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【ショート】プラトニックライフ【SSF】

※SSFとはScience spiritual fictionの略で作者の造語

1分で自分の望み通りの人生を体験できるというVRプロジェクト「idea」に私は参加した

同意書を書いて申請
1ヶ月後に審査を通過して
更にその翌月に脳内にチップを埋め込む外科手術、
更にまた翌月に脊髄へのデバイス挿入手術、
そしてまた更に翌月に経過観察の診察を終えて
はれて被験の日を迎えた

快晴で
平和で
凡庸に見える朝
だけど私だけ
いや、正確にはもうあと何人か
世界で特別な体験をすることになる
お先に行ってきます

コーディネーターに招き入れられた一室
人1人分入れる近未来型の流線型が美しいカプセル
これから日焼けでもするのかと思う

ラバーに似た素材のプラグスーツを見に纏った私は、さながら某カルト的人気アニメのパイロットのよう

カプセルにすっぽりと体を収めると
自動的にうなじのプラグにケーブルが差し込まれる
接続の瞬間はとても心地よかった
まるで最初からこの結合ありきで私の身体は創造されたのではないかと思うほどだ

透明だったカプセルの天井部分が
紺色のフィルムのような幕で覆われる
と同時にゴポゴポと謎の液体が
カプセルの中に充満した

ケーブルから流れてくる電流のようなもので
半ば夢うつつになっていた私に
恐怖心や抵抗するような身体的反射は起きなかった

液体が口腔鼻腔を通り内臓を駆け抜けていったあとで
微かにプシュッというような音がしたと思う

あとは現実とは変わらないリアルな世界が広がっていた
無意識に私は今の年齢の私をチョイスしたのだろう

だけど
大きな家
文句のつけようのないパートナーと子どもたち
あげればキリがないが
「こうであれば良い」と思うことは「全て」そうなった
酸いも甘いも苦いも辛いも
ロマンスも悲劇も喜劇も何もかも
何一つ不足はなく
安らかに満たされた一分間の人生を終えた

白衣を着たメガネの男性
何もいらない
何か話している
認識しているけれど
話したいという気持ちがない
一体何をすれば?
お金?なんの意味があるのか?
満たされた
選択肢の全てと
選んだ選択肢の太さ長さ
つまるところその量は十分過ぎるほど
私の心の穴を満たしていた
何を話せと?
死にたいとも思わない
何がしたいと?
何もしたくないとも思わない
「〜たい」「〜ない」がない
必要という概念がない

欲望?
価値?
貨幣?
愛?
平和?
刺激?
興奮?
スリル?

1分あれば十分だった
他には何もいらなかったし
もう欲しくない
とも思わないほど
ない

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