「はじめに」全文公開 『皆殺し映画通信 死んで貰います』
無事に発売日を迎えて、書店に並びはじめています。
10作目・10周年の 皆殺し映画通信 最新刊!
『皆殺し映画通信 死んで貰います』
本日は本書の「はじめに」にあたる「皆殺し映画を追いかけて」を全文公開です! GWのお供に本書をぜひ~
皆殺し映画を追いかけて
十年一昔という。「皆殺し映画通信」のはじまりは二〇一二年十一月、『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』という終わるのかはじまるのかどっちつかずのタイトルを持つ映画のレビュウだった。それから十年のあいだ、延々と映画を斬りつづけ、しまいには「皆殺し映画」というジャンルの存在さえもが仮構されるに至った。駄目映画が来ると「これ、お願いします」と介錯を任され、拝一刀よろしくさくっと切り捨てる、そんな駄目映画殺しの映画介錯人として活動を続けてきた。
……と思われがちなのだが、それは結果であって目的ではない。
「皆殺し映画通信」をはじめるとき、とりあえず十年はやろうと考えた。十年も皆殺し映画を見続ければ、何かしらわかることもあるだろう、と考えたからだ。まず何よりも映画を「見る」こと。宣伝文句にも他人の評にも影響されることなく、虚心坦懐に映画と向かいあう、それこそがやりたかったことである。
いつからか、映画は映画のプロフェッショナルが作り、映画館で上映されるものではなくなった。映画館ではない場所で上映され、映画のことなど何も知らない人間が作るもの、それを映画ではないと切り捨てられるほどことは簡単ではない。もう〈キネマ旬報〉を読んでいれば映画界が把握できた牧歌的な時代ではないのだ。すべてが許され、すべてが映画なのである。できるのは、目の前のスクリーンに投影されたものをただ見ることだけだ。お前たち人間には信じられない光景を俺は見てきた……
何度「これが映画なのか?」と自問したかわからないし、「映画とはなんなのか?」という問いへの答えはさらに混迷するばかりだ。ある種の映画を撲滅するよりも、見たこともない珍種の映画を発見するほうがはるかに多い。現代の映画界を解明する、という意図はある程度実現し、地方映画の広大な山脈を見出し、不思議なカフェやレストラン映画という類型が発見された。そしてモナコ国際映画祭へ通じるオルタナティブ映画界の存在さえもが幻視される。十年間、皆殺し映画を追いかけた結果、新たな映画の世界が展けたのだ。
日本映画の底が抜けた、と言ったのは山根貞男氏だが、その山根氏が鬼籍に入った二〇二三年、まだまだ映画の底は見えてこない。だが、その最奥にあるなにか奇妙なものを掘りだすことは、まだまだやめられそうにない。
『皆殺し映画通信 死んで貰います』
柳下毅一郎 著
ISBNコード:978-4-86255-677-6
定価:2,530円(本体2,300円+税)
判型:四六判
ページ数:344P
発売日:2023年4月24日
出版社:カンゼン
書誌情報
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