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プロローグ

「たまにはお祖父ちゃんの墓参りでも行ってみよっかな」

当時から思い立ったらすぐ行動するタイプだった僕は、1週間バイトを休み、お祖父ちゃんのお墓がある沖永良部島に行く事にした。

当時僕が住んでいた那覇からフェリーに乗って北に17時間。まだ数回しか来たことがないのにどこか懐かしさを感じる島。
僕は到着するとすぐ、フェリーに乗せてきた原付に乗ってお祖父ちゃんのお墓がある山に向かった。

僕にとってはこの島の全てが新鮮で、木々の揺れ方や、虫たちの仕草や、山の匂いなど、なるべく多くを感じ取れるようにゆっくりと走っていた。その時ふと、僕は自分が得体の知れない胸騒ぎに襲われている事に気がついた。

胸騒ぎの原因は、全方位に広がる青い海のせいだった。

僕が生まれ育った尼崎市も海に面してはいたものの、海岸線はまるで海を征するかのようにコンクリートで塗り固められていて、まるで生命を感じられなかった。
でもこの島の海は違う。まるで海全体が生きていて、僕たち人間がこの島で悪さを働かないように見張っているみたいだ。

この島に入ってくるモノと出ていくモノを完璧に掌握し、都会が失った魑魅魍魎までも封じ込める、そんな圧倒的な海の存在感に、僕は只ならぬ恐怖を覚えた。
初めて感じる類のその恐怖が、僕には人間が生きる上で必要なものに感じた。

そして僕は決めた。将来はこの島で暮らそう。

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