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【本当にいらない?】仲卸業者の存在について

以前、卸売市場の持つ機能について紹介する記事を書きましたが、日本では1つの卸売市場内に2種類のプレイヤーが共存しています。

1つは産地から出荷された商品を受け取る卸売業者(大卸とも言います)なのですが、実はその卸売業者と買付人(小売店や飲食店の仕入れ担当者など)の間に「仲卸業者」というものも存在するのです。

この説明だけ読むと「仲卸業者」なんてなぜあるのか?と思うこともあるかもしれませんが、仲卸業者もまた、大卸と同様に日本の青果流通において重要な役割を持っています。
ですので、今日は仲卸業者のことについて書いてみました。

先にまとめを書きます。

まとめ
中央卸売市場自体が農産物の安定供給(消費者・生産者双方にとっての状況改善)を目指してできたものであり、
仲卸業者は他国と比べて相対的に規模の小さい日本の小売企業や飲食企業へ農産物を安価で販売するために機能しています。


仲卸業者とは何か

令和3年12月現在で、仲卸業者は全国に5,205社あります。
市場数自体は1,074なので、単純計算で1つの卸売市場に5社弱の仲卸業者が入っていることになります。

青果の主な流通経路(赤字が市場流通)

また、青果でいうと仲卸業者の主な販売先はスーパーや量販店等の大規模な小売店で販売額の65%を占めています。次点で八百屋等の一般小売店(18.8%)、加工業社や飲食店(15.4%)となります。

※八百屋目線で仕入れについて書いた記事はこちらです。

卸売業者と仲卸業者の違い

上の図の通り、卸売業者と仲卸業者の関係性は、基本的に卸売業者の一段下流に仲卸業者がいるイメージです。
それを元に違いをまとめると以下のようになります。


卸売業者

  • 産地の生産者から販売委託されたり買付集荷をした農産物を、仲卸業者や買付人(小売店や飲食店の仕入れ担当者など)へ販売する

  • 買参権を持っている業者にしか販売ができない

  • 出荷者や産地などの売り手側に立っている

仲卸業者

  • 卸売業者から商品を買い受けたり、産地から直接買い付けたりして買付人へ販売する

  • 一般消費者など買参権を持っていない人へも販売が可能

  • 飲食店に商品を納める等、買い手側に立っている


世界的にも珍しい共存関係

卸売市場内に卸売業者と仲卸業者という2つのプレイヤーが共存する形は、日本で初めて中央卸売市場ができた1927年にまで遡ります。
当時、国が卸売市場の動向を監督するために市場内の卸売業者の数を制限するにあたり、卸売業者同士の合併を進めましたが、そこから漏れた問屋が仲卸業者になったとされています。

そして、現在でもこの形で卸売市場を運営している国は日本の他に韓国と台湾くらいと言われています。

卸売市場の成立過程についてはこちらに詳しく書いています。

仲卸業者が不要と言われる理由:問屋不要論

実際には仲卸業者だけでなく卸売業者全体に対してよく使われるものでもありますが、仲卸業社が不要な理由としてよく言われるのが「問屋不要論」です。

これは欧米と日本の商品の流通のスタイルを比較した時に、日本は欧米に対して多段階になる傾向があるのでその分コストが余計にかかってしまうので、そんな中間流通はカットして生産者やメーカーと消費者がダイレクトにやり取りをすれば良いのではないかという発想からできた考えです。

昭和30年前後に現れ始めたスーパーマーケットは、もともと欧米から持ち込まれた業態のため、それと同じ頃から問屋不要論も言われるようになったと言われています。

確かに一見、小規模な八百屋さんよりも規模が大きく、なおかつ店舗も全国に多数拡げるスーパーなどの大型量販店はわざわざ市場から買い入れずに、その購買力を生かして直接産地と取引をする方が理にかなっていると言えます。

しかし、日本の小売業界というのは意外にも寡占化が進んでおらず、少し古いですが2017年のデータではスーパー上位5社の業界全体でのシェアは約30%です。それに対しアメリカはさらに古く恐縮ですが2012年にはすでにスーパー上位5社の業界全体でのシェアは約45%で現在は更に寡占化が進んでいると言われていますし、イギリスは約65%(2014年)、フランスは約75%(2012年)も上位5社のみで占めています。

