加澄ひろし|走る詩人

『走る詩人』加澄ひろしです。詩を書いています。【自然派】ときに【社会派】 自然を愛し、…

加澄ひろし|走る詩人

『走る詩人』加澄ひろしです。詩を書いています。【自然派】ときに【社会派】 自然を愛し、自然を歌います。 東京都出身、宮崎県在住 kasumi@tokyo.ffn.ne.jp

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固定された記事

【詩】兆し

日が昇り、風は温み、凍えた指が弛緩する 声もなく梢が震え、芽吹きの気配が息を吐く 干乾びた、褐色の殻を、柔らかな鼓動の兆しが ひき裂いて、沈黙の呪縛を解き放とうと …

【詩】失業者と猫

今夜、おまえの温もりで すこし、夜更かししていたい あしたの朝は、ゆっくりだから しばらくは、毎日が日曜日 いつまで、みつめたところで 慰めに、なりはしないけど 澄ん…

【詩】旧友

四十年ぶりに会う君は あの頃と おなじ 約束の時間に すこし 遅れてあらわれた あの頃と 変わらないまなざしで 白く変わった 髪のむこうに 記憶の底を さわっている …

【詩】落涙

雨あがりの くだり坂を 風が 力まかせに駆け降りてくる 春をうながす 烈しい息吹きに 樹々は 容赦なくおそわれている 千切られて 枝をはなれた無数の葉が 煽られて …

【詩】輪廻

今年も春がやってきました 風が、やさしく撫でていきます 田んぼが喉を鳴らしています 蛙が声を交わしています 陽は、あまりに眩しいけれど 曇れば風がひんやりします 時お…

【詩】背中のむこう

真一文字の水平線に しろいネコが 浮かんでいる 波のひだを 見おろして 日ざしを 浴びている とおい空のむこうから 風は絶え間なくおし寄せる たどりついた岸辺に 砕け…

【詩】春よ

冬が過ぎ 乾いた大地が溶けてゆく 土は ほどけて泥となり 隠されていた 鼓動が 風に くすぐられ 想いのまま さ迷いはじめる 凍えた大地に 幽じこめていた たくらみが…

【詩】引力

水平線のむこうから 海の吐息が押し寄せてくる その背中に、しずかに浮かんだ 船の影が、はこばれてゆく 潮の流れのはげしさを しばし忘れて 滑るように、引かれてゆく 海…

【詩】予感(春)

突堤で 川面をみつめている 尾を振り 首をかしげて 水の行くえを 追っている 昼は 日に日に歩をひろげ 枯れた土手が 萌えて 人知れず ちいさな花が 黙って 揺れて…

【詩】海はこんなに

こんなに空は大きくて こんなに海も大きいけれど 空はこんなに青くて 海は もっと青いけれど こんなに空は高いのに 空はあんなに静かなのに 海は あまりに声をあげて 空…

【詩】川浚い

水底をさらっている 腕づくで 力まかせに 川床をかきまわし 濁りを掬って 土手のむこうに放り出す 喉につかえた 焦りも 気がかりも もろともに 濁りの渦に絡めとり 波打…

【詩】沈視

川面は口をとじたまま ふるえるもなく ゆらぐもなく やましさも、うしろめたさも みつめるまま 滔々と あせりも、しらじらしさも わすれて 見あげている 青々と、つめたく …

【詩】 空のかぼちゃ

裏庭の 柿の木に かぼちゃの実が なっている いくつも 大きな顔で ぶらりぶらりと 吊られている こっそりのばした 縄のはしごで 節くれだった 背中をのぼり ちゃっ…

【詩】墜落

いちまいのトンボが 土手の地面に堕ちている 翅をひらいて、飛んでいたときの 姿のまま、踏まれたまま 見ひらく眼に、空の景色を映しはしない 渇いた翅で、風に羽ばたくこ…

【詩】春のにおい

起こされた田に、水がもどりはじめる あぜ道が、緑の光を放ちはじめる ぬくみはじめた日の光 はじけはじめた鳥の叫び 風は、やさしく指にさわる 甘い優しさで手をなでる …

【詩】春待ち

真昼の田は 乾いている 涸れ果て 色褪せて かえってゆく 枯れた命の ともし火を 渇いた 喉もとに かかえて 刈れた 実りの跡かたを 風が 吹きぬけていく においも…

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【詩】兆し

日が昇り、風は温み、凍えた指が弛緩する 声もなく梢が震え、芽吹きの気配が息を吐く 干乾びた、褐色の殻を、柔らかな鼓動の兆しが ひき裂いて、沈黙の呪縛を解き放とうと うごめき、密かな企てに疼いている 朝もやが、遠い山並みを包んでいる 川面を、雪解けのしぶきが駆けおりてくる 河口から、真潮の匂いが満ちてきた 冬鳥は、すでに旅立ちを終えて 冷たい大地は、脈の火照りを抱えている 萌芽を待つ幼な子が、産毛に汗を滾らせる ためらいなく、剥き出しの素顔を晒すだろう 日の出は、日暮れを指

