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戦国武将と恋をして、アラサー女が気付いたこと

スマホアプリ『イケメン戦国』をプレイしてみた。

恋愛シミュレーションゲームの一種である本作は、イケメンナイズされた戦国武将たちと甘い恋に酔いしれる、いわゆる「乙女ゲー」である。

はじめたきっかけは仕事だった。
アプリも展開しているウェブメディアで働いているくせに、私はアプリ課金なる行為をしたことがなかったのだ。

そんなことでは面白いアプリは作れないよね、と思ったので、ママ友たちに調べをいれた。

友人たちの「課金経験のあるアプリ」の答えは、『ツムツム』と『イケメン戦国』に二分化した。

そもそも乙女ゲーというジャンル自体が未体験であったので、どんなものかしらね、と好奇心もあいまって、気軽にインストールしてしまったのだった。

このときの私は、まったく予感していなかった。

戦国武将と恋をすることで、 自分の中に、新しい気づきが芽生えることを。

今回は32歳で初体験した乙女ゲーの感想を、つらつら書いていきたい。

※以下は本作のネタバレを含みます。

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気づき①恋愛脳は史実を越える

歴女まではいかないが、私はそこそこ日本史に関心がある。

特に戦国と幕末はそのドラマティック性から、多くの創作作品にもなっており、目にする機会も多いので、主要人物のざっくりした半生と関連性は知っているつもりだ。

そんな私は、まず本作のチュートリアルに衝撃を受ける。

主人公は「本能寺の変」当日にタイムスリップし、暗殺される直前だった織田信長を救出するところから物語がはじまる。
なので、舞台は明確に、1582年の京である。

このとき49歳だった信長の外見年齢が20代であることも、黒幕が明智光秀でなくなっていることも、まぁいい。
フィクション作品なのだから、この程度の脚色は当然だろう。

しかし、ここから登場する全14人の男性キャラ・ラインナップがとんでもなかった。

なんと、すでに死去している武田信玄・上杉謙信から、まだ元服(当時の成人)して数年だったはずの真田幸村・伊達政宗までがほぼ同年代として描かれている。

つまり、戦国時代後期の40年くらいをギュッと押しつぶして解釈しているのだ。

そのため、主従関係がズレていたり、対面したことはないのではないかと思われる信長・政宗間に同盟が結ばれている設定になっている。

この段階でもなかなか面食らったのに、すこし物語をすすめてみると、「政宗は料理が得意」や「信長が金平糖を好んだ」のような、史実に残る人物像エピソードはちょいちょい反映されていることに気づく。

おそらく、シナリオライターさんや企画担当者が、ウィキペディアなどを読んで、「萌えそうな設定」を拾ってきて磨き上げた結果なのだと思う。

私はこの「恋愛脳編集」に度肝を抜かれた。

本作の世界観において最重要視されていることは、萌えるかどうか、ときめくかどうかであって、歴史モノとしての信憑性や辻褄は二の次三の次である。

一番びっくりしたのは、徳川家康と石田三成の関係で、作中で2人は「辛口な家康と天然な三成は会話がかみ合わないのね☆」と表現され、ほほえましいやり取りがたびたび登場している。

史実上の両者は、長らく因縁の仲であったし、最終的に三成は家康の命で斬首になっているのだから、そんなレベルの仲の悪さでは断じてないのだけど、「ちょっとした性格の不一致」と変換することで、男性キャラ同士の萌え要素にしているのだ。

すごい、と思った。
強力なポリシーにのっとた取捨選択によって、歴史上の人物に本来はなかったはずのサイドストーリーを乗っけている。

ちなみに、戦国といえば、近年の大河ドラマで主役になるくらい激動の生涯をすごす「姫」たちの存在も大きいが、本作では一切の姫は登場せず、側室制度もない。

10代前半で元服して正室を娶ることが普通だったことなどもまるきり無視で、武将たちはみなフリーの純愛派である。
お家存続のために世継ぎが必要という時代の大前提までトルする潔さに、いっそすがすがしさすら感じてしまった。

