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セクシー 【掌編小説】

 その朝、私のドレスショップにやってきたのは、一羽の雌のクジャクでした。
 彼女はもじもじと恥じらいながら、長い足で敷居をまたいでそうっと入ってきました。
「あのう。どうかわたくしに、男性をひきつける魅力的なドレスを仕立ててくださいな」
 私は、まあ商売ですから、お客様を選り好みするようなことはいたしません。どんな方にも、いちばん似合うものを仕立てて差し上げるのが、職人の腕というものです。
 しかしさすがにクジャクのお嬢さんのドレスは経験がございませんので、とまどったのも確かです。
「お客様、男性というのは、つまり」
「もちろん、すてきなクジャクの殿方のことですわ。人間は女が積極的に着飾ってアピールしますでしょう。クジャクの女はいままで受け身に徹していました、それが当たり前だったんです。でも、そういうのって、時代遅れだと思いません? わたくし、これからはクジャクの女も努力するべきだと思いますの」
 なるほど、たしかにクジャクは雄ばかりが美しい飾り羽をもっていて、雌は地味なモノトーンです。彼女が不安になるのもわかるような気がいたしました。
「だれか、想う相手がいらっしゃるので?」
 私が尋ねますと、彼女は心持ち頭を下げて、
「女のわたくしに言わせるおつもりですの?」
と小さな声で、これはもう、肯定したのと同じことでしょうね。
 私は彼女のために知恵を絞りました。クジャクの殿方が彼女に恋をするように、なんとかそうなるようにしむけたいものだと。そりゃあもう、いろいろなパターンを考えたんですよ。
 次の日私が彼女に着せたのは、ちょうど全身を覆う大きさの、真黒な一枚の布切れでございました。
「さあ、これがお客様を一番美しく見せるドレスでございます。お相手の殿方のところへまいりましょう」
 あたまからすっぽりと布をかぶった彼女を連れて、私は雄のクジャクのすみかへまいりました。ええ、そうしましてね、彼の目の前で、その布を一気に取り払ったんですよ。
 布の下から現われた、彼女の生まれたままの姿を見た途端、クジャクの殿方は飾り羽をいっぱいに広げて叫びました。
「おお、なんと美しい、君は僕の女神だ! どうか結婚してください」
 おわかりでしょう。人間も鳥も、つまりはおんなじことなんです。
 どんな男も、ドレスなんか見てやしないんですよ。興味があるのは、中身だけでね。

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