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宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』の読書会をしました

編集者さんから「上村さんの前年度に受賞された宮島さんの単行本です」と紹介され、「ああ〜いまめちゃくちゃ売れていると噂の……」と言っていたら、3か月後に『成天』10万部突破のニュースが流れてきた。
売れすぎだよ〜。次年度のわたしのプレッシャーが半端ないよ〜。と泣き言を言いつつ、㊗️『成天』10万部🎉 ってことで、読書会をすることにした。

ということで、発言者の名前は伏せて話した内容をざっくりまとめたnoteです。

成天が集まるテーブル

どうでした? おもしろかったですか?

「のちのち、なんらかのでかめの賞を取る人の、デビュー作って感じがしましたね。最新作とデビュー作、ぜんぜんちがうなあってなるときのやつ」
「わたしは、滋賀県民とかお笑い芸人さんが読んだら湧きそう、って思いました」
「あー確かに。これ滋賀の人には刺さるやろうなと思いますよね。イオンモール草津とか。ただ、我々って西武大津店に対するリテラシーがないから、ぜんぶを摂取できてる感じはしないっていうか」
「西武大津店に対してのリテラシーが求められるの!? ぜんぜんわかんなくてもおもしろかったですけど」

書き方の特徴

「なんか書き方がすごいあっさりしていてびっくりした。ウェットな感じじゃないっていうか。自分は物語を書くときにすごい『ここやで!』っていうのをめっちゃ書いちゃうけど、なんか『ここやで!』っていう場面のところをパってすぐ飛ばすじゃないですか」
「ずっとリズムが一定というかトントンって進んでいく」
「サクサクしてますよね」
「そこがライト層に刺さるのかなと思った。ライト文芸とちょっと近いところがあって、かつその中でだいぶ文章がすっきりしている側みたいな感じありますよね」
「あ〜エモくない!」
「わかる、いい意味でエモくない!」

ちなみに開催場所は上村家

どの短編が好きでした?

「ありがとう西武大津店すきでしたね。20日間を毎日書いてるんやけど、ここいらんやろみたいな日もちゃんと読める内容になってて、面白かった。おじさんに突然声かけられたってエピソードあるじゃないですか。あれ、行から行がぴょんって飛んでくけど、おかしいって引っかからないギリギリのところで読みやすくてよかったです」
「そうかこれ毎日を書いてるんだ」
「ですね。ほぼ毎日」
「50枚の使いかたがうまいと思った」
「それは確かに。なんかこのサイズ感の話としてちゃんとまとまってますよね。連作短編としてはどうでした?」
「うーん……。『膳所から来ました』はちょっとな〜。でも、みんながこれ読んで『成瀬―! すきー!』ってなるのはわかると思った。読み終わったときに、それぞれの話の流れとか、それぞれの人物がとかじゃなくて、『成瀬―!』になるので、まあこれは成瀬好きになったら勝ちだもんなあ、と」
「シリーズになるタイプの小説ですよね」
「あ、なるらしいですよ。来年の1月に。いやあ、刊行から1年経たずにシリーズ化というね、大変素晴らしい。上村の小説よりはやく、宮島さんの続編が出てしまって、大変よろこばしいことですねえ」

成瀬のキャラクター

「ファンタジーキャラクターというか、ヒーロー的な感じなのか、いるよねこういう人なのか、どっちなんだろう?」
「わたしは『ギリいるよな』だなと思いましたね」
「大谷翔平まではいってないっていうか、いそうとは思う」
「テレビで謎のインタビューを受けてる、おもしろ高校生いるじゃないですか。あのくらいの実在性がある」
「あ〜、でかいシャボン玉をつくってテレビに出ている人、くらいのリアリティ」
「うん。『線がつながる』っていう短編で、視点人物が成瀬を信奉してないというか、島崎はわりと成瀬に近い人間だけど、そうじゃない側の人間というのが描かれる。それがいいなと思うんですよね。成瀬が実際近くにいたら、成瀬のことちょっと苦手に感じるけど、でも一匹オオカミ的よさみたいなのはちょっと見出してるかもなあ、みたいな。人物配置がうまいなと思いましたね」

小説で漫才書くのどうよ?

「『膳所から』の漫才はどうにかならなかったかな〜。面白くない漫才のために2、3ページ費やしてると、やめてくれってなるじゃないですか」
「ああー……って、これ議事録に書いたら炎上するのかな」
「読書会の記録としてならいいんじゃないですか」
「いいか。だれが言ったかわかんないし」
「匿名性があるので」
「いい、いい」
「大前粟生『おもろい以外いらんねん』に近しいものを感じる」
「あっ、また悪口を……」
「だって……」
「これ、登場人物たちが学生だからとか、文化祭の漫才だからとかが、つまんない漫才をしてもいいっていう建前になってるじゃないですか。でも、小説なんだからつまらない文章を一文でも書いちゃだめじゃないですか」
「過激派!」
「あ〜過激派なのか我々が」
「つまんないものを、つまんないものが流れていると提示してもいいんですけど、3行で終わらせてほしい」
「でも、これって多少面白い漫才として書かれているじゃないですか」
「それはたしかに。というか、お笑いのネタとして面白いかどうかより、成瀬と島崎がかわいい場面として描かれている? 『漫画タイムきらら』的な……」
「わ〜成瀬と島崎がかわいい〜でよかったのか……我々の『漫画タイムきらら』力が試されていたんですねえ」

大前粟生『おもろい以外いらんねん』

成天はなぜ大ヒットしたのか?

