ドラマ・映画感想文(11)『貴公子』

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作品の面白さ:10点(/10点)
制作年:2023年(日本公開は2024年)
公式サイト:https://synca.jp/kikoushi/
 
※多少ネタバレを含みますので、ご注意ください。
 

予告編に惹かれて映画館へ。
 
かなり面白かった。映像的な見所が多く、もう一度観たいと思うくらい。
 
語弊を恐れず言うと、『闇金ウシジマくん』の世界を舞台に、丑島社長を韓流イケメンに置き換えて、『名探偵コナン』や『SPY×FAMILY』のエッセンスをちょい足しした感じ。

 巨額の遺産に翻弄される者たちの
絶体絶命の攻防戦を描く
韓国アクションノワールの傑作

(公式サイトより)

ノワールの定義はよくわからないが、サスペンス+アンダーグラウンド+バイオレンスといったところか。ノワールと言えば、2024/5/3公開予定の『無名』は、「スパイ・ノワール」と謳っている。
 
ストーリーの詳細は割愛するが、とある目的でフィリンピンから韓国へ連れていかれる青年と、彼を追う謎の男=貴公子。
 
この貴公子が不敵な笑みを湛えながら、青年を追う、追う、追う、追う、追う。
 
しかしながら、ただのサイコパス・ストーカーではなく、端正な顔立ち、洗練された紳士感を兼ね備え、かなり魅力的なキャラクターになっている。頭脳派な一面も。
 
貴公子を演じたキム・ソンホは、初めて見たが、この役はかなり当たりなのではないか。無慈悲で冷徹な銃さばきと似つかわしくない、爽やかで人懐っこい笑顔が不気味。それゆえに青年の恐怖心が増幅され、観客も没入感を味わえる。
 
なぜこの貴公子は執拗に青年を追いかけるのか。理由は終盤まで伏せられたままだが、ちゃんと種明かししてくれる。親切で分かりやすい。果たして彼は、青年にとって敵か味方か。
 
何度か出てくるカーチェイスのシーンは、どれも映画のスクリーンにふさわしい迫力だった。住宅街での追跡劇も含め、ドローン映像がいい。
 
予告編で出てくる、貴公子(キム・ソンホ)が床を仰向けに後ずさりしながら銃撃戦を繰り広げるシーンは、クライマックスの一コマ。かなり痺れた。
 
結末が分かっていても、もう一度観たくなる。それだけ映像やタイトルロール(貴公子)の魅力が充実している。個人的には、傑作だと思った。
 
ストーリー上ほんの一部、疑問点が無いではないが、見落とした部分があったかもしれない。いずれにせよ、脳内補完できる程度で、作品の質に大きな影響はない。


▼2024.4.23追記

疑問点について、考えをまとめておくことにします。ネタバレを多く含むので、まだ鑑賞されていない方は、お控えいただいたほうがいいと思います。



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【疑問1】
なぜマルコの心臓でないといけないのか。誰か手頃な人間(浮浪者等)を連行すればいいだけではないか?

この点については作中で明確にされていなかったはず。注意深く観れば何かヒントがあるかもしれないので、2回目を観る機会があれば意識しておこうと思う。現状での解釈は以下のとおりだが、決め手に欠ける感あり。

*解釈*
①加虐嗜好のあるハン(長男)は、心臓移植により父を延命するに当たり、非嫡出子でかつ身分違いのマルコを強制的にドナーとして利用する発想に一種の快感を覚えるとともに、その実現により自らの加虐欲求を充足することが目的化した。
②この機会にマルコを殺しておくことで、後々、マルコから遺産相続権を主張されることを防ぎたい。 ※後述【疑問2】との整合性上、問題あり
③国内の人間で事を行うより、国外の人間の方が情報が漏れにくい。