イケメンレベルを損なわないために、当然ちょんまげ頭のキャラはいないし、合戦になっても兜はつけない。
戦国時代をテーマにしつつ、都合の悪い文化にはとことんNOを突き付けるストイック編集なのだ。

気づき②武将ってベースがモラでつらい

いよいよ本編にすすむには、攻略対象となる「恋のお相手」を選択する。

ビジュアルでいうとメインキャラの信長が一番かっこいいような気がしたが、二人称が常に「貴様」であることに少なくない抵抗を覚え、年代を超えてメンバーに組み込まれている伊達政宗にしてみた。

私は史実上の伊達政宗が好きだ。
奥州の名家・伊達家の嫡男に生まれながらも、そうそうに失明したり家督争いで実母に毒を盛られる苦労人である。

武芸・学問・芸能に秀でていたのに、遅く生まれすぎたがためにいまいち天下統一争いに加われないなど、本人の能力の高さに対してほとほと運がない。
最後の戦国武将ともいわれる、「運命の人」感が魅力的だ。

信長・家康が「神様が指さした人」だとしたら、時代に微笑まれなかった政宗に、私は少し同情的な想いがある。
なので、「恋のお相手」くらいには選ばれてほしいという、補完心理が働いたのだ。

そんな期待値ではじめた政宗との恋は、困難を極めた。

加虐性がつよく、ひたすら自分勝手な政宗に、令和ぬるま湯慣れした私は、ひどく振り回され続けた。

500年前にはモラハラという価値観が存在しないので仕方ないが、ほとんどの主要キャラが身分の高い武将なので、ベースが高圧的で独裁で女性軽視なのである。

特に政宗は愉快犯的な側面がつよく、自分が退屈しないためなら私の安全度など関係ねぇ!なサイヤ人テンションの持ち主だった。

ちなみに政宗側の恋のメソッドは、「ハッ面白れぇ女」→「なんかお前はほっとけねぇ」→「俺を動かすのは…お前だけだ」の花男・道明寺に代表される、ベタベタな身分差恋愛の流れですすむ。

なんとかしぶしぶ進めていたのだが、全13話の5話までで2回殺されかけたのをきっかけに、ついに200円課金してまでお相手を変更する決意をした。

これが私の人生、初・アプリ課金。
予想よりずいぶん後ろ向きな手の出し方になってしまった。

モラに暇のない政宗の言動がしんどく、忙しさを言い訳に3日アプリを放置した際に、「はやくこい、こないならさらいに行く」と政宗からプッシュ通知が飛んできたことは、それなりの恐怖体験ですらあった。

戦に夢中な戦国武将らしく、情弱ぶりをみせてくれたら多少かわいかったものを、ウェブメディア運営をしている私にデジタルアタックを仕掛けてくるとは、憤怒である。

こうして、政宗と私の恋は、500年ボリュームの壮大なジェネレーションギャップにより幕を閉じたのだった。

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気付き③大人の恋は情報過多。トキメキだけでは暮らせない。

よし、新しい「恋のお相手」を選ぶぞい、となった。
その権利を200円分のスマホ決済で勝ち取ったのだ。
いや買い取ったのだった。

ただ、ここで1つの問題に気づく。
政宗とは恋に落ちるどころか尊厳を辻斬りされていた私だが、数日このゲームをすすめる内に、世界観と人物相関図の知識がついていた。

この作品の「攻略対象キャラ」は基本的に戦国後期に活躍した武将だが、実は1人だけ、主人公と一緒にタイムスリップしてきた、現代人仲間がいる。

彼は主人公がやってきた1582年より、さらに4年前の時代に飛ばされており、大学院生だったのに、忍者に転職して、架空の人物である猿飛佐助になりすましてまで、主人公を乱世で待ち続けていた。

