佐伯剛

2003年4月 風の旅人を創刊。2015年10月の第50号まで制作発行。 2016年1…

佐伯剛

2003年4月 風の旅人を創刊。2015年10月の第50号まで制作発行。 2016年10月より、「日本の古層」というプロジェクトを開始。 2020年4月から、毎年一冊、「 Sacred world 日本の古層」シリーズを制作発行。

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日本人の潜在的な心の在り方と海人とのつながり。

古代に対する関心の持ち方は人それぞれだが、私は、卑弥呼のクニがどこにあったかということよりも、日本人の潜在的な心の在り方に関心がある。  日本の縄文時代は10000年も続いており、明らかに大陸の影響を受けたと思われる弥生時代以降の歴史は、その4分の1でしかない。だから、縄文時代の日本人の心が完全に消え去ってしまったとは思えず、それが、どのような形で今日まで引き継がれてきたのかを辿りたいという思いがあって、私は古代世界のフィールドワークに没頭している。  そして、その鍵を握るの

    • 口先だけの分析なら、もはやAIの方が上手にできる。

      昨夜の地震の状況を知ろうと思って、朝、テレビをつけたら、屋台を引きながら無料でハーブティーをふるまい、薬に関する相談などにのっている若い薬剤師が紹介されていた。  彼がこういうことをするようになったきっかけは、病院の待合室で、患者さんが隣の人に対しては気軽に自分の症状や心配事について話をしているのに、いざ医師や薬剤師の前に来ると、素直に心の中を打ち明けてくれないことがあって、自分と患者さんのあいだにある壁のようなものを取り払う必要を強く感じたからだと言う。  彼は、壁の外側か

      • 地震のサイクルと、日本社会のサイクル。

        先ほど、愛媛、高知で震度6弱の地震。これは本当に怖い。南海トラフの前の、不気味な足音のような気がしてならない。  台湾から宮崎、そして四国と、最近、立て続けに、中央構造線の南側の地震が続いている。  1995年の神戸での大地震以来、北海道、新潟、鳥取、東北、熊本、そして能登と、ほぼ5年間隔で、中央構造線の北側で大きな地震が発生してきた。  そのあいだ、大きな地震が発生していなかったのは、東海、近畿の南部、そして四国と、中央構造線の南側で、南海トラフ大地震が発生した場合に大きな

        • 女性天皇が続いた時代。

          愛子さま、明治神宮に初参拝。  この方は、なんだか巫女のようなオーラを漂わせている。  現在、皇位継承順位は、第一位が、秋篠宮文仁親王で、第2位が、文仁親王の長男の悠仁親王。  これは皇統に属する男系男子にのみ皇位継承権を認めるという皇室典範のためで、小泉政権の時に、女性天皇の可能性が検討されたのに、皇室典範改正に慎重な安倍晋三が総理大臣になってから、改正の動きは止まってしまった。  平成の天皇は、男性だけれど、古代の巫のようだと私は思っていた。  私の感覚だが、秋篠宮家の人

        日本人の潜在的な心の在り方と海人とのつながり。

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        記事

          自分の計画通りに作るのか、何かに導かれるようにして作るのか。

          レヴィ=ストロースは、生命原理は、エンジニアリング(設計思想)ではなくブリコラージュで成り立っていると述べた。  毎月、東京と京都で交互に行っているワークショップセミナーの冒頭で、このことについて詳しく説明してから本題に入ることにしている。  ウィキペディアなどで「ブリコラージュ」を調べると、「寄せ集め」とか中途半端な説明になってしまっているので、もう少し具体的な説明が必要だ。  たとえば石工が作る石垣とか、宮大工が作る建築物、工業製品だと、ダイソンが作った掃除機などが、ブリ

          自分の計画通りに作るのか、何かに導かれるようにして作るのか。

          古代、聖から邪に転換した竜蛇神

           数日前に、近畿の真ん中の縦長の盆地の北と南の端にあたる吉野と京都を結ぶ丹生の女神のことについて書いたが、今度は、その京都を軸にした東と西の関係について考えてみたい。  吉野三山に鎮座し、蛇神の天津羽羽神を祀る波宝神社の真北に位置する上賀茂神社は、京都を代表する二つの聖山、比叡山と愛宕山を結ぶ東西の同緯度ライン上に鎮座している。  この東西ラインは、東に行けば近江富士の三上山で、西に行けば亀岡の出雲大神宮にいたる。  不思議なことに、この東西ラインには、「御影」という名が深く

          古代、聖から邪に転換した竜蛇神

          『生成と消滅の精神史』下西風澄著について。

          先週の21日(日)に行ったワークショップセミナーに、昔、風の旅人の編集部で働いていた中山慶が参加してくれて、会が終わった後、ノンアルコールビールを何本も飲みながら夜遅くまで話し込んだ。  その時、彼が、最近読んだ本として、「生成と消滅の精神史』下西風澄著を紹介してくれた。  まだ30代の独立研究の哲学者の本で、ホメロス神話から古代ギリシャ哲学、そして近代西欧の哲学の変遷に、日本の万葉集と古今和歌集の変遷を重ね合わせ、さらに明治時代、西欧の近代的自我と東洋の思想のあいだに引き裂

          『生成と消滅の精神史』下西風澄著について。

          大谷翔平選手の”遊び”と、世俗世間の無聊の慰めの違い。

          大谷選手の通訳が、スポーツ賭博で7億円近い借金をして、大谷選手の口座から埋め合わせをした事件が世間を賑わす前、大谷選手の新妻が、五千円のバッグを持って海外遠征に同行している写真が取り上げられているのを見て、いいなあと思っていた。  二人が付き合って数年が経ち、その間に、野球以外の副収入も含めて年間に数十億円の稼ぎがある彼に、新しいバッグをねだってもいないし、プレゼントもされていない、そもそも、そういう必要性を感じていないという雰囲気が、新しい時代だなあと。  少し前までは(周

