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棄てられないオンナ|散文

もうすぐ君がやってくる……

玄関から飛び出した瞬間の薫りがすきだ
空気が乾燥した、枯葉のような風のいろ
思わず立ち止まって「すうーーーっ」と
そこらへんの空気を吸い尽くしちゃろか
そんな勢いで深呼吸をしたくなる、
いや、……実際にやってしまっている

いつかのテレビで聴こえてた……
秋はメンタルが下降気味な季節なんだと

うん、確かに……なんとなくわかる
けれども僕はそんな寂しさすらも好きだ
切ない片想い貴方は気づかない、なんて
歌ではないけれど秋は失恋がよく似合う

そして、思い出がよく似合う……

さわっ……と、夕暮れの風が耳を擽ると
ふと空なんかを見あげてしまって
「どうしてるかな……」なんて考えて
ゆるっと口角をあげつつの目頭つーん
……乙女じゃないか

蘇る記憶は笑顔ばかりとは限らないけど
それでもできる限りの笑顔を集めて
そして今に繋げて懐かしく微笑みを返す
痛みも傷みも悲しみも哀しみも……
それは確かに僕の記憶で僕の感情だから

いまできる精一杯で受け止めよう……

自分を赦すことはとても難しくて、
僕の失敗を思い返すと悔しくて堪らない
それでも僕は誰のことも嫌いではなくて
どんな結末になっていても大切なひと
未練? んん……ちょっと違うのかな
だって再会は望んでも関係は望んでない

あんなことあったよな、懐かしいな……

そんな風に、笑って話せるような
穏やかな気持ちに成ることが出来ている
確かに、当時は「何で!」って思ってた
それでも互いに憎しみなんて抱いてない
不思議と、それは感じてるんだよね……

もうすぐ秋がやってくる……
夜の散歩なんかをしながら、今年の秋も
また君を思い出して記憶のなかを旅する

そして、思う
一分一秒と僕の記憶に変わっていく今を
精いっぱい生きて行かなきゃなんだ、と。

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