グッチ

スピノザ哲学と文学と、歴史や科学など、読書を愛するサラリーマンです。 <私の趣味遍歴>…

グッチ

スピノザ哲学と文学と、歴史や科学など、読書を愛するサラリーマンです。 <私の趣味遍歴> ヤンキー漫画→ビジュアル系バンド→プロレス→サーフィン→映画→文学→哲学思想→スピノザ

マガジン

  • GUTTIの小説

    短編、中編、長編、過去の作品から書き下ろしまで。私が執筆した小説を集めています

記事一覧

エッセイ:掌の太陽 ~わが家のひとり娘のこと~

 二月のことだった。吐く息が白かった。  千葉の、浦安の産婦人科の喫煙所で、熱い缶コーヒーを片手に、私は震える体を抑えるようにして、秒速で煙を吐いていた。 「そ…

グッチ
10時間前
3

エッセイ:イベントの聖地「海浜幕張」での思い出

   久しぶりに家族で海浜幕張にやってきた。東関東自動車道に乗れば、自宅からは三十分くらいの距離だ。  目的は駅前の三井アウトレットパークであるが、来る途中、幕…

グッチ
1日前
11

『フィッシュ・アイ・ドライブ』第8話:消えたフェラーリ

*  アキラはスピードを緩め、八潮のインターチェンジで降りる。 「八潮って、確かオウム真理教のアジトがあったとかで有名よね」 「そんなことまでよく知っているな」…

グッチ
1日前
1

『ポストマン・ウォー』最終話:赤い棕櫚

『ポストマン・ウォー』最終話:赤い棕櫚  指先で一枚ずつ、百枚束のお札をめくりながら、頭の中で数える。数えながら、頭は別の考えで、いっぱいになっている。   G…

グッチ
2日前
4

『ポストマン・ウォー』第41話:職業はポストマン

『ポストマン・ウォー』第41話:職業はポストマン  中谷幸平のすぐ傍で、さっきから一人で、ホール中央で踊り続けている女がいた。  その女は長身で、薄暗いクラブの…

グッチ
2日前

『ポストマン・ウォー』第40話:漲る自信

『ポストマン・ウォー』第40話:漲る自信  ドルジさんの片目の負傷をきっかけに、小説の題材になるかもと、勝手気ままに想像(妄想?)を巡らせていたことと、実際に今…

グッチ
2日前
2

『ポストマン・ウォー』第39話:密談と巨大組織

『ポストマン・ウォー』第39話:密談と巨大組織 「お前から飲みたいって珍しいな」  江原さんがそう言って、中谷幸平のグラスにビールを注ぐ。普段では絶対に行かない…

グッチ
2日前

エッセイ:人類はなぜ「泳ぐ」ことができるのか?

 運動不足を解消するために、私は週に1回のペースで、近くのスパに行き、屋内プールで泳ぐことにしている。  プールにいるのは、だいたい2時間くらい。まずはウォーキン…

グッチ
2日前
9

『フィッシュ・アイ・ドライブ』第7話:ノアの方舟

* 「わりい、俺がバカなせいか、脳の整理が追いつかないわ」  希虹(のあ)から、思わぬ話を打ち明けられたアキラは、戸惑いを隠しきれなかった。  とにかく北上して…

グッチ
3日前
3

『ポストマン・ウォー』第38話:国際戦争

『ポストマン・ウォー』第38話:国際戦争  中谷幸平は、とても気が気でなかった。あの女がなぜそんな話を知っているのか? 本当に知っていたとして、『カササギ』が事…

グッチ
3日前
3

『スプラトゥーン』の偶然的な世界が私たちの社会構造に似てしまう理由

任天堂の人気ゲーム『スプラトゥーン』  私も『スプラトゥーン2』の頃からはまっており、『スプラトゥーン3』はいまも熱中している、大好きなゲームである。  ゲーム…

グッチ
5日前
9

『フィッシュ・アイ・ドライブ』第6話:魚人の血をひく者?

