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【小説】今のラノベは、20世紀の成長小説とそっくりだ?

日本の文学、特に純文学、
特に戦前・戦後の文学に、
明るく健康的な爽やかな物語は
どういう訳か、余り見当たりません。

どちらかというと、
病気がちで、ナイーブ過ぎて、
モテなくて、悶々と人生に悩み、
という人物の方をよく見かけます。

いや、そんなことないよ。
西尾維新あたりからは、
お金もちで容姿抜群な
青年や女子が主人公の作品が
いっぱいあるよ。
そうでした、確かに…。

西尾維新を読んで育ったであろう
今の若手作家たちは
華麗な人物が彩る愉快なミステリーを
書く人が増えてきましたね。

でも、いざ読んでみると、
主人公はメンタルが弱かったり、
クラスで浮いていたり、
頭の上がらない仲間がいたり、
何かしら困難、苦難を持っている
ようにも見受けられます。

そうかあ…最近のラノベは、
戦前・戦後に流行った成長小説、
青年を描く青春小説と実は
そっくりなことに気付きました。
成長小説、教養小説、
ビルドゥングス・ロマンなどと
呼ばれていました。

今のラノベは、
20世紀の文豪たちが書いた
成長小説のエンタメ版なんです。
まあ、エンタメ度合い、
サービス精神度合いは違いますが、
トマス・マン『魔の山』や
ヘルマン・ヘッセ『車輪の下』
ジイド『狭き門』
サマセット・モーム『人間の絆』の
下村湖人『次郎物語』
吉川英治『宮本武蔵』などと
構造や要素は変わらない。

20世紀の武蔵や次郎のように、
10代後半の青年や女子が
学業や夢や恋愛や将来などについて
迷い悩みもがき苦しみながら
成長していくのは、やはり
いつの時代も人気があるんですね。

今のラノベは、メンタルが弱かったり
冴えない部活部員だったりという
苦難の要素は現代的で、
どんよりした20世紀小説に比較したら
あっさりしてるかもしれない。
それはまあ、今の価値観の読者に
応えるための工夫でしょうか。

それから、今のラノベには
ミステリーのスタイリングが
多いのも特徴ですね。
これは、私たちの人生自体が退屈になった
からかもしれません。
単に人間が歳をとる過程を
読まされても「起承転結」にならず
面白い作品にならないからでしょう。

20世紀は、戦争や肺結核や
進学の挫折など、苦難という名の
事件やトラブルがいっぱいで、
わざわざミステリーにしなくても
ドラマとして、常に事件や困難が
人間を襲っていましたが、
21世紀の私たちの人生は
ミステリー仕立てにして
ハラハラなドラマにする必要が
あるんでしょうね。
(コロナという大きな苦難が今は
私たちを襲っていますが)

どんな時代になっても
青年や女子の青春小説が面白いのは
常にトラブルや困難がやってきて
人生を思いがけないものにしていく
「不安定さ」があるからかしら?

ただ、正直、今はどんな中高年でも
みんな『一寸先は闇』で、
明日がある保証なんてなく、
ドラマチックな日々を送ってるんですが。
そのうち、中高年のおじさんが主人公の
波乱万丈なラノベが出てくるかも(笑)。





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