再会後は、敵対する織田陣営に、命の危険をおかして忍び込み、主人公が戦国時代で生きていけるように、励まし、支え、笑わせてもくれる。

そう、政宗を200円できった私の良心が、問うのだった。
「ここで佐助を選ばないの、鬼じゃね?」と。

ドラクエ5でビアンカを選ばない人間に向けられる「マジかよ…それでも人間かよ…」のドン引きが、私の恋心に待ったをかける。

佐助のビジュアルは、理系大学院生の設定を反映し、理知的なメガネボーイである。キャラは淡々としている。

…佐助、ゆるせ…。
拙者、メガネ萌えパーツが実装されておらんのじゃ…ぐぬぬ…ゆるせ…。

正直に言おう。
私の心は、政宗2話あたりから、ひとりだけニコニコと優しく接してくれる石田三成にほぼ決まっていた。

しかしここでも、私の打算的な一面がフォーリンラブを妨げる。

このゲームの織田陣営は、織田信長、豊臣秀吉、明智光秀、伊達政宗、徳川家康、石田三成の6人である。

信長がトップなのは言うまでもないが、その家臣である秀吉の、さらに家臣である三成は、6人の中で一番出世しない。

しかも、ほかのメンツは長生きする中、40歳そこそこで最短の最期を迎えることも、私は知ってしまっている。

ああ、つらたん。

もうそうなると、三成が甘い睦言をささやくようなシーンでも「でもこいつ、志半ばで斬首されるしな」が頭を離れない。

そしてあんなに尽くしてくれた佐助を、ビジュアル評価で選択しなかった負い目も、消えない。

結論、私は歴史モノ乙女ゲームに少しもむいていなかった。

このキャラ好み~♡だけで、カジュアルに恋をすることができない。
付随する周辺情報とないまぜにした、総合的な判断で相手を選ぶほうが性にあっているのだ。

ちなみに、仮に私が本当に戦国時代にタイムスリップして、主人公と同じ立場になったなら、絶対に徳川家康を選んで取り入る。

外見も性格も信念も、もはやどうでもいい。
平和な江戸時代に連れていって…。

私はどこまでも、恋心だけでなにかを決断することはできない女なのだった。

そしてこれは、恋愛の延長線上に結婚を意識しだした、多くの人にも言えるのかもしれない。

学生時代は、足がはやくてかっこいいとか、消しゴムを貸してくれてうれしかったとか、自分のエモーショナルだけを気にして恋ができた。
父親が外交官だから好きとか、次男だから魅力的なんて、考えるわけもない。

ところが、大人になって、生活というものへの情報が増えると、家柄や家族構成、将来性に外的評価…「自分の目に映る相手」以外の要素を無視できない。

トキメキは永遠に続かないし、恋慕でおなかが膨れないことは事実だが、なかなか物悲しいものでもある。

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気付き④「ありきたりな恋」でいい。

適性を感じずに、そろそろ『イケメン戦国』から退こうとしていた矢先、同時期にゲームをはじめた友人から、「同じシリーズの、イケメン幕末も面白かったからやってみて♪」と連絡がきた。

私は戦慄した。

彼女に『イケメン戦国』を勧めたのは私であるから、順番的にもこの要望には応えるのが道理であろう。

しかし、しかし…!

戦国武将との恋愛でこんなに疲労している私が、幕末なんて、もってのほかである。

戦国の世というのは、裏切ったりだましたり利用したりはするものの、人々の行動心理はシンプルなのだ。

武士はみな、家を存続させ、領地を広げ生活を豊かにし、武功をあげて名を広めるために活動している。
その生き方がゆるがないスタンダードだ。

しかも、戦国時代は100年以上続いているので(応仁の乱~江戸幕府開幕、または安土桃山時代突入までと考えて)、信長以降に活躍した武将たちは、うまれながらの戦国ピープルである。

武家に生まれれば、幼いころから武芸に精を出し家督争いをし、武将教育を受ける。
秀吉のように低い身分からのし上がった者も、戦国以外の世を知らないので、時代の価値観は共有されているのだ。

そこが幕末とは大きくちがう。

「動乱」と称されるこの時代は、数々の歴史的事件が15,6年くらいのあいだにおきている。(黒船来航~戊辰戦争、または大政奉還までと考えて)
主要人物たちは、ほとんどが同世代で面識もある。

つまり、200年以上続いた江戸時代に生まれた若者たちが、急に維新志士となって時代を変えようとするので、あっちこっちに情報が錯綜し、人々の生き方も、たいへん思想的になる。

幕府に翻弄され続け、ほぼ全滅ラストを迎える新選組は気の毒すぎてみていられないし、疑心暗鬼になりながら日本の夜明けを個々に追い求める攘夷志士たちも、歴史のひずみに飲み込まれた感が苦しい。

無理だよ…ムリ…!幕末は無理…!!
私には、選べないよ…!