「で、なぜこれは十万部売れたのだろうって問いですが」
「まず売り出し方がいいっすよね。プロモーションがすごい」
「ね。なんかね、気づいたら平置きになってましたよね」
「うん。最初一瞬棚差しだったのが、気づいたら平置きになってた」
「これって、成瀬という人間が強いじゃないですか。我々が大学でやってる、題材の強さで勝たないと!ってところじゃない、キャラクターで勝ってるのが『強え〜〜〜』って感じですよね」
「評判見ても、やっぱりみんな成瀬のキャラの話してるなあ。結局、成瀬なんだよな、やっぱり」
「あと、いまの女流文学のノリとちがうというか、いい意味で軽いのが読みやすくていい」
「あ〜、韓国で日本の小説が流行ったとき、お気楽小説的な文脈で流行ったりしましたもんね。韓国の政治的な小説と対照的な娯楽小説として日本の小説が流行ったやつ」
「そう。これ、気楽に読めて共感できるのが強いですよね。成瀬を好きになれるし、あるあるネタが細かいから、人間が親しみを感じやすい要素が多い」

今後の創作に活かせることありました?

「だからわたしの小説の場合、人間が親しみを感じやすい要素が少なくて、いつも編集さんに『読者はどこに共感すればいいですか』って聞かれるわけですねえ」
「どうします、主人公をもっと共感しやすい人間にします?」
「あ、でも成瀬って共感型主人公じゃなくて、その周りの人々に影響を与える側じゃないですか。不快感のないトリックスターっていうか。だから、主人公自体はトリックスターでいいんですよね?」
「そうですね。その場合、サイドキックを置くのが一番いい。成瀬と島崎は、形式としてはホームズとワトソンだから。『俺ら凡人って、こういう人間好きだよな』って肩を組んでくる感じ」
「あ〜じゃあ、トリッキーな人間を書くときはサイドキックを平凡にして、そいつを視点人物に置くと。……それ、今度の小説のプロットで書いてません?」
「でも上村さん平凡視点人物のこと平凡に書けないでしょ」
「……平凡視点人物をおもしろく書ける技能が上村についてきたら、平凡が書けます。そうじゃなかったらそいつもトリックスターになる」
「みんなトリックスターだなあ」

田舎を屈託なく書く

「これ、ローカルものであることの強みみたいなものを、ずっと『ぎゅっ!』ってされているじゃないですか」
「『ぎゅっ!』ね」
「地元の施設に対する思い入れとか、田舎の空気感とかを『ぎゅっ!』てね。この小説って、全体的に田舎に恨みを抱いてないじゃないですか。『階段は走らない』でも、田舎の同級生のためにホームページ作ったり、同窓会開こうとしたりっていうのが、屈託なく書かれている」
「ああ……同窓会をすすんで開くタイプの、地元が好きなタイプの人」
「そう。これ全部地元好きなんですよ」
「わたし、昨日ちょうど中学のグループラインで『成人式行く人〜飲み会行く人〜』って投票が投稿されてて、わたしはもうやだったから無視して。それにすぐ『行く』って押す人にはまるってことなのかな」
「人間ってわりと屈託がない人間すきだから……」
「だから、地元の人間がその地域に愛着を持って仲良くしていると、うれしいかもしれない」
「山内マリコの真逆ですね」

山内マリコ『ここは退屈迎えに来て』

「これ、わたしが書いたら絶対に短編集の最後のほうで、話をバカみたいな規模にしちゃうと思うんですよ」
「するする。絶対する」
「琵琶湖の真ん中から宇宙エレベーター出しちゃう」
「うん、絶対そういうことする。ぼくだったらどうするだろう。とりあえず、成瀬の家庭環境は最悪になると思う。裏にクリークがあって、蛙の鳴き声しかしない団地の一室で、六畳間で、奇声あげてるお母さんと二人暮らしの女の子になってると思う」
「田舎って最悪だと思ってるからね」
「うん。でもなんか、田舎が最悪だって思ってない小説ってはじめて読んだかも」
「あ、たしかに。新しい視点?」
「ですね。うん、総評。おもしろかった!」

って感じでした〜。
来週は今年度の文藝賞受賞作、小泉綾子「無敵の犬の夜」をやる予定です! 楽しみ🥰


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