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短編小説:「眠り屋のRITO」

【前書き】

皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。
今回は〝不思議な時計屋〟のお話です。
「シリーズものっぽく出来そうな作品」を少し意識しました。
楽しんで頂けると幸いです。


【眠り屋のRITO】

作:カナモノユウキ


「あー‼大事な時計が!」
叫び声はレストラン中に響き渡った。
それ程ショックが大きかったんだ、だって形見だから。
亡くなった父さんの懐中時計を、仕事中に落として壊してしまったのが原因。
「うわぁ……、コレ直るのかな。」
チクタクといつも音を鳴らしてくれるのに、何も聞こえない。
振るとカラカラと鳴るだけで、もう駄目なようだった。
「まぁ、古かったしな。」
肩を落としていると、店長が肩を叩き「帰っていいぞ。」と言ってくれた。
丁度店も暇なようで、俺はお言葉に甘えて早上がりした。
個人経営のイタリアンレストランだからこそ、こういうフットワークの軽さがいいし。
まかないも美味くて、良いバイト先を見つけたと、自分を褒めてやりたい。
でも、今日の出来事は褒められたもんじゃない。
いつも入れるエプロンの右ポケットじゃなく、左ポケットに入れたのがマズかったのかなぁ。
「時間も余裕あるし、時計屋に持って行ったら直るかも。」
そう思いつき、レストランのある商店街を歩き回って時計屋を探す。
でも一向に見つからない、やっぱり今の時代…時計屋とかって無いのかなぁ。
一丁目から七丁目まである商店街を一時間探し回ったが結局無かった。
「街外れとかに無いかな…。」そう思った時だった。
商店街の端っこ、丁度奥まってひと気が無い路地の奥に、その店を見つけた。
「……【眠り屋】?」
木彫りの古臭い看板にそう書いていた。
外観はレンガ造りで所々にツタが伸びて、レンガの赤とツタから生えた葉の緑が古さを感じさせて。
窓はステンドグラスで、男の俺からしたらオシャレ過ぎるように見える。
「スゲー、こんな雰囲気のお店あったっけ。」
両開きの入り口の横に、これまた木彫りで【時計修理、承ります。】と書いていた。
「ラッキー!ここ時計屋か!」
喜び勇んで中に入ると、如何にもアンティークショップと言った感じで。
棚や壁にはズラリと古い掛け時計や置時計が並んでいた。
その店内の奥、カウンターの上に駄菓子と一升瓶におちょこが見えて。
そこには若そうなのに白髪の、不思議な雰囲気の青年が、酒を呑み酔っぱらっているようだった。
「んン?おーなんや、そこに誰か居るんか?」
「あーすみません、外の看板観たんですけど。」
「看板?…あぁ!時計の修理か!」
「あ、ハイ…。」
如何にも酔っ払いのような白髪の青年は、カウンターから出てきて俺に絡んで来た。
「おー、お兄ちゃんガタイええのー。なんかスポーツとかやっとった?」
「あぁ、バスケ部やってました。」
「バスケ…あぁ〝まりつき〟か!」
「まり…?まぁ、それです。」
何なんだこの酔っ払い、この店の人じゃないのか?
「あの、店長さんはどちらに?」
「店長さん?いま目の前に居るやろ。ワシがこの眠り屋の店長やで。」
「え?あなたが?」
「あ?今〝こんな酔っ払いが?〟とか思ったやろ!失礼なガキやなぁ。」
