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コーヒー焙煎士から見たテイスティングの世界観を伝えていきたい。

ボクはコーヒー焙煎士。
焙煎士はあまり表舞台に登場しないので、焙煎士がどのようなことをしているのかがあまり知られていない。

大手企業になると、仕入れ(コーヒー生豆)をする人間と、ロースト(焙煎)をする人間と、販売(バリスタを含む)をする人間は区分されますが、ウチのお店のように小さな個人店になると、すべてを一人で作業することになりますが、そこに難しさがあることを理解するのは、経験を積めば積むほどに、その難しさを知ることになる。

それは、テイスティングで求められるものが異なるからです。
仕入れのテイスティングでは、生豆のポテンシャルを価格と比べながら判断することが求められ、ローストをしなければコーヒーはテイスティングはできないのですが、仕入れのためのテイスティングでは”ローストを見ない”というスキルが求められる。素材だけを見なければならないので、ローストのフレーバーを見て判断してはいけないからである。

ボクは焙煎士なので、ローストをするのですが、ローストする際の味づくりをするためのテイスティングでは、仕入れのテイスティングとはまた異なり、生豆のポテンシャルの活かし方とローストのバランスを見ることになる。
ローストによる味づくりでは、ローストのフレーバーを見なければならないのです。

そう。
コーヒーの味の成り立ちを理解していくことが求められ、それにはテイスティングと呼ばれるスキルを磨き、口の中で広がる情報量を分析することが求められることに気づき始めるのです。

まずは、テイスティングにおいてもっともシンプルな考え方は、使う感覚が3つもあるということです。
「味覚」「触覚」「嗅覚」の3つの感覚を使っていること。
そして、その3つの感覚のうち口の中で感じている情報量は、「味覚」「触覚」の2つであり、香りの情報を感じ取る嗅覚は、口の中で感じているのではなく脳裏で感じているということ。
その3つの情報があたかも口の中で感じているように思わせていることに気づいているのなら、分離させて香りの情報を見ることで、いろんなことが分析できるようになってくる。

テイスティングの基礎は、脳内のマッピングにあるのだと考えている。
マッピングとは、香りの情報の配置図である。
このマッピングは人によっても配置が異なるので、自分独自の配置図をより繊細に配置できるようになることが求められる。
テイスティングを学ぶということは、自分独自の香りの情報のマッピングを配置していくことでもあると言い換えることができる。

このマッピングによるテイスティング・スキルが育ってくることで、香りの情報が「どこから登場してきている香りの情報」なのかをたどることができるようになってくる。
それは、カテゴリの違う香りをキャッチできるようになることで、分析力が育ってくるのだ。

例えるならば、牛乳などの乳製品に感じられる「エサの香り」を分析できるようになる。
その牛乳が牧草を食べさせた牛乳ならば「草の香り」がするはずなのだが、「穀物の香り」がしたならばエサに「穀物」を与えていることになるためである。
要は、フレーバーから伝わる情報に「草の香り」か「穀物の香り」が入っているのかはカテゴリが異なるので、脳内のマッピングをする際にカテゴリ別に配置がなされていれば、そのカテゴリの違いによる香りの情報は理解ができるのである。

そして全てではないが可能性として、草を食べさせた方が乳脂分がキメの細かな滑らかさを得られる可能性が大きくなり、穀物を与えると乳脂分が粗くなり滑らかさの質感が劣ってしまう可能性が大きくなる。
要は、エサの品質が牛乳の品質に介入してくるのだと分析している。
なので、牛乳の品質がよくなるようなエサを与えることで、牛乳の品質は向上するのだと言えるが、牛乳を飲んでそれがフレーバーから感じられないことには、そういった良質な牛乳を狙って生産することはできないのである。

ボクはお店でお菓子も作るので、お菓子づくりの際の仕入れで、このテイスティング・スキルが活かされることになっている。

ゆえにモノづくりにおいては、「感覚としての認識」と「知識としての理解」の両者が求められるのだと思っている。
知識としての理解は、書籍などの情報からすぐに成し遂げられる情報だが、「感覚としての認識」には、生まれつきのセンスが備わっていないのならば、学びとして感覚を育成するしか手段はないことも理解をしている。

消費者側も、テイスティングを学んでいくことで、今までの人生では感じ取れていなかった感覚で食を楽しむことができるようになってくる。
それは、人それぞれに偏った感覚で美味しさを感じているためにそれは起きていると分析をしている。
特に多いのは、口の中の情報が優先で、香りの情報は強い箇所しか見れていない人たちはとても多い。
香りの情報量はとても大きく、そして香りの情報にこそ感情に触れることができる表現を含む情報を載せることができるのだと考えている。
それが、香りの情報のもっとも凄い情報だと思っている「マテリアル感」と「光の彩色」によるものであり、これこそがボクがコーヒーのローストに惹かれる理由でもある。

偏った感覚から、今まであまり使ってこなかった感覚で食を感じられるようになったのならば、とても新鮮な情報を感じながら食を楽しむことができるようになる。
それが、テイスティングを学ぶ理由なのだとボクは思っているので、テイスティングは表現を含んでいるけれど、表現よりも分析するチカラを養うためのスキルなのだと考えている。

これからもボクの考えるテイスティングを広めるために、よりマニアックでロジカルな情報を伝えていきたいと思っております。





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