*  昨夜の発砲事件により、六本木のショーレストラン『熱帯夜』には、警察の取り調べが入った。翌日も、オーナーと一部の従業員が警察に呼びだされており、事情聴取が続…

グッチ
6日前
4

『ポストマン・ウォー』第37話:『カササギ』の噂

『ポストマン・ウォー』第37話:『カササギ』の噂 「『カササギ』なくなっちまったみたいだな」  朝の更衣室で、矢部さんは中谷幸平に会うなり、ぼやくように言った。…

グッチ
7日前
4

『フィッシュ・アイ・ドライブ』第5話:危険な元カレ

*  警察との「鬼ごっこ」は慣れたものだった。撒くには撒いたが、東京中が相当な騒ぎになっているので、江崎南斗(えざきみなと)はすぐに溝口に連絡をし、鉄砲玉をよこ…

グッチ
9日前
7

『ポストマン・ウォー』第36話:おれ、やっちまったよ

『ポストマン・ウォー』第36話:おれ、やっちまったよ  大通りに出て、G町駅の方面に向かっている時に、サイレンを鳴らして、猛スピードで駆け抜けるパトカー数台とす…

グッチ
9日前
4

『ポストマン・ウォー』第35話:イエロードラゴンとのご対面

『ポストマン・ウォー』第35話:イエロードラゴンとのご対面  あとはその胸に刻まれているという黄金の龍の刺青が確認できれば良かった。風呂に入っているとは何て好都…

グッチ
10日前
8

エッセイ:掌の太陽 ~わが家のひとり娘のこと~

 二月のことだった。吐く息が白かった。  千葉の、浦安の産婦人科の喫煙所で、熱い缶コーヒーを片手に、私は震える体を抑えるようにして、秒速で煙を吐いていた。 「そんな思いまでして煙草を吸いたいものかね」とよく、お義母さんには笑われていた。  体が震えているのは、寒さだけではなかった。  病室に戻り、お義母さんと交代で、妻の背中をさすった。  陣痛にはテニスボールがよいというので、近所のイオンで買ってきたテニスボールを、妻の背中や腰、脇腹あたりに押し付け、何度も撫でまわ

エッセイ:イベントの聖地「海浜幕張」での思い出

   久しぶりに家族で海浜幕張にやってきた。東関東自動車道に乗れば、自宅からは三十分くらいの距離だ。  目的は駅前の三井アウトレットパークであるが、来る途中、幕張メッセのそばを通ってきた。今日は何のイベントかはわからないが、メッセの外は色鮮やかなコスチュームに身を包んだコスプレイヤーやTシャツ姿のカメラマンで溢れかえり、賑やかさをみせていた。  幕張メッセは、私にとっても無縁の場所ではない。10年前、私はイベント制作会社でイベントプロデュースの仕事をしていたので、メッセに

『フィッシュ・アイ・ドライブ』第8話:消えたフェラーリ

*  アキラはスピードを緩め、八潮のインターチェンジで降りる。 「八潮って、確かオウム真理教のアジトがあったとかで有名よね」 「そんなことまでよく知っているな」とアキラは変に感心する。 「隠れるにはちょうどよいかもね」    希虹はそう軽口を叩くと、ククと声を立てて笑った。  アキラはウインカーを出し、県道に出る。土地勘がまったくないので運転も慎重だ。  とりあえず、希虹の服を買うのが先だったが、時刻は午後十時になろうとしていた。 「ダメだ、ワークマンもしまむら

『ポストマン・ウォー』最終話:赤い棕櫚

『ポストマン・ウォー』最終話:赤い棕櫚  指先で一枚ずつ、百枚束のお札をめくりながら、頭の中で数える。数えながら、頭は別の考えで、いっぱいになっている。   G町の中国マフィアはきっと、ざわついている。  イエロードラゴンという自分たちのボスを失い、誰の犯行かと躍起になっているのだろう。日本のヤクザが出頭したが、そんなことを彼らは信じない。  モンゴルの仕業だ、もっといえばそれを裏で操っている、ロシアンマフィア「レッドウイング」の仕業だ。    彼らの本拠地、K町は間

