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「にげだしたパンツ」

このお話は、寝る前の長男に「なんかお話して」と言われて、思いつくままにしゃべった創作です。

4歳長男の好きな要素や、長男の体験に基づいたエピソードを混ぜているので、一つのストーリーとしておかしなところもありますが、あくまで【我が家の長男】向けに話したことをそのまま書いています。
おかしな点も、ご容赦ください。


***


タロウくんのパンツは、逃げ出すことに決めました。

だって、タロウくんたら。
何回言っても、お風呂から上がってすぐにパンツを履いてくれないんです。


夜中。
タロウくんのパンツは、玄関のドアを開けて、勢いよく外に飛び出しました。

「わあい!じゆうだ!」

タロウくんのパンツはそのまま、星と月が明るい夜空の下を走り出しました。

たったか、たったか、たったか。


おや。
暗い夜道の向こうから、だれかが走ってきます。

それは、タロウくんの友達の、ヒロシくんのパンツでした。

「ヒロシくんのパンツさん、どこ行くの?」

「逃げ出したのさ!ヒロシくんたら、ぜんぜんパンツを履いてくれないんだもの」

「ぼくもさ!タロウくんたら、お風呂から出たあとも、ずっとおしりを丸出しさ。風邪引いても知らないんだから」


こうして、ふたりのパンツはすっかり仲良くなって、手をつないで走り出しました。

たったか、たったか、たったか。


車にひかれないよう歩道を通り、ちゃんと信号を守り、横断歩道を渡って、橋を渡り、坂を越え、森の方までやってきました。


ヒロシくんのパンツが言いました。

「ぼく知ってるんだ。うちの家のお父さんの古いパンツさんから聞いたんだけどね。森を抜けた山のふもとには、パンツの町があるんだって」

「パンツの町!?」

「そうさ。そこに行けば、きっとパンツの仲間がたくさんいるよ」

「よし、行ってみよう!」

タロウくんのパンツと、ヒロシくんのパンツは手をつないで、森をかけ抜けました。

たったか、たったか、たったか。



やがて、森を抜け、広場に出ると、そこに小さな看板が立っていました。


「パ、ン、ツ、の、ま、ち。ここだ!」

看板を通り過ぎてしばらく行くと、そこには小さな町が広がっていました。
真ん中には、大きなパンツの家があります。
そして、その周りでは、たくさんのパンツたちが、わいわい話したり、遊んだりしていました。

「いろんなパンツがいるねえ」

「大きいパンツ、赤ちゃんみたいな小さいパンツ、お、赤いパンツもいるね!」

どのパンツも、みんな楽しそうです。

タロウくんのパンツと、ヒロシくんのパンツも、その町の中に混ざりました。

町の中には、遊べるおもちゃやゲーム、洗剤入りの温泉もありました。

ふたりのパンツは、ふだんはズボンのせいでよく見えないテレビをゆっくり見て、いい香りの温泉で体をきれいに洗いました。

町の真ん中の大きな家の中には、ふかふかの布団や、パリッとアイロンをかけてもらえるコーナー、おいしい食べ物やジュースもありました。

こうしてふたりは、お日様がのぼる時間が近づいてくるまで、たくさんたくさん遊びました。

いつまでも、ここにいたいなあ。
そんなことも思いました。


やがて、お日様が少し見え始めました。
朝がやってきます。

すると、誰かが言い出しました。

「わたし、そろそろ帰ろうかな」

そのパンツは、もじもじしていました。
ピンクの小さなパンツでした。
みんなが、そのパンツのことを見ました。

「わたしの家のミミちゃん、そろそろ起きる時間なの。今日はお出かけするって言ってたから、着替える時、わたしを履きたいかもしれない」

そう言うと、ピンクのパンツは、森の向こうへ帰っていきました。

べつのパンツも言いました。

「たしかに俺も、今日は仕事でビシッと決めてやらなきゃならないって言ってたな。俺を履いていきたいかも」

黒くてパリッとした、かっこいいパンツも森の方へ走り出しました。

「そういえば私も、お母さんがお洗濯するって言ってたわ」

「ぼくも。あの子はおねしょが多いから、起きたらすぐに新しいパンツを履きたいかもな」

「よし、帰ろう、帰ろう!」

そう言ってパンツたちはみんな、持ち主のところに走り出しました。

タロウくんのパンツと、ヒロシくんのパンツも顔を見合わせて言いました。


「タロウくんもね、いつも朝ごはんの時に牛乳を膝にこぼしちゃうんだ。パンツまでびしょびしょになったら、ぼくのことを履きたいかもしれない」

「うん、ヒロシくんもさ。元気な子だからいつも外で砂場して、パンツまで泥だらけにしちゃうんだ。ぼくの出番が来るかもしれない」

ふたりはうなずき、また手をつなで、走り出しました。
パンツの町を出て、森を抜け、坂を下り、橋を渡って、家の方へと向かいました。

途中で別れ、タロウくんのパンツはそのまま、タロウくん家の玄関をそうっと開けました。
そして、だれにも見られないよう、こっそりと、タロウくんの引き出しに潜り込みました。


お日様がしっかりと出た頃。
タロウくんが起きてきて、朝ごはんを食べ始めました。


「うわ!」 パシャリ。

タロウくんは、手に持っていた赤いコップを滑らせて、牛乳をひざにこぼしました。

お母さんが拭いてくれました。
でも、ズボンもパンツもびしょびしょです。

「着替えなくちゃ」

タロウくんはそう言うと、服の入った引き出しを開けました。

開けると、水色の綺麗なパンツがちょこんと顔を覗かせました。

タロウくんは、水色のパンツを履いて、その上からズボンを履きました。
そうしてまた、安心して、ご飯を食べ始めたのでした。




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