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90年代にアメリカで作られた映画『AKIRA』Tシャツの歴史と真贋判定法(増補版)

 映画『AKIRA』の世界的な人気は今に始まったことではなく、スピルバーグ、キャメロンといった映画監督が90年代からリスペクトを表明していたり、デビュー後一貫して OTOMO FAN を公言するカニエ・ウェストなどなど、著名人による言及は枚挙にいとまがない。が、2018年に超人気ラッパーのトラヴィス・スコットが AKIRA のTシャツを着用してパパラッチされたことでヒートアップし、AKIRA のTシャツの相場が一気に上がった。

 ひとくちに AKIRA のTシャツと言っても、様々なものがある。原作マンガに関連するもの、1988年の映画日本公開時に作られたもの、1989年末に始まる米国初公開時に作られたもの、1998/99年に講談社から発売されたマンガ全6巻表紙をモチーフにしたもの、等々。新しいところでは、2017年の SUPREME とのコラボレーション・アイテム群もある(更に90年代ストリート・カルチャーの中で生まれたブートレッガー達、アナーキック・アジャストメント、ダブ・ファクトリー等による海賊版もあるがこれはまた別の話)。前述のトラヴィス・スコットが着用していたのは、1995-7年に米国で生産された、Fashion Victimというブランド(以下FV)によるものだった。

 AKIRA、ひいては大友克洋関連のTシャツの相場が軒並み上がっている昨今だが、特にその FV 製のTシャツの値上がりが尋常ではない。FV のデザインは90年代末から多くコピーされてきたものの、相場の上がった現在は新たな FAKE 品も大量に生産され、市場が混乱している。また、製造販売から既に30年が経過したことで、アメリカ製の90年代Tシャツがひとくくりにされているきらいもあるため、ブランドが二つあることも示したい。この記事では、資料として手元にあるものの調査を中心に、90年代米国製『AKIRA』Tシャツ歴史と種類、本物の判定法を解説する。

文中敬称略

1. アメリカにおける映画『AKIRA』の紹介(1989末~)

 映画『AKIRA』が日本で1988年7月16日に公開されたのち、1989年にアメリカの配給会社 Streamline Pictures が米国での配給権を獲得した。当時、アニメーションは子供向けだけという固定観念のあった米国に於いて、『風の谷のナウシカ』、『天空の城ラピュタ』などをファンが集うアニメフェスで公開した経験を持つ会社であった。いずれも小規模な公開だったが、80年代当時の日本の大人向けアニメーションの米国での扱いはその程度であった(Cartoon Research "Streamline Pictures – Part 1 to 10 (by Fred Patten)"  及び "Interview: STREAMLINE PICTURES Carl Macek & Jerry Beck" Protoculture Addicts Nov. 1990 No.9)。

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