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「手前が逆」になってしまうわけ

 乗馬を習ったことのある方なら、指導者から、
「軽速歩の手前が反対ですよ!」
というような指摘を受けたことがない、という人はほとんどいないのではないでしょうか。

 軽速歩の「立つ、座る」の動作中に、上から馬の左右の肩の動きを見て、
自分が立った時に、内方側の肩が後ろに引っ込むように見えていれば、「手前が合っている」ということになるわけですが、

頭ではわかっていても、これが一歩目からスムーズにはなかなか合わせられない、という方も結構多いのではないかと思います。

 左か右のどちらかですから、単純に考えれば少なくとも50%の確率では合いそうなものですが、

初心者の方の場合だと、なぜか9割くらいの確率で逆になってしまったりします。

 どうしてそんなことになってしまうのか?というと、

それは、
「初心者には反対の方が立ちやすい」
からです。


 軽速歩の「立って、座って」の動作には、速歩の反撞による衝撃を和らげて人馬の負荷を軽減する、というだけではなく、

前進する馬の動きに合わせて騎手の重心を同方向に随伴させる、という意味があります。


 つまり「軽速歩の手前を合わせる」、という行為の目的は、

着地した内方側の前肢に馬の荷重が載っていくときの斜め前方への重心移動に、騎手の腰の随伴の方向とタイミングを一致させることによって、

 騎手と馬との重心の位置関係のズレを最小限に保ち、馬がなるべく動きを妨げられることなくスムーズに運動出来るようにしてあげることにある、

というのが私の見解なのですが、


多くの初心者の方の場合、馬の動きにまだ慣れていないことや、鐙を足で蹴って「上に」立ち上がろうとしてしまうことなどから、

馬が内方前肢に加重するタイミングでは進行方向への重心移動の加速度に置いていかれて、腰を鞍から浮かせることが難しくなります。

 そうして尻餅をついたところから反動をつけるような感じでお尻を跳ね上げようとするために、本来立つべきタイミングから一歩遅れたところで立ってしまう、ということになるわけです。


「はやあーし進め! 」
(トントントントン…)
「せーの! 立つ座る立つ座る…」

とやると、なぜかほぼ100%手前が逆になってしまう、ということの理由は、こんなところにあるのだろうと考えられます。



  馬の上下・前後方向の動きだけでなく、左右方向への動きも身体で感じながら「今、左右どちらの前肢が着いているのか」ということが見なくてもわかるようになれば、

「手前が違っている」ということに自分で気づいて、そこでトントンと「二歩続けて座る」ことで手前を合わせることも出来ますから、とりあえずはそれで十分なのですが、

これがなかなかわからない、という方も結構多いようです。


 速歩の一歩目から確実に「手前を合わせて」立てるようになるためには、

まず、馬の移動に重心が遅れないように、
鐙を足先で蹴って「上に立ち上がろうとする」のではなく、
「腰を前に出す動きによってお尻を浮かせる」ことが出来るようになることが大切です。

 足先で鐙を蹴ると、その力がブレーキになって、腰が前に随伴するのを妨げてしまうからです。


 
 手前を合わせる時にも、ドスンと尻餅をつくのではなく、
「踏み台から落っこちないように」というような意識で、鐙に重心を載せたバランスを保ってそっと座るように意識してみると、

立つときも座るときにも常に馬の重心の移動に遅れることなく、前肢の着地方向へと重心を随伴させ続けながら、安定したバランスを保てるようになってきます。

 そうなることで、動いている馬の上でも落ち着いて、馬の足の動きなども身体で感じられるようになってくれば、手前の違いに気づくことも、一歩目から手前を合わせて立つことも、容易に出来るようになってくるだろうと思います。


 またそうして、立っても座っても常に『鐙に乗った』バランスを保つことが出来るようになれば、脚で鞍にしがみつくような必要もなくなって、圧迫の扶助なども効かせやすくなり、

速歩での運動がより楽に、気持ち良く行えるようになるのではないかと思います。












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