と思いながらも、友人への義理を尽くそうと、『イケメン幕末』のサイトでキャラ紹介をのぞいてみる。

新選組の主要メンバーの中で、数少ない長寿者である斎藤一ならイケるかな、と思って真っ先にクリックしてみるが、いったい何があったのか、片目を包帯で隠した隻眼デザイン。

隻眼キャラは伊達政宗でこりきっている私に、動乱の時代が襲いかかる。

キャラクター紹介の並びは「坂本龍馬・土方歳三・高杉晋作・沖田総司」となっていたが、私の脳内では「暗殺・討死・結核・結核」とすぐさま変換されてしまい、そっ閉じ、不可避。

「すいません、幕末の恋は楽しめそうにないばかりか、相手を選ぶことも困難です。」

正直に友人に連絡してみる。
すぐにかえってきた返信には、「私のオススメは高杉晋作だよ~!」と書いてあり、私は頭を抱える。

ムリだよ…!
高杉晋作なんて20代で結核で死ぬのに、無理だよ…!!

もしキャラデザが20代の姿なら、「そろそろ発病する頃じゃなかろうか…ゴクリ」がずっと気になって落ち着かない。
そんなのつらい。私はつらい。

私はとことん、バッドエンドが苦手であった。

そして気づく。
特別な事件や、運命を感じる瞬間なんて、なくていい。
命をかけて守ってくれなくて、いい。
その命、だいじにしまっておいてください。

海辺をアハハうふふと笑って走り、おい、口のはし、クリームついてんぞ、みたいなことを言い合うだけの、ありきたりな恋でいい。

いいじゃない、それだけで。

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気付き⑤夫の陽気さは、現世の綺羅星

『イケメン戦国』プレイ中、政宗のモラ感や、キャラ設定のツッコミどころなどを、よく夫に話していた。

乙女ゲーム自体に興味は薄そうだったが、「真田幸村が武田信玄の家臣ってことに無理やりしてるのに、幸村と政宗が同じ年って設定は残してるんだよ」などの恋愛脳編集を伝えると、それなりに喜んで聞いてくれた。

そして、アプリをやっていない夫にも、いくらか戦国フィルターがかかったらしく、ニュースで理不尽な犯罪をきいては「これは抜刀するしかないわー」と感想を述べた。

私も負けじと、夫がくるくるのまま洗濯カゴに入れてきた靴下をみつけては、「なにこれ?謀反?」と尋ねたりした。

夫は理学部出身で、もともと日本史に興味はなかった。
なので、軽い歴史ジョークが通用するのは、一緒に暮らすようになってから、2人で観た大河ドラマや歴史作品の賜物である。

「春はあげぽよ」というギャグが伝わるのは、相手が枕草子を知っている前提があるからだし、夫が突然うたいだす「瓜売り」の歌が面白いのは、『真田丸』の該当回を笑いながら観た過去があるからだ。

同じものをみて、そのときに議論し、わかちあった内容が、私たちに共通の笑いをもたらしている。

東京にいくらでもある、小さなマンションの1室で語られるこれらの言葉は、誰にも語り継がれず、教科書にも決して載らない。

それでも、たったひとり、共通の時間を積み重ねて、「わかるわかる」のエピソードを知っていてくれる存在は、私にとって、何よりの歴史の証人におもえた。

戦国武将と恋をして、最もためになったのは、私の一世一代の「リアルお相手選択」が、なかなか悪くなかったかもね、と再確認できたことなのかもしれない。


記:瀧波 わか


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