「いやいや!そんなことは……。」
思ったけど、ンなこと言えないよなぁ。
「〝思ったけど言えない〟とか思ってんやろ、どこまで失礼やねん。」
「なんで分かるんすか⁉」
「そんなん、顔に書いとるわ。年上舐めたらアカンて、お母ちゃんとかに教わったやろ?」
「年上って、あなたいくつですか?」
「見てわからんか、まぁお兄ちゃんよりは年上やで。」
「そうなんすか、俺と同い年に見えますけどね。」
「ほんで?お兄ちゃんの要件が、〝時計の修理〟やったかな。」
「はい、そうです。」
「どれ、その時計見してみい。」
俺は鞄から懐中時計を出して渡した。
亭主はさっきまでの酔っ払いの雰囲気から一変して、職人のような顔つきで時計を触る。
「ほう、これは中がグチャグチャの可能性あるな。こんなんなら、直せるわ。」
「良かった、じゃあ店長さん。」
「ワシの名前は〝リト〟や、これからは〝リトさん〟って呼んだって。」
「あぁ、じゃあリトさん。修理お願いしていいですか?」
「んーーーーーー、どーしようかなー。」
どうしようも何も、修理屋なら修理してよ!
「今〝黙って修理せい〟と思ったやろ。」
「いや〝黙って〟までは言ってません。」
「〝修理せい〟は否定せんのな。ワシはな、その人の《人生》と《想い》を見て、修理するか決めとるんや。」
「え、お金じゃなくて?その人を見て決めるの?」
「当たり前やろ、なんで気に食わんヤツの為にワシが仕事せなアカンねん!」
「無茶苦茶ですね。」
「何が無茶苦茶や、選ぶ権利はいつもワシにあんねん。」
「そしたら、俺を見て直すかどうか決めてください。」
「もちろんや、ほならこっち来てくれるか?」
リトさんに連れられて、カウンター横の椅子に腰かける。
するとカウンターにあったおちょこを渡され、酒を注がれた。
「これを呑め。」
「え?酒ですか?」
「酒は心を正直にする、ソイツの中身も見えやすくするためや。」
「わかりました。」とおちょこの酒をグッと一口で呑み干す。
喉の奥を熱いものが流れ込み、すぐさま体が熱くなる。
「どうや?この酒は出雲でしか手に入らん上物やぞ。」
「日本酒って、こんなに直ぐ熱くなるもんすか?」
「それはワシらが呑む〝特別製〟や、二十歳になりたての紫苑には、贅沢なもんやぞ。」
「アレ?俺、ここに来て名前言いましたっけ?」
「名前以外も見えて来とるぞ、初恋の〝峰岸さん〟の顔とか。」
「え⁉何見てんすか⁉」
気付くと、俺の頭のてっぺんから湯気が立ち上り、俺の過去がうっすら見えるようだった。
「ほうほう、紫苑はかなりのお父ちゃんっ子だったんやな。」
「……はい、俺…父さんが大好きでした。」
「週末には、毎回バスケを一緒に練習か。楽しそやなぁ~。」
意識が朦朧とする中、記憶がどんどんと見られていく。
「中学二年の夏休み、父ちゃんが事故で亡くなったんか。」
「……ハイ。」
「しんどかったやろな。」
「……しんどかったけど、母さんの方がしんどかったから。」
「頑張って、支えたんやな。」
「……うん。」
「そのお父ちゃんの形見が、この時計なんやな。」
「そう……だから、どうしても……直して。」
意識が、だんだんと薄れていって。
眼を開けていられない……。
「お前の人生、その時計への想い。気に入った。ワシが時計直したる、ついでにオマケもしといたるわ。大事にするんやで、紫苑。」


