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読書メモ③『食の実験場アメリカ ファーストフード帝国のゆくえ』鈴木透

 最近は専ら食文化に興味があり、その中でもアメリカ料理について様々な疑問や関心があり、読んでみたがなかなか面白かった。

 アメリカ文化の研究者が食を記憶媒体として捉え、アメリカ人の食文化とその成り立ちを紐解きながら、それによってアメリカという国の姿を炙り出した一冊。アメリカ料理と聞くと、ハンバーガーやアメリカンドッグなどファストフードに代表されるような画一的なイメージを抱く人が強多いかもしれないが、実際には多様な食文化が形成されていた、ということがわかる。アメリカはその国の成り立ちからしばしば「移民の国」と言われる。移民の国・アメリカでは、例えばクレオール料理やケイジャン料理といった、アメリカンインディアンのもつ土着の食文化と、移民によって持ち込まれたもの、植民地化の過程で西洋人と非西洋人の接触で生まれたものが混ざり合った異種混交的な多様な食文化が熟成されていたようだ。一方で、多様な食文化を持ちながらもアメリカが何故「ファーストフード帝国」になっていったのか、その過程も経済政策や産業構造の変化などに触れながら書かれており、大変興味深く読める。社会学者のジョージ・リッツァが提唱した「マクドナルド化」現象は、合理化の追求によって生活様式が均質化していくことを批判した概念としてあまりに有名だが、その反動として生まれた現代の思想や取り組みについても丁寧に扱っている。

 最終章では食から社会を変革できると筆者は主張している。「何を食べるか」とった事は個人的なことのように思えるが、それが国のような集団になり、長期的な視点で見ると、食の選択とは個人を超えて社会的な選択であり、そこには文化の変革の記憶が眠っている。移民の国・アメリカの食の記憶を紐解く事は、一国を超えて国境を横断した射程があり、国際社会の中での自己相対化に繋がっている。或いは、食とは健康・環境問題・格差問題など様々な分野と接点を持っており、食に変革をもたらすことで各分野に変革が波及させていく事も不可能ではないのだ。アメリカという国の姿とその食文化についてだけではなく、広く「食」というものについて考えさせられる本だ。

 また、炭酸水は元々医療用でドラッグストアの薬剤師が製造していそこからコーラやドクターペッパーが生まれたとか、ダイナーやデリの成り立ち、マクドナルドとKFCの勃興期の話など、豆知識としてネタが結構詰まっていて面白い。


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