日本人はもともと、週末に車で大型のスーパーなどへ行き、そこで1週間分の食料品をまとめて買うというアメリカ式のスタイルではなく、毎日地元で買うスタイルの人が多いのです。

仲卸業者が存在する理由

問屋が必要というのは上に書いた通りですが、卸売業者だけではなく「仲卸業者」も同時に存在する理由としては仲卸業者の成立過程、多段階が故の合理性、業界の構造の変化に伴い求められる仲卸の役割から考えることができます。

仲卸業者の成立過程

江戸幕府以降にできた問屋制の市場から仲卸業者の元となる仲買人が誕生します。
この頃すでに後にできる中央卸売市場を国が監視したのと同じように幕府が営業許可を保護していましたが、この頃の幕府の目的は公的なものというより、保護によって支払われる冥加金による財源の確保を重視したものでした。
また、情報の非対称性や保護による問屋の地域独占、輸送技術や輸送道路の未発達による限定的な商圏により生産者・消費者は共に問屋に対して弱い立場をとっていました。(今の途上国にもよくある問題かもしれません)
そんな中、都市の人口増加や青果の生産拡大により問屋は拡大し、問屋の持っている業務の一部(代金決済・配送等)を担い、生産者と問屋・小売業者と問屋それぞれの間に入る形で仲買人は誕生しました。

大正時代になると公設市場ができるのですが、その目的は高騰している小売価格を是正するために小売業者と問屋の関係性を希薄化することでした。
公設市場ができる前の小規模な市場は排他的で参入障壁があったとされ、それにより小売業者間の競争も起きづらい状況であったとされています。
しかし、このような「小売段階」での対策だけでは問題が解決されず、川上の「卸売段階」を整理する目的で中央卸売市場ができます。

1923年に制定された中央卸売市場法では市場内での卸売業者の数は制限されていたため、仲買人は卸売業者に吸収されたり、合併をして卸売業者となる、もしくは廃業するしかありませんでした。
しかし、それが難しい仲買人が発生し仲買人組合として多額の補助金を国に求めたことにより、それだけの金額を呑めない国は仲買人を仲卸業者として中央卸売市場内に残すことにしました。

多段階が故の合理性

本来、中央卸売市場は買受人として小売業者を想定していたので、そこで仲卸業者が参入するのは想定外だった部分もあるのですが、日本の農業生産・消費の特性からすると仲卸業者の存在は必要であったとも言えます。

日本の農家というのは戦後の農地改革により、それまであった「地主と小作人」という関係性が解消され「小規模な自作農」が中心となりました。
このことが現在の農地の大規模化の妨げになっているという意見もありますが、この改革により貧富の差が是正されたのは間違いなく、日本が終戦から高度経済成長を経て一億総中流時代を迎える過程で農地改革の果たした役割は大きいです。(現にスペイン占領時代の大農園制度が尾をひくフィリピンでは農地解放が進んでおらず、このことが貧富の差が縮まらない大きな原因の1つとされています)

話が逸れましたが、日本の農家が比較的小規模であり、また先ほど書いたように小売業界の寡占化も進んでいないことから、日本では大型スーパーをもつ小売企業でさえも自らで仕入れるコスト(人件費等)よりも、仲卸業者に委託するコストの方が安いので、大型スーパーを持つ小売企業の仕入れでも仲卸業者が使われています。

業界の構造の変化に伴い求められる仲卸の役割

スーパー等の大型の小売企業の寡占化が進んでいない日本ではありますが、人口減少や高齢化に伴い小さい小売店が減っている中で、仲卸業者にとってスーパー等の存在感は増してきています。

中央卸売市場ができた当初は小さな小売店を相手にすることが想定されており、仲卸業者は買受人への分荷公正な評価が主たる役割だったので透明性の高いセリ取引の原則や、流通を乱すような仲卸業者による卸売業者以外からの仕入れは禁止とされていましたが、事前に価格や数量を決める契約販売での取引を行うスーパーでは、取引時に価格が決まるセリ取引や、入荷先・量を制限されてしまう卸売業者以外からの仕入れの禁止は時代遅れとなり改正されてきました。

