『茜色に焼かれる』

前作『生きちゃった』ではインディー映画っぽい作りながら、周りに流される主人公を軸にした絶望ヒューマンドラマを作りあげた石井裕也監督。今回はシングルマザーを主人公にしながらコロナ禍などの世のどうにも出来ないことと、職場や学校などでの理不尽な出来事に振り回される親子を描いた重いヒューマンドラマを世に送り出した!

 

 

コロナ禍だけでなく、冒頭の交通事故のシーンも池袋で起こった某大事件を連想させ非常に現代的。そこから、自分ではどうにも出来ないで理不尽な出来事が次々と主人公親子の周りで起こるが、こうした理不尽な展開は石井裕也監督の前作『生きちゃった』に通じるものがある。

 

 

その上、亡くなった旦那の義父の施設の費用を出したり、他の旦那による不始末の費用も払い続けたり、どうにかなりそうなことまで引き受け、その全てを「頑張ろう」の一言で堪えて、乗り切ろうとするので悲壮感はますが、見ている側は若干苛つきを覚える。

 

直子が費用捻出のためにやむを得ず働くピンサロのシーンはリアリティがあり、しっかりと舞台裏も描く。この部分では『タイトル、拒絶』や『アンダードッグ』とも勝るとも劣らない。

直子の息子・純平の中学のシーンは放課後とそれ以降のシーンのみで、踏み込みが足りない。

 

 

要は、あらゆる世のルールと理不尽に振り回されるシングルマザーの親子の重いヒューマンドラマで、前作『生きちゃった』以上に是枝裕和監督作品の匂いが強い。『生きちゃった』のB面とも言え、同じシングルマザーのヒューマンドラマである長澤まさみ主演の『MOTHER マザー』と比べても絶望色は薄いが赤、朱を意味深に使った演出など見応えはある。石井裕也監督作品が好きな方は見ておいてほしい。

 

 

評価:★★★★

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?