実だけど、半分は嘘が混じってる。という感じですかね。

ちょっと印象操作の臭いもします。

少なくとも、記事の中の「これらの説明は彼女の腕のドットを完璧に説明する」は明らかに間違いです。

身長を高くするためなら「腕だけにドットを入れる」ことの説明にはなりません。もっと言うと、身長を高くする「だけ」なら、そもそもドットを入れる必要がありません。この記者のロジックは誤りです。

ケヴィン・ファイギとプロデューサーがどのような文脈で「身長を高くしただけ」と発言したのかは分かりません。つまりドットに対する説明のために発言したものではない可能性があります。「ナタリーはすごく頑張ったんだ!僕らがやったのは彼女の背を高くすることだけだったよ!」とゴキゲンで映画をPRしていただけかもしれません。その場合、そうした発言をライターさんが都合よく引用してきただけのように見えます。

そもそも、記事のタイトルが『トロールたちはナタリーポートマンの腕はCGIだと信じている』になっており、このように懐疑論者のことを「トロール」と表現してる時点で、ライターさんの敵対心がむき出しです。(苦笑)

troll トロール
1: (in folklore) an ugly creature depicted as either a giant or a dwarf.
(昔話での)醜い生き物のこと。多くの場合は巨人かドワーフを指す。
2: a person who makes a deliberately offensive or provocative online post.
インターネットでわざと攻撃的または気分を害する投稿をする人。

さらに記事の中には「懐疑論の根本には女性差別がある」という一文もしれっと入っています。たしかに中には「女があんな筋肉つけられるわけないだろ」と発言してる輩もいるかもしれませんが、全員がそのような感じだと決めつけるのは問題でしょう。

以上のことから、このライターさんは典型的な『切り分けができないタイプの残念な人』だと思われます。もしくは、わざとバカなふりをして、「ナタリーポートマンの筋肉を疑う人の方がおかしい」という雰囲気のヨイショ記事を書いているだけの可能性があります。

ちなみにライターさんは、名前はギャビア・ベイカー=ホワイトロウ(Gavia Baker-Whitelaw)といって、女性の方です。プロフィール写真の眼光が鋭くてちょっと怖いですね。DailyDotのお抱え記者で専門はSF映画なのだそうです。名前に「白い法律white law」という文言が入ってるあたり、なんか面倒臭そうな感じもします。深読みしすぎかもしれませんが(苦笑)

▼筋肉CG説に対する私の意見:

実は私自身はこの記事を読む前に映画を観ました。

その時点で、CGで微調整していると見抜きました。

ラブアンドサンダーのナタリー・ポートマンは筋トレと食事で腕を太くしたのは間違いないですが、腕が目立つ時だけCGで盛ってました。このため、一つのシーンでもカットごとに太さがコロコロ変わるので、気になって映画に集中できない時があって困りました。(笑)

ネタバレを喰らいたくなかったのでメイキング映像は映画の後日に観ました。だから、後からナタリーの腕のドットを見て「ああやっぱりな」という感じでした。

私はスポーツや武道の経験があり、そこで培った観察眼のおかげで、人の筋肉を観察することには自信があります。特に格闘技経験者なら劇中でムジョルニアで変身後のジェーンの身体の形が何度も何度も変わっていたことに気づいた方は結構いたと思います。パッと見ただけで相手がどのくらい強いか見極める必要があるので。多くの方には分からない些細なレベルの差分かもしれませんが。

とはいえ、私の観察眼をいくら自慢しても説得力に欠けると思うので、日本が誇る筋肉のプロフェッショナルの発言も引用しておきましょう。

▼なかやまきんに君の意見:

https://eiga.com/news/20220705/24/

公開直前プレミアに登壇したなかやまきんに君が興味深い発言を残しております。

きんに君ならではの観点で本作を語る「プチ筋肉講座」が開講され、ソーとマイティ・ソー/ジェーン(ナタリー・ポートマン)がコスチュームに身を包む2ショット写真が紹介されると、「ジェーンの上腕三頭筋を見てください。コスチュームを着るときに出るのは腕の筋肉。見えづらい角度でも筋肉の隆起が見える。それはすごいことなんですよ」とハイテンションで説明し、「さらに極秘ポイントをお伝えすると、シーンによってジェーンの筋肉が違っているんですよ。そのシーンに合わせた身体作りをしているのでしょうが、どんな撮影スケジュールなのかが気になりますね」と、ナタリー・ポートマンの役者魂に賞賛を贈った。