仲卸業者は特定の品目を毎日、そして数年から数十年評価し続けている言わば「目利き」なので「評価」や、買参権を持っていない買受人が仕入れるための窓口としての「分荷」の役割が中核なのは間違い無いですが、スーパー等の大型小売店との結びつきを強める中で、以下のような役割の強化や変化を強めています。

  • 入荷:より豊富な商品を扱う・確実に荷を揃えるために卸売業者以外(産地や全国の他の仲卸業者)からも入荷

  • 加工:分荷の補助的機能ですが、パッキング加工など小分けでスーパーが売りやすくするための工夫

  • 配送:大型店への配送

  • 大規模化:スーパー自体は広域にあるため仲卸業者の取引範囲を超える範囲での取引を行うので、そういったスーパーの仕入れに対応するためにも大規模化の必要あり

たらればですが、中央卸売市場法ができた時に、仮に仲卸業者を排除すると、小売業界が力を持つ必要があるため、その前の公設市場を作った際に目的として掲げていた小売業界のカルテルのような状態を防ぐという目的は達成されなかったように思います。
農業は自然相手の仕事なので青果の流通も天候の変化などで簡単に影響を受けます。
そういった状況でも崩れにくい安定した物流を構築するためには仲卸の存在は必要なのです。

とはいえ厳しい現状

ここまで仲卸業者の日本での独自性や役割について書いてきましたが、実際のところは仲卸業者は減っているのが現状です。

そもそも日本ではコロナ前から飲食店が多過ぎると言われており、コロナの影響もあってこれまでギリギリでやれていた飲食店が廃業に追い込まれてしまったケースも多いと思います。(2020年の「飲食業」倒産件数は過去最高の842件)

そうなると飲食店をお客さんとするような仲卸業者も当然痛手です。
もともと営業利益率が1%を切るような業種ですから、小さい仲卸業者は大きな環境の変化には太刀打ちできません。(2019年の仲卸業者の営業利益率は青果:0.62%、水産:-0.07%、食肉:0.79%、花き:-0.08%)

主要な取引先のスーパー等の大型の小売業者が台頭する中で、取引量・価格の双方で契約を結ばれてしまうと仲卸業者としては、大量に仕入れて額をコントロールすることも、仕入れ値と売値の差分を調整することもできなくなってしまうため、経営としてとても難しいのが現状です。

今後、地方の人口減少と大都市の人口一極集中が加速すると現在進んでいる市場間の格差もより一層強まり、卸売業者や仲卸業者はさらなる痛手を被りますが、それだけではなく食料自給率もさらに下がることが懸念されています。
そうなると問屋不要論はいよいよ現実味を帯びた話になってくるのかもしれませんが、果たしてそれで良いのでしょうか。

※比べることにどれだけ意味があるのかはわかりませんが、農林水産省のデータでは北海道はカロリーベースの自給率が216%に対し、東京はすでに0.49%です(2019)https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/zikyu_10.html

最後に

今回は卸売市場という黒子のような存在の中でもさらによく知られていない仲卸業者について書きました。

中央卸売市場自体が農産物の安定供給(消費者・生産者双方にとっての状況改善)を目指してできたものであり、
仲卸業者は他国と比べて相対的に規模の小さい日本の小売企業や飲食企業へ農産物を安価で販売するために機能しているのです。

問屋不要論はイメージこそしやすく単純明快で分かりやすいので世間的に共感を得やすいのですが、日本独特の事情を考えてみると、今の流通の仕組みは意外に理にかなっているので、だからこそ国産の青果は現在でも8割近くが市場流通なのです。
しかし経営的に厳しい現状があるのも事実なので、市場も卸売市場法の改正などをして今後の社会の変化に合わせていこうとしています。

卸売市場のことは自分でも知らないことがまだたくさんあるのでまた何か書きます。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

参考
・青果物仲卸業者の機能と制度の経済分析
・農林水産省


Twitterでも農業やネパールについての情報を発信しているので良ければ見てみてください。

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