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考える力は〇〇に頼るべし!

脳は「考える」ようにはデザインされていない
脳は考えるのがあまり得意ではなく
なるべく考えるのを避けるようにできているのだ。

DanielT.Willingham,2019,「教師の勝算」,東洋館出版社,14

 いきなり引用から始めましたが、考える力を考察するためには、
まず、この脳のメカニズムを知ることが重要です。

しかし、この引用文の内容を信じられず、

「人間は考える葦なんだから、そんなわけないやろ?」

と感じた方もいるのではないでしょうか?
そこで、次の問題を試してみてください。

4枚カード問題(ウェイソンの選択課題)

答えを解説します。

「片面が母音 ならば もう一方の面は偶数」

が成り立っていることを確認するために、
母音である【E】のカードを裏返して確かめなければならないことは
すぐにわかると思います。

次に偶数である【4】を裏返せばいいと、多くの人は考えがちですが、
残念ながら違います。

このルール
「母音 だったら 偶数でなければならない」
という縛りですが、
「偶数 だったら 母音でなければならない」
とは一言も書いていません

大雑把にいえば、
偶数【4】の裏は、別に何でもいい(白紙でも、ひらがなでも)
ということなので、調べる必要がないんです。

最低限の枚数だけ調べるので、
表が母音の【E】の裏さえ、偶数だとわかれば、
「母音 だったら 偶数」というルールが
正しいと確認できると考えます。
これが【4】を選ばなくていい理由です。

では、後どのカードを確かめればいいかかというと、
【7】のカードです。

もし、
奇数である【7】のカードの裏が母音だったら、
母音の片面が偶数というルールが成り立たなくなるので
確かめなければならないということです。

【4】のカードの場合と同じように思えますが、

【4】のカードは母音と偶数の関係
【7】のカードは奇数と母音の関係

を調べることになるので全く意味が違います。
そして、母音と偶数の関係は
【E】を調べることで確認できるので、
ここでも【4】を調べなくていいことがわかります。

以上結論として、ルールが成り立っていることを確認するには、最低限【E】と【7】
の2枚のカードを調べればいいということです。

※子音については何のルールも定められていません。
【K】のカードの裏は偶数でも奇数でも何でもいいので
 調べる必要がないということです。

これが解答なんですが、
私も書いていて、わかりにくいな…と思ってしまいます。
でも安心してください。

この問題、
正答率は10%以下(Wikipedia)
という実験結果があるように、
ほとんどの人が間違ってしまう問題なんです。

また、私が中学校の研修(数学科)に講師として呼ばれたとき、
先生方に4枚カード問題を紹介してみました。
やはりほとんどの方が勘違いしてしまい、
解説に納得されない方もいました。

多くの人が【4】のカードを選んでしまうのは、
じっくり1つずつ論理的に考えればできるのに、
脳が考えることを苦手としているため、
思考に時間がかかりそうな場合は
経験的に培ってきた考え方を使って
感覚的に判断してしまう傾向にあるからです。

人は考えるよりも、
経験に従ってお手軽に判断するほうを選びがちなんです。

このように
考えるのも、理解するのも難しい問題であることがわかりました。
では、この4枚カード問題、
問題の構造を変えずにシチュエーションだけを変えてみるので、
もう1度試してみてください。

改・4枚カード問題(ウェイソンの選択課題)

この問題、4枚カード問題と全く同じ構造なんですが、
身近なシチュエーションに変えるだけで、
正解である

【ビールを飲んでいる人】
【15歳の中学生】

を選びやすくなったのではないでしょうか?