重要なのは後半です。

きんに君は、筋肉ネタ一本で20年以上日本の芸能界のトップで活動するタレントであり、先日にアメリカでボディビル大会(シニアの部)でも優勝した名実ともに本物の筋肉プロフェッショナルです。

そんな彼が「シーンごとに筋肉が違う」と見抜いたのは大きいです。

注意したいのは、彼は筋肉のプロですが、ハリウッド映画のプロではありません。おそらく彼は「ハリウッド映画ではCGで修正するのは当たり前」だと知らないから、この発言になったのでしょう。

▼アメリカの筋肉YouTuberニキの意見:

https://youtu.be/m_T6gHmdCiw

もう一人くらいプロの意見を参考にしてみましょう。

150万人の登録者を持つGregg Doucetteが4月に出した動画です。

全訳してると長すぎるので、こちらはポイントをまとめます。

・予告編が公開されてナタリーの筋肉が話題だね!
・彼女は筋肉増強剤やプロテインを使ったのか?
・トレーニング開始時の女性は筋肉量が増えやすいからか?
・カメラアングルやCGで効果的に見せているのか?
・実際にはこれらを複合させたのだろう。
・トレーニング前の彼女は痩せてるけど筋肉も脂肪も少しある。
・撮影開始までの期間は4ヶ月。
4ヶ月では痩せることは出来ても、あんなに筋肉は付かない。
・しかも彼女はヴィーガンやで。
・筋肉増強剤を使えば不可能ではないが見た目からして多分使ってない。
・彼女がステロイドを使ったと思って安易にマネしないでほしい。
・筋肉を少し増やして脂肪を減らすだけで見た目は大きく変わる。
・写真だけならフォトショップで少し加工するだけでムキムキに見える。
・SNSに出回ってるムキムキの写真や動画はほとんどフェイクやで。
・最初の一年目なら女性は毎月2キロ筋肉を「理論上は」増やせる。
・でもあくまで理論値であって、現実に生活しながらでは不可能やで。

映画のマジックが使えないパパラッチ写真を見たら実態が分かる。
・彼女は引き締まった身体だけど特別に大きくはない。
・彼女は40歳だけど20歳だとしても十分に健康的で綺麗な身体やで。
・画像加工もない、豊胸手術もしてない、自然で綺麗な身体やで。

なかなかキャラが強いオッサンでしたが、言ってることはすごく真っ当なことばかりだと思います。

▼逆の視点で考えてみる:

左の人物は合成。身体も顔も偽物。
https://youtu.be/m_T6gHmdCiw

逆に、あの筋肉が全部本物だったと仮定してみましょう。

この時、大きな問題が生じます。

あの筋肉が本物だったなら、痩せているシーンをどうやって撮影したのでしょうか?

服を着てても分かるくらい、病気のジェーンは細かったですよね。

もちろん皆さんご存知の通り、MCUにはキャプテン・アメリカ第1作やエンドゲームのトニーで実績はあります。つまり同じ技術で痩せたジェーンを実現可能ではあります。

でも、だとしたら、そちらのVFXを宣伝しても良いものでしょう。しかし今のところそのような苦労話は出てきていませんね。クリス・エヴァンスの時はかなりPRしていましたが、今回は何故でしょうか。

https://screenrant.com/captain-america-chris-evans-skinny-steve-cgi-how/
https://imgur.com/t/iron_man/kOPGrmP

答えは簡単で、ナタリーの腕は「太すぎない」だったので、衣装だけで十分に着痩せして見せることができた、なのではないでしょうか?