【詩】失業者と猫

今夜、おまえの温もりで すこし、夜更かししていたい あしたの朝は、ゆっくりだから しばらくは、毎日が日曜日 いつまで、みつめたところで 慰めに、なりはしないけど 澄んだ瞳の、みずうみを 風が、通りぬけていく 深いため息を、聞きながら 今夜は、ずっと、こうしていたい 過ぎた夢の、さざ波が 手放した、ともし火の名残りを追って 闇夜の海を、およいでいる 髭を舐め、爪を逆立て 仔猫のように、あまえて欲しい 明日を、思い煩うこともなく 潮が、寝息をたてるまで 身を揺らす、咆哮が 声を、

【詩】旧友

四十年ぶりに会う君は あの頃と おなじ 約束の時間に すこし 遅れてあらわれた あの頃と 変わらないまなざしで 白く変わった 髪のむこうに 記憶の底を さわっている おなじ庭の おなじ樹の まだ あおい かさを被った団栗が はなればなれの森にまかれて とどかない 空をめざし 芽吹き 枝を張り 葉を繁らせた あの頃と おなじ顔いろで 変わらない 手つきで酌みかわし ともにすごした月日より 遥かに ながい時間の切れ端を うなずきあい なぐさめあい 旨味も 苦味も かみしめあう

【詩】落涙

雨あがりの くだり坂を 風が 力まかせに駆け降りてくる 春をうながす 烈しい息吹きに 樹々は 容赦なくおそわれている 千切られて 枝をはなれた無数の葉が 煽られて 転がりながら 繰りかえす 殴打を浴びて 我もわれもと 斜面をすべる 背中にしょった おもいの丈を 渇いた声で 吐き出しながら 坂にまかせて 堕ちてくる ちりぢりに ばらけて 渦巻く 奔流の行く手に 待ち伏せるのは 絶望だけだ どのみち 吹きだまりに身を寄せて 萎びて 朽ちてゆくのだから 樹は くびを大きくよじらせて

【詩】輪廻

今年も春がやってきました 風が、やさしく撫でていきます 田んぼが喉を鳴らしています 蛙が声を交わしています 陽は、あまりに眩しいけれど 曇れば風がひんやりします 時おりの、雨が一面をうるおして 大地に、目覚めをうながします うごめく、無数の生き物が 息の根を軋ませながら ふやけた肌に、血と汗をたぎらせ 無数の匂いを追いつ、追われつ 飢えの連鎖を、満たします 陽は、目を見ひらき 飽食の舞台を、照らしています 悲劇は、あまりに軽やかで こざかしい音を立てるのです そこに、嘆きも哀

【詩】背中のむこう

真一文字の水平線に しろいネコが 浮かんでいる 波のひだを 見おろして 日ざしを 浴びている とおい空のむこうから 風は絶え間なくおし寄せる たどりついた岸辺に 砕けて 力つきて ネコは 薄目をあけて 寝ころんで 眺めている 地球が 本当に まるいのなら みつめているのは 自分の背中だ ネコは 風にうずくまり 水面と宇宙の 深々としたすき間に 突き抜ける 紺碧を見すえている 肩に担ぐ 奈落に浮かんだ しろい 瀑布の先を ©2024 Hiroshi Kasumi

【詩】春よ

冬が過ぎ 乾いた大地が溶けてゆく 土は ほどけて泥となり 隠されていた 鼓動が 風に くすぐられ 想いのまま さ迷いはじめる 凍えた大地に 幽じこめていた たくらみが 痩せた素顔をあらわにして 軋むとびらを開けはなつ 日々は変わらず過ぎていく うごめく影を見ないふりして 傷痕を 嘘でぬぐい 涙の得体をわすれてしまう 草むらに 花弁の粒が肩をならべて 瞳を 震わせている ©2024 Hiroshi Kasumi

【詩】引力

水平線のむこうから 海の吐息が押し寄せてくる その背中に、しずかに浮かんだ 船の影が、はこばれてゆく 潮の流れのはげしさを しばし忘れて 滑るように、引かれてゆく 海のあおさと、風の冷たさと 陽の熱にさらされて 汐は月にみちびかれ 満ち干を重ねているという 瞳にあふれる涙は 星がたぐっているのだろうか 岸に砕ける慟哭が とめどなく、叫びを繰り返す 力まかせに叩くたび 千のしぶきを、空に散らして ©2024 Hiroshi Kasumi

【詩】予感(春)