『ポストマン・ウォー』第41話:職業はポストマン

『ポストマン・ウォー』第41話:職業はポストマン  中谷幸平のすぐ傍で、さっきから一人で、ホール中央で踊り続けている女がいた。  その女は長身で、薄暗いクラブの中でも、日焼けした褐色の素肌が目立っていた。キャミソールとローライズのショートパンツからはみ出した腕と脚、二の腕と太腿の筋肉は健康的でさえあった。    女は、ホールの曲の終わりと、新しい曲への切り替わりの度に、両腕をあげて「フォー」と声をあげ、周囲の客と同様に盛り上がる。しばらく、女から目が離せないでいた。  

『ポストマン・ウォー』第40話:漲る自信

『ポストマン・ウォー』第40話:漲る自信  ドルジさんの片目の負傷をきっかけに、小説の題材になるかもと、勝手気ままに想像(妄想?)を巡らせていたことと、実際に今、目の前で起きてしまっていることの符号に、中谷幸平は恐ろしくなっていた。    モンゴルマフィアと中国マフィアの争い。    その確信を強めたマリの手紙。    そして、マリたちが出した大量の小包の開封により、自分は謹慎処分を受けたが、その推測は間違いではなかった。    マリたちに拉致され、彼女たちは中国マフィアを

『ポストマン・ウォー』第39話:密談と巨大組織

『ポストマン・ウォー』第39話:密談と巨大組織 「お前から飲みたいって珍しいな」  江原さんがそう言って、中谷幸平のグラスにビールを注ぐ。普段では絶対に行かないであろう、日本料理屋の個室に江原さんと二人きり向き合っている。まるでテレビドラマでよくみる密談のようだと思った。    九月に入り、二週目の火曜日だった。中谷幸平の方から電話して懇願した。 「組合活動に興味があるんです。江原さんならもっと深いこと教えてもらえると思って」  思いきってそんな風に伝えた。 「了解

エッセイ:人類はなぜ「泳ぐ」ことができるのか?

 運動不足を解消するために、私は週に1回のペースで、近くのスパに行き、屋内プールで泳ぐことにしている。  プールにいるのは、だいたい2時間くらい。まずはウォーキング専用のレーンで、水の中をひたすら歩き、腰をひねったり、腿をあげたりしながら何往復もする。どの運動も水の抵抗を受けるので、地上にいるよりも力を入れる必要があるから、体を使っているという充実感がある。  そして、ウォーキングで体の筋肉がほぐれてきたあたりで、レーンを移動して泳ぐことになる。片道初心者優先のコース。2

『フィッシュ・アイ・ドライブ』第7話:ノアの方舟

* 「わりい、俺がバカなせいか、脳の整理が追いつかないわ」  希虹(のあ)から、思わぬ話を打ち明けられたアキラは、戸惑いを隠しきれなかった。  とにかく北上してほしいということで首都高を走らせていた360スパイダーは、スカイツリーの見える墨田区までやってきて、あと少しで都内を抜けるというところであった。 「無理もないわ。そんなこと、歴史の本には一切書かれていないし、学校でも教わるものでもないから」 「魚人族?っていうんだっけ? そんなの初めて聞いた。日本人て一つの民

『ポストマン・ウォー』第38話:国際戦争

『ポストマン・ウォー』第38話:国際戦争  中谷幸平は、とても気が気でなかった。あの女がなぜそんな話を知っているのか? 本当に知っていたとして、『カササギ』が事件に絡んでいるということが噂されている? 「大丈夫。中谷サンは何も心配しないでいい」  ドルジさんの顔が思い出された。やはり、大丈夫なわけがないということだろうか。    終電の時間が近付いて来たころ「そろそろかな」と江原さんが言い出した。 「え、江原さんもう帰るんですか?」  矢部さんが名残惜しそうに江原さ