*解釈の根拠*
①については、ハン(長男)が新聞社社員と自財団の内通者を公開処刑するシーンがあり、そこでは自らライフルを用いて射殺するなど、残忍な加虐嗜好が描かれている。心臓そのもの以上に、”マルコの”心臓にこだわる理由を考えるとき、このように「ハンがそういう人だから」と考えるのが一番無理のない解釈か。これみよがしにマルコを父親のベッドまで連れていき記念撮影までしているのも、その線といえる。

②については、ハンの目的はとにかく後妻とその娘(異母妹)に遺産を継がせたくないことにあり、同様に、マルコがいつの日か自分の出自を知るに及んで遺産相続権を主張してくる危険性も摘んでおく必要があるとも言える。ただ、そうだとするならば、後述【疑問2】のとおり、少なくともマルコが死ぬことについては何もこだわりを持っていないはずなのに、なぜマルコを生きて引き渡させるために100万ドルも費やす必要があるのかが謎である。

③については、現に新聞社に裏切られたシーンが出ていることもあり、ハンは、どのような情報が洩れるか分からない疑心暗鬼になっている。国内の人間だと、誰をどのような手で連行し、どうやって証拠隠滅をするかがハードルとなるが、国外の孤児院育ちのマルコであれば、たとえ消えても誰も探さないし、表面化しないだろうというねらい。


【疑問2】
手術室で、貴公子がマルコに拳銃を突きつけて身代金を要求するが、どうせこのあと殺して心臓移植するのだから、ハン(長男)は脅しに屈する必要が無いのではないか?

*解釈*
①貴公子の盾となっているマルコの心臓を誤って傷つけてはならないので、貴公子やマルコに向けて発砲できない。
②父親の命がまさに尽きかけているため、急ぎたい。
③マルコが生きている状態で移植しないと、心臓が劣化し移植に適さなくなるおそれ。

いずれも、当たらずとも遠からずだと思う。③は医学知識ゼロの私による勝手な想像ではあるものの、ハン(長男)はマルコを”生きた状態で”引き渡すことに100万ドルも払っているのであり、この点を踏まえれば、①②だけだと、貴公子の要求を吞んだ理由として成立しない。


【疑問3】
マルコの心臓を移植するのは、ハン父(理事長)の発案か、それとも長男の発案か?

*解釈*
限りなく、長男独自の発案だと思う。

*解釈の根拠*
ハン父がマルコの手を握り、薄っすら目を開けて何か言いたげにするシーンがある。「生きている息子の心臓を俺に移植しろ」などという非情な精神の持ち主だとしたら、このシーンの説明がつかないし、まして、後妻たちに遺言状をでっちあげられるほど意識が混濁している状況のため、自ら移植指示を出すようなことはできない状態にあると考えられる。ただし、一点気になるのは、エピローグシーンでの貴公子の発言から察するに、貴公子は、ハン父が自らの意思でマルコの心臓を要求したと思っているようであること。これについては、貴公子はハン父の性格を知らないので、ハン父の指示であると聞いたとおり素直に解釈しているだけかもしれない。



【疑問4】
貴公子は、ハン家の息子か?

*解釈*
現状、どちらともいえない。(本作がシリーズ化されるなら、その中で描かれる?)

*解釈の根拠*
確証となるシーンはないが、ハン(長男)と貴公子には共通点がある。これが両者の血の繋がりを暗示していると、捉えられなくもない。
①綺麗好き
ハンは、上述の公開処刑シーンで、事を終えた後、手を丹念に拭ったり、終盤では今まさに手術が始まるという時にシャワーを浴びに行ったり(手術に数時間かかるという理由もあるにせよ)、潔癖性が窺える。貴公子も、劇中の様々なシーンにより綺麗好きなことが自明になっている。そして二人とも、身ぎれいなファッション。
②自ら手を下す
ハン(長男)は公開処刑時に、部下に任せず自ら手を下す。加虐嗜好を満たしたいだけだと解釈することもできるが、自分で事を成し遂げたい意識の表れともとれる。これは、貴公子が「プロ」意識により自分ひとりで何もかも片づける性格と共通していると言えなくもない……か。どうだろう。


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