突堤で 川面をみつめている 尾を振り 首をかしげて 水の行くえを 追っている 昼は 日に日に歩をひろげ 枯れた土手が 萌えて 人知れず ちいさな花が 黙って 揺れている 空は ぬくみを抱えて 風の背中に 追いすがる ふり注ぐ 眩しさと こみ上げる 高鳴りに 濡れた産毛を 羽ばたいて 華奢な踵で 伸びをする 揺らぐ水面に 目をこらす 波紋が 雲を追いかけていく 声が もやを散らして あおい空に 突きぬけていく ©2024 Hiroshi Kasumi

【詩】海はこんなに

こんなに空は大きくて こんなに海も大きいけれど 空はこんなに青くて 海は もっと青いけれど こんなに空は高いのに 空はあんなに静かなのに 海は あまりに声をあげて 空はあんなに遠いのに 海は あまりに悩ましい 空と海の境界線に ポツンと浮かぶ一艘の船 何をしるべに ゆくのだろうか 空はこんなに広いのに 海はあんなに深いのに 人は あまりにちっぽけで 岸辺にそそぐ水際で 俯いて 浮いているだけ ©2024 Hiroshi Kasumi

【詩】川浚い

水底をさらっている 腕づくで 力まかせに 川床をかきまわし 濁りを掬って 土手のむこうに放り出す 喉につかえた 焦りも 気がかりも もろともに 濁りの渦に絡めとり 波打つ淀みに しのび込ませて 淵に宿す 忘れられた約束は 声もあげず さらわれ 濁りにただよう おびただしい屍が 何事もなかったかのように 血でよごしている ©2024 Hiroshi Kasumi

【詩】沈視

川面は口をとじたまま ふるえるもなく ゆらぐもなく やましさも、うしろめたさも みつめるまま 滔々と あせりも、しらじらしさも わすれて 見あげている 青々と、つめたく 淵のひなたを突きぬけて さわぐもなく ほどけるもなく つかの間、眺めをかかえたまま 手ごたえなく たいらな淀みを通りすぎる 羽をほして 瀬にうつむく姿だけ ため息に くるまって ©2024 Hiroshi Kasumi

【詩】 空のかぼちゃ

裏庭の 柿の木に かぼちゃの実が なっている いくつも 大きな顔で ぶらりぶらりと 吊られている こっそりのばした 縄のはしごで 節くれだった 背中をのぼり ちゃっかり おぶわれて ここが居場所と 決め込んで 空に浮かぶ くろい影 畑を抜けでた はぐれ弾 きわどく繋いだ 蔓にすがる 約束のない みなし児だ しがみつかれた 柿の木は あり得ない 重みに動ずるもなく 採りのこされた あかい実の あまく熟した ほとぼりを ひっそり かざしている 場ちがいな 同居の宇宙 突き

【詩】墜落

いちまいのトンボが 土手の地面に堕ちている 翅をひらいて、飛んでいたときの 姿のまま、踏まれたまま 見ひらく眼に、空の景色を映しはしない 渇いた翅で、風に羽ばたくこともない 吹き晒されて、色褪せて 夢を追い、時を泳いだ記憶のまま 干からびて、朽ちていくだろう あてなく生まれ、泥にまみれ ヤゴの鎧に、生身をつつんでいた日々も 羽化に目覚め、痛みに耐えて トリの影に怯えながら 濡れた翼を、干して過ごした明け方も つぶれた背中に、染みてくすんで あの日、どこにいたのだろう 水

【詩】春のにおい

起こされた田に、水がもどりはじめる あぜ道が、緑の光を放ちはじめる ぬくみはじめた日の光 はじけはじめた鳥の叫び 風は、やさしく指にさわる 甘い優しさで手をなでる 草はらが、赤く黄色くまだらに染まり 沈黙していた固い大地が 手を伸ばし、ざわつきはじめる 鳥たちは、土を啄んでいる いそがしく尾を振り、首を振って 小さな餌食をすくい取る と、思いついたように翔びたち 一勢に、餌場を変える 目覚めの鼓動が駆け抜けてゆく 汗が、息吹きが 鼻をつく、胸を襲う こなたの里も、かなたの

【詩】春待ち

真昼の田は 乾いている 涸れ果て 色褪せて かえってゆく 枯れた命の ともし火を 渇いた 喉もとに かかえて 刈れた 実りの跡かたを 風が 吹きぬけていく においも いろどりも 忘れて かたい傷あとを 舐めていくだけ 一面を 照らすひざし 熱くたぎらす 裾をたたんで 群れるカラスの そらの影にも 黙ったまま 身を横たえて かなしみも よろこびも 遣りようもなく 口をとざして 喉の癒しを 待ち侘びている 土手の 茂みのひなたは もう 密やかに疼いている ©2024 H