『スプラトゥーン』の偶然的な世界が私たちの社会構造に似てしまう理由

任天堂の人気ゲーム『スプラトゥーン』  私も『スプラトゥーン2』の頃からはまっており、『スプラトゥーン3』はいまも熱中している、大好きなゲームである。  ゲーム自体をそもそもやらないが、このゲームだけには特別な思いがある。娘が小さい頃、一緒にはまったゲームであり、唯一、娘と心が通じ合える時間をもたらしてくれたものだったからだ(笑)。  一方で『スプラトゥーン』は人格を破壊してしまうくらいに感情的になってしまうゲームということでも有名である。メディアにも取り上げられている

『フィッシュ・アイ・ドライブ』第6話:魚人の血をひく者?

*  昨夜の発砲事件により、六本木のショーレストラン『熱帯夜』には、警察の取り調べが入った。翌日も、オーナーと一部の従業員が警察に呼びだされており、事情聴取が続いているのだという。 「『熱帯夜』はしばらく休業する――」  従業員全員のグループLINEに、オーナーからの連絡が入った。 「まあ、当面はオープンできないよね」  樹里はそう言いながら、キャラメルフラペチーノのグラスの中を、緑色のストローでかき混ぜる。 「いや、オープン自体もあやしいんじゃない?」  千春

『ポストマン・ウォー』第37話:『カササギ』の噂

『ポストマン・ウォー』第37話:『カササギ』の噂 「『カササギ』なくなっちまったみたいだな」  朝の更衣室で、矢部さんは中谷幸平に会うなり、ぼやくように言った。 「え、そうなんすか?」  中谷幸平はとぼけた感じで訊き返した。    矢部さんと会うのは三日ぶりだった。    マリと別れたあの日、夏季休暇を消化するでよいから三日ほど休ませてくれと局長に懇願した。さんざん嫌味は言われたが、体調不良で、とても仕事にならないと、中谷幸平も食い下がった。  あんな出来事の後で、

『フィッシュ・アイ・ドライブ』第5話:危険な元カレ

*  警察との「鬼ごっこ」は慣れたものだった。撒くには撒いたが、東京中が相当な騒ぎになっているので、江崎南斗(えざきみなと)はすぐに溝口に連絡をし、鉄砲玉をよこさせた。  晴海ふ頭で、身替りとなる若者と落ち合った。まだ二十歳そこらのガキだった。普段、大麻入りのクッキーを主食にしているジャンキーということだったので、ちょうどよかった。ジャンキーが、クスリをやりすぎたあまり、夜の六本木で拳銃をぶっ放し、タクシーを奪い乗り、暴走したまでのこと。  江崎南斗は、自分が着ていた黒

『ポストマン・ウォー』第36話:おれ、やっちまったよ

『ポストマン・ウォー』第36話:おれ、やっちまったよ  大通りに出て、G町駅の方面に向かっている時に、サイレンを鳴らして、猛スピードで駆け抜けるパトカー数台とすれ違った。    さすがに通報されたか。中谷幸平は少しでも早く現場を離れたいという思いを抑え、冷静に何事もなかったように自転車を漕ぎ、ドルジさんと落ち合う約束していた『カササギ』を目指す。    頭の中ではずっと刺激的な映像がグルグルと回っていた。    人生で初めて人の顔を撃ち抜いてしまった。    その光景が、フ

『ポストマン・ウォー』第35話:イエロードラゴンとのご対面

『ポストマン・ウォー』第35話:イエロードラゴンとのご対面  あとはその胸に刻まれているという黄金の龍の刺青が確認できれば良かった。風呂に入っているとは何て好都合だろうか。  女は小包を両手で抱えながら立ちすくんでいた。 「案内しろ」と中谷幸平は顎で女を指図した。  女は体を小刻みに揺らしながらゆっくりと後ろを振り返り、入って、という感じで中谷幸平の方を見た。 「それでいい」  中谷幸平はそういう目で女を見て、女の背中に銃口を押し付けた。 「舐められたら終わり。