          大谷翔平選手の”遊び”と、世俗世間の無聊の慰めの違い。

          縄文時代に遡る巫女神が、時代を超えて伝えていること。

          南海・東海大地震が起きた場合、もっともダメージが懸念される原子力発電所である浜岡原発は、太平洋に突き出た静岡県御前崎にある。  この場所は、四国から近畿にかけての中央構造線を東に伸ばして、伊豆下田の伊古奈比咩命神社(白濱神社)、そして大島の波布比咩命神社を結ぶライン上にある。  不思議なことに、このライン上には、古代の巫だと思われる女神の聖域が、数多く並んでいる。   最も西が瀬戸内海の姫島で、比売語曽(ヒメコソ)神社が鎮座しており、阿加流比売(アカルヒメ)神を祀っている。

          縄文時代に遡る巫女神が、時代を超えて伝えていること。

          大震災と、この国の祈り。

          南海・東海大地震が起きた場合、もっともダメージが懸念される原子力発電所が、静岡の浜岡原発で、さらに、プルサーマル発電を継続中(2024年7月終了の予定)の愛媛県の伊方原発も不気味だ。  日本の原発は、岬や半島など、古代の聖域に建設されているものが多いが、浜岡も伊方もそうである。  そして、太平洋に突き出たところに作られた静岡の浜岡原発(静岡県御前崎)は、なんとも気になる位置にある。  ここは、近畿の中央構造線のライン、和歌山の紀ノ川から伊勢神宮のラインの延長上で、さらに、日本

          大震災と、この国の祈り。

          震災国日本の祈りのかたち

          (さらに昨日の続きが、とまらなく続いてしまう。もはや誰が読むかなど、ほとんど考えていない)。  古来、日本の天皇は政治的権力者というより、この国の祭祀の要に位置しており、この国の祭祀の根幹は、古代の巫女が、自分の存在を打ち捨てる覚悟で神に仕えることで、その身に神を憑依し、神そのものになって人々に恵みをもたらし災難から守護するために祈るところにあった。  しかし、8世紀の律令体制によって、そうした古来の巫の影響力は弱められ、国家鎮護の祈りは、仏教によって執り行われることになった

          震災国日本の祈りのかたち

          巫の力と、天皇制。

          (さらに昨日の続き)  古代、巫の力は、自分の存在を打ち捨てる覚悟で神に仕えることで、その身に神を憑依し、神そのものになって人々に豊穣をもたらし、人々を災難から守護する存在であった。  そして、古代の歌人には、この巫の力が宿っていた。  柿本人麿の出生地は、いくつかの候補地があるが、有力な場所が、終焉地とされる島根県の石見である。そして、益田市の戸田柿本神社が、人麻呂の生誕地に建てられているとされ、遺髪塚など遺跡がある。  この地の伝承では、語部の綾部氏を伴って大和から石見に

          巫の力と、天皇制。

          悶えて加勢する巫の力

          (昨日の続き)  世界中の文学のルーツには悲劇がある。悲劇には、人間の心の深いところを揺さぶる力がある。だから後々まで伝承され、記憶が引き継がれる。  現代社会のように、人間の欲望を刺激するものが溢れ、悩みや不安を一時的に紛らわす娯楽に不自由しない状況でも、人のために尽くすことを願う人たちも多い。  欧米風に表現することが好まれる現代では、「コンパッション」という言葉が使われる。これは、相手を深く理解し、相手の役に立ちたいという純粋な思いを持ち、相手と共にある力のこと。  古

          悶えて加勢する巫の力

          この時代の巫の力。

            2011年の東北大震災から13年が経った。  ここにアップしている石牟礼道子さんの写真は、風の旅人の第48号(2014年6月1日発行)に掲載しているロングインタビューの時の写真で、写真データを確認したら、2014年3月11日になっている。  このインタビューの時、ご病気の状態は悪くて、パーキンソン病のため、お身体もずっと震えておられて、写真なんか撮れそうもなかった。でも帰り際、部屋を出かけたところで、意を決して振り向いて、思いきってお願いしたら、了承してくれ、小さなカメ

          この時代の巫の力。

          源氏物語と、吉野と京都をつなぐ古代の巫の勢力。

          (3月30日と31日に京都で行うワークショップのメモ(2)  何度も書いてきたことだけれど、「源氏物語」というのは、11世紀の初頭に突然出てきた創作物ではなく、こういう文学が創造されるまでの歴史的な準備期間があった。  源氏物語の100年前、10世紀の初頭、紀貫之によって古今和歌集が編纂されたことは、一つの起点であった。  8世紀に律令制が始まる前、「歌」というのは、人間社会の事情を超えたところにアクセスするための魂の運動だった。しかし、律令制が始まってからは、少しずつ、歌が

          源氏物語と、吉野と京都をつなぐ古代の巫の勢力。

          時代が変わる時

          (3月末に行うワークショップについて)  現代世界には、環境問題をはじめ様々な問題が横たわっているが、それらの問題の根元には、「万物の尺度は人間にあり」という、すべての物事を人間を基準にして測る価値観がある。  この価値観が人間の傲慢さにつながっているわけだが、ここに問題があることがわかっていても、一度身につけてしまった傲慢さは、なかなか解消できない。  しかし、今年の能登や13年前の東北大震災のように、大自然の猛威を前に人間の無力さを痛感させられる事態が起きるたびに、人生観

          時代が変わる時