【ビールを飲んでいる人】は
当然20歳以上か確認する必要がありますし、

未成年の【15歳の中学生】が
何を飲んでいるか確認する必要があるということを
みなさんの経験上すぐに判断できると思います。

では、先ほどの4枚カード問題とくらべてみると、
このように対応していることがわかります。

【E】のカード = 【ビールを飲んでいる人】
【K】のカード = 【ジュースを飲んでいる人】
【4】のカード = 【25歳のサラリーマン】
【7】のカード = 【15歳の中学生】

【25歳のサラリーマン】は
お酒であろうが、ジュースであろうがルール上、
何を飲んでいても構わないので確認する必要がありません。

これが【4】のカードにあたるので、
【4】のカードを調べなくていい理由であった
偶数の裏は別に何でもいいということを理解しやすくなったと思います。

このように身近な問題に変換すると
大幅に正答率があがるという実験結果が出ているんですが、
だからといって
この4枚カード問題を初見で、
身近な問題に変換するのは、かなりハードルが高いです。

「考える力を育成すれば、変換できるようになる」
という仮説を立てたとしても、
正答率10%以下であることから考えると現実的ではありません。

「知識・記憶」の活用

実をいいますと、まだ他にも4枚カード問題を考える方法があります。
それは
「知識・記憶」の活用
です。

私は4枚カード問題を正解することができたのですが、
それは私に思考力が備わっているからという理由ではなく、
ある知識を覚えて知っていたからなんです。
この知識さえ記憶していれば、
4枚カード問題を考えるときの補助となります。

それは、論理学における

「(A)ならば(B)」という命題が正しいかったら、
その「対偶」も正しくなる

という知識です。
※ちなみに私は教員時代、中学校で数学を教えていました。

ではこの知識を使って、もう1度、4枚カード問題を考えてみます。

「(A)片面が母音 ならば (B)もう一方の面は偶数」

というルールが正しいこと確認するために、
まず
「(A)ならば(B)」という命題が正しいことを確認します。
つまり、
(A)母音である【E】を裏返して、(B)偶数になるかを調べるので、【E】のカードを選びます。

次に

「(A)母音 ならば (B)偶数」が正しかったら、

その対偶も正しくなければならないので

  (Bでない)     (Aでない)
対偶「偶数でない ならば 母音でない」

を調べる必要があるということになります。
だから、
偶数でない【7】のカードが、母音でないことを調べるので、
選ぶカードは
【E】と【7】の2枚と結論付けられるということです。

数学において私は

「(A)ならば(B)」の証明が困難だと思ったら、
その対偶を証明すればいい

と教わっていたので、
4枚カード問題を見た瞬間、意識せずその知識が
真っ先に浮かび上がりました。

論理学の知識を記憶していれば、
【4】のカードを裏返したら…などの細かい状況を1つずつ考えなくても、少ない思考で解答にたどり着くことができます。

考える力は記憶に頼るべし!

このように記憶は考える力の補助となります。

・考える代わりに、記憶に頼る
・「無意識に」記憶に従って行動している

DanielT.Willingham,2019,「教師の勝算」,東洋館出版社,20,21

人は日々の生活の中で様々な意思決定を行っていますが、
そのほとんどが、みなさんの記憶、経験に従って無意識に行動しています。

そう考えると、記憶や経験が豊富に蓄積されていればいるほど、
脳内における知的活動がより高度になってくるはずです。

つまり、考える力を向上させるために、

基本的な知識

その知識の活用する経験

記憶として蓄積するという方法が考えられるということです。

さらに、脳がその記憶を無意識に活用するには
長期記憶に保存しなければなりません。
徹底的に知識を記憶し、その知識を活用する経験を積み重ねることが、
考える力の向上につながります。

私個人の感想ですが、
最近、授業中に思考力が問われる活動を多く取り入れる割に、
基礎知識の習得がおろそかになっているように思われます。
実際、過去にくらべて、
学力はあるのに九九の記憶があやしく感じる生徒が増えており、
問題の初期段階で思考が停滞してしまうので、本末転倒になっています。

考える代わりに記憶に頼るのが脳の性質ならば、
その記憶を鍛えてみませんか。きっと真・考える葦になれるはずです。


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