(EGのトニーと同じくネタバレ防止の観点からなのかもしれませんが)

▼筋肉に対するナタリー本人の意見:

https://youtu.be/mu7HDtvhhS0

それでは、満を時して、最後のカードを切りましょう。

なんと、ナタリー本人がインタビューで答えているのです。

[Interviewer] So, somebody online said "Love and Thunder" is that the name of the movie, or is what Natalie Portman names each of her arms.
質問者:これはネットで誰かが言ってたんだけど、『ラブ&サンダー』は映画の題名じゃなくて、ナタリー・ポートマンが左右の腕につけた名前なんですって。
[Natalie] Lol.
ナタリー:(笑)
[Interviewer] So, how did you do it?
質問者:それで、どうやってあの腕を手に入れたのですか?
[Natalie] Okay. Well, it was really exciting to obviously to have the opportunity to play a superhero, given that task of becoming a six-foot character as a five-three woman, which is, you know, a combination of me working hard and also a lot of movie magic! So, it was great because I think women, you know, we're usually asked to get as small as possible and, you know, almost disappear. And, to be asked to like get as big as possible like, eat as much as you can, lift as much as you can, is like pretty wild maybe once in a lifetime kind of request. 
ナタリー:そうね、まずこのような機会を貰ってとてもエキサイティングだったわ。スーパーヒーローを演じるの。160cmの女性が180cmのキャラクターをよ。それは頑張ってトレーニングした私と、たくさんの映画のマジックのコンビネーションね!これは素晴らしいことよ。思うんだけど、女性っていつも可能な限り小さくなるように求められるでしょ。もう消えて無くなるんじゃないかってくらいに。でも今回は、可能な限り大きくなって、可能な限りたくさん食べて、可能な限りリフティングで持ち上げて、これってめちゃワイルドよね。それこそ人生で一回あるかないかっていうくらいの。

https://youtu.be/mu7HDtvhhS0

はい。

「ムービーマジック」と言葉を濁していますが、彼女の努力「だけ」ではなかったことは証言が取れました。

もちろんムービーマジックの中には、CGの他にも照明やカメラ角度などの古典的な手法も存在はしますが、だとしたら「CGだけは使わなかった」くらいのノリで、もっと強調して良いところだと思います。身長の話も混ぜ込んでボカすあたりはさすが上手いですね。ディズニーから想定問答が与えられていて、よく準備されていたのでしょう。

何より、現在の彼女の肩と腕の細さを見てください。普通に考えてあのレベルまで筋肉質な腕になったら、短期間でここまでは戻らないですよ。(メイキング映像に映っている程度の適度に脂肪の乗った太さなら十分考えられる範囲だと思います)

「めっちゃ鍛えた・アンド・たくさんのムービーマジックやで😀」
https://youtu.be/mu7HDtvhhS0

▼まとめ:

ここまで書いてきたことを整理しましょう。

  • メイキング映像には腕にVFX用のドットが映っている。

  • 少なくとも身長を高く見せるためにVFXが使われたのは事実。

  • 目立つシーンだけCGで筋肉を強調しているように私には見えた。

  • なかやまきんに君は「シーンごとに筋肉が違う」と発言。

  • 登録者150万人のYouTuberはこの短期間での増量は不可能だと分析。

  • 後日になってナタリー本人も映画のマジックとの合わせ技だと発言。

という感じになりました。

最終的な判断については読者の皆さんに委ねます。

なお私自身としては、CGで筋肉を強調したことには確信していますが、そもそも筋肉を多少CGで盛るのは「全然アリ」という考えです。なんなら役者さんの顔のメイクと本質的には同じだと思うからです。

ナタリーの場合は、痩せ型の40歳の女性が4ヶ月であそこまで筋肉をつけたのは十分に賞賛されるべきことだし、あそこまで実物を太くしたからこそ筋肉CGが本物に見えやすいという側面もあります。

私は未確認なのですが宣伝文句の中には「100%天然の筋肉です」というものがあったらしく、さすがにそれは誇大広告だとは思いますけどね。それだと嘘になっちゃいますから。

ただし一方で、観客側のリテラシーの問題もあるかなと思います。

たとえば実写にこだわることで有名なクリストファー・ノーラン監督だって撮影時に使う爆破装置や安全用のケーブルやカメラなどを後からCGで消しています。

https://youtu.be/OFWOsUSd3PE

ノーランは「実写で出来る部分は実写でやる」だけで、CGを使わないとは言ってません。トップガン・マーヴェリックだってCGをたくさん使っています。それを勝手に「実写にこだわるならCGは全く使わないはずだ」と勘違いして、怒ったり落胆するようなことは避けたいものです。

美しい顔のスターだってメイクで肌荒れを隠すことはあります。今回のナタリー・ポートマンの腕の筋肉CG加工もそういうレベルの話だと思います。

了。

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