――――――「ハッ‼…アレ⁉ここって。」


気付くと、俺は自分の部屋に居た。
荷物もあるし、時間は深夜、どうやら帰宅していたらしい。
「あれ?俺リトさんに時計直すように頼んで、それで……。」
記憶があいまいだけど、眠り屋に居た記憶はしっかりある。
確か変な酒呑まされて、時計の修理を……。
「アレ?そうだ‼父さんの時計‼」
慌てて荷物を探すけど、鞄の中には見当たらない。
眠り屋に忘れて来たのかと、机に目をやると。
そこに時計があった。
「なんだ、俺ちゃんと持って帰ってきたのか。」
懐中時計を手に取ると、時計はチクタクと時を刻んでいた。
「え‼…直ってる。」
時計は直っていた、壊れる前と同じ、古びた音を鳴らして時を刻んでいた。
でも、よく見ると時間が少し早くなってる。
「時間、合わせておくか。」
リューズを引き上げ、時間を合わせようとスマホのデジタル時計を確認する。
「あれ?…動いてない。」
デジタル時計は0時14分24秒で動かない、おかしいと思って部屋の掛け時計を見たが動いていない。
何か変だ、スマホも掛け時計も同じ時間で止まるなんて変だろ。
困惑していると、何処からか俺を呼ぶ声がした。
「紫苑、いるか?紫苑?」
「え?父さん?」声の方向を見ると、暗い部屋に、父さんが表れた。
「え……なんで、父さんが居るの?」
「紫苑が壊した時計のお陰だ。」
「どういうこと?」
「紫苑が行った時計屋、あそこの店長は〝神様〟だったらしい。」
「え⁉リトさんが神様⁉」
「その神様がな、〝紫苑が、俺に一目会いたがっていたから〟ってその懐中時計に細工してくれたんだ。」
「リトさんの、お陰ってこと?」
「そうだ、だからココに来れた。」
「父さん……。」
「おいおい泣くなよ、せっかくの再会だぞ。」
「俺、俺さ!バスケ続けてんだよ!今、大学通いながらプロ目指しててさ。」
「プロか‼そりゃ凄いな、大学はどこ行ってんだ!」
会話は、止まった時間の中で、今までの時間を埋め合わせるように続いて。
父さんが聞いて来るので、俺の学校生活や、恋人の話、母さんとの生活などを話して。
俺からも父さんと母さんのことをたくさん聞いた、馴れ初めや、俺が生まれる前のデートの話とか。
沢山話をして、最後に止まった時間の中で、バスケをすることにしたんだ。
公園に出かけて、バスケットボールを弾ませて、二人でシュート対決をした。
「紫苑、お前うまくなったなぁ。」
「父さん、そんなに下手くそだったっけ?」
「お前!言うようになったなぁ。くっそぉ。」
父さんは俺のドリブルの穴を狙い、ボールを取ると、そのままスリーポイントシュートを決めた。
「どうだ!俺もまだまだだろ‼」
「やるじゃん父さん‼」
お互い笑い合い、いつの間にか、父さんの姿が透け始めていた。
「もう、時間らしい。」
「父さん、行っちゃうの?」
「ああ、こうしてまたバスケが出来て…良かった。」
「なぁ、父さん!」
「ん?どうした?また泣きそうな顔して。」
「また、一緒にバスケ出来るかな?」
「ああ、出来るさ。だからその時は、プロの腕前見せてくれ!」
「もちろんだよ…父さん。」
「紫苑、またな。」
父さんは消えていった。
暗い公園の外灯の下には、俺一人が残っていた。


―――――後日、俺は眠り屋を探しに出かけた。


「確か、商店街の端っこだったよな……あった。」
古びたレンガ造りの建物に木彫りの看板、気持ちが前のめりになりながら扉を開けた。
「リトさーん!時計直してくれてありがとう‼」
「んー?おー紫苑か、お前さんはええこやったからな。どうやった?」
「うん、ちゃんと直ってたし…ちゃんと会えたよ。」
「おー!お父ちゃんに会えたか!良かったなぁ。」
「ねぇ、リトさんって〝神様〟なの?」
「ん?ちゃうで。」
「え、だって父さんが。」
「ワシはしがない時計屋を営む飲んだくれやで。」
「いやでも。」
「不思議なことがあったんは、紫苑が日頃ええ子やからや。
 ワシに礼を言いに来たのがその証拠、お前さんのその人柄が、奇跡を呼んだだけやで。」
「…うん、リトさんがそういうなら、そういうことにしとく。」
「でもワシを神様やと思うなら、お供えもんぐらい持参せんと。罰当たりやで。」
「ちゃんとお礼持ってきたよ、何好きか分かんなかったけど、これでどう?」
「おお駄菓子‼紫苑くん、君わかっとるなぁ~。」
リトさんは駄菓子をあげると大喜びをした。
なんて〝可愛い神様だ〟とバレないように、思うことにした。


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

はじめてからずっと〝短編〟を書いていたのですが、「何か続けられる作品を書いてみたい」という考えになって、このような作品が生まれました。
そして、この作品は僕の友人お二人を当てて書いております。
なので、そのお二人のイメージに合うような作品になっていればよいなと、願うばかりです。

力量不足では当然あるのですが、
最後まで楽しんで頂けていたら本当に嬉しく思います。
皆様、ありがとうございます。

次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


【おまけ】

横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。


《作品利用について》

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