見出し画像

【推薦図書】西村賢太の遺作は、どんな小説を書くかではなく、どうやって作家になるかを教えてくれる

西村賢太。
平成に活躍した私小説作家。
2022年に急逝しました。

強烈な劣等感と自信と猜疑心が
くるくる代わりばんこに表れる故、
万人受けする作家ではなかった。

もう亡くなって1年半は過ぎたのに
アマゾンで、彼の文庫を探すと
驚いたことに、
薄い文庫一冊に4000円もの
高い値段がまだついていました。
500〜600円の文庫が
今は4000円以上もしているんです。

ああ、こんなに上がるのなら、
私もブックオフに売らずに
いれば良かったなあ。

西村賢太は、時々、
はしかにかかったかのように
読み漁りたくなる。
…かと思えば、
もう表紙も見たくないと思って
ブックオフに売り払ってしまう時が来る。
それを2〜3回は繰り返してきました。

もし、まだ手元に西村さんの
文庫を10冊は持っていれば、
それを売り払えば、
かなりの値段がついたでしょうね。
ああ、もったいない事をした(汗)。

ところで、
売り払った西村賢太の本について
なぜ、アマゾンでチェックしたか
と言いますと、
今月に文春文庫から
発売されたばかりの
西村賢太の未完の遺作が
余りに面白くて興奮してたからです。

タイトルは『雨滴は続く』。

中身は、西村賢太の分身が
初めて小説を書いた同人誌時代から
物語はスタートします。

そこから、
文藝春秋の文芸雑誌「文学界」の
同人誌寸評コーナーで、
思わず高評価を得るところから、
西村賢太の作家人生は始まります。
やがて、そこにデビュー作が転載される。
西村賢太の分身は、 
過剰な自信と劣等感と猜疑心の狭間で、
文芸編集者たちと向き合いながら、
時にハッとさせられ、
時にムカッ腹を立てさせられ、
時に意気投合したりしながら、
西村賢太の分身は作品をコツコツと
書いていく。

37歳でデビュー。
しかも同人誌あがり。
最初は講談社ら大手出版社の編集の
無礼な態度にも耐えていく…。

この遺作で何が面白いか?
それは、西村賢太がどのようにして、
作品を組み立てていくか、
また、何は活かし、何は排除するか?
そうして、
どんなエピソードを絡ませるか?
具体的に書いてあるからです。

決して、西村賢太は誰かに
小説作法を説くつもりはない。
ただ、37歳デビュー、
同人誌上がりで
とにかく不利なスタートだったゆえ
夢中で小説を書いていった、
そんな自分の姿を
まさに私小説として赤裸々に書いている。 

もしあなたが小説家になりたいなら、
私は、間違いなく、
この愚直な私小説作家、西村賢太の
この遺作を推薦したいと思います。

小説創作講座、なんて
小手先な動機で書かれたものより、 
作家をめざす人が
どんなふうに考え、書き、悩み、
苦しみ、また書いていくかが
事細かに書いてある。
だから、この本は素晴らしい。

小説を書くということは、
受験勉強とはちがう、
どう生きるかを模索することだ。

そこまでを教えてくれる
小説創作講座はなかなかない。
しかも、没後に色んな文庫本が
4000円近くになっている
ホンモノの私小説作家の体験談だ。

タイトルは『雨滴は続く』
文春文庫。

西村賢太さんの遺作だから、
ちょっくら読んでおこうか、
くらいのつもりで買い、読んでいたら
期待以上に濃厚な内容で
圧倒されてしまいました。

小説を書く、
また、エッセイを書く、
というのは、
何をどう書けばいいか?
まるで受験勉強の参考書みたいな
小手先な創作論が増えましたが、
それは間違いだったことを
久しぶりに思い知らされました。

私も、文学や小説について、
小手先な記事を書いていたみたいだ。
でも、それは間違いだということを、
西村賢太の遺作は教えてくれます。

さすが、没後に文庫が
4000円も値がつく作家だ。
時にはその自信過剰さと
劣等感と猜疑心に辟易させられますが、
また、読み返したくなるのも確かです。

不思議な作家でした。

この記事が参加している募集

推薦図書

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?