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中森明菜「帰省~Never Forget~」

「帰省~Never Forget~」
作詞:鈴康寛・atsuko 作曲:鈴康寛 編曲:千住明

1998年2月11日発売の35枚目のシングル曲。
MCAビクターからガウスエンターテインメントへ移籍して発売した最初のシングル。

この年、1998年のCDシングル売上ランキング。
下記(セールスが多い順)の上位11曲がミリオンセラーになった、とにかく音楽業界の景気が良かった時代。

GLAY「誘惑」
SMAP「夜空ノムコウ」
SPEED「my graduation」
BLACK BISCUITS「タイミング」
GLAY「SOUL LOVE」
Kiroro「長い間」
L'Arc~en~Ciel「HONEY」
KinKi Kids「愛されるより 愛したい」
Every Little Thing「Time goes by」
KinKi Kids「全部だきしめて / 青の時代」
hide with Spread Beaver「ピンクスパイダー」
J-FRIENDS「明日が聴こえる/Children's Holiday」
SPEED「ALL MY TRUE LOVE」
L'Arc~en~Ciel「花葬」

GLAYやラルクがシングルを同時リリースし、どれも大ヒットしました。
ちなみにラルクは3枚同時リリースし、
もう一つの「浸食~lose control~」も90万枚を超えている。
僕は「花葬」が好きで、8cmシングル買ったな
(いかにも明菜好きの好みでしょ)。

それにしても名曲ぞろい。
「夜空ノムコウ」、「タイミング」、
「Time goes by」、「ピンクスパイダー」も好きだったなー。
ここくらいまでは、ヒットチャートにちゃんとついていってました。

さて、この時代に明菜はどんな作品で臨むのか。
前作は「APPETITE」という浮世離れした世界を表現した。
そしてその次にもってきたのは…
…とてつもなくダークで深淵な世界を突き詰めてきた。

それもその筈。
明菜が永作博美氏とダブル主演したドラマ「冷たい月」の主題歌。
このドラマがとんでもなくエゲツナイ復讐劇。
で、復讐する側が明菜の役。
そら怖いよ、あの情念表現をする人に、そんな役演じさせちゃ。
そういう意味ではナイスキャスティングだったと思うし、「俳優」中森明菜の力量が存分に発揮された作品だと思う。

主題歌効果も間違いなくあった。
ドラマのイメージに大きく寄せたジャケットデザインも秀逸。
前作「APPETITE」はオリコン最高46位、Top100在位4週だったが、
本作は最高位19位、Top100在位8週。
上述のミリオンヒットとは比べようもないセールスなのだが、この時期は現在のような再評価をされてはいなかったので、十分善戦したと言える。

アルバム「歌姫」の全曲をアレンジし、
録音時のフルオーケストラも率いた千住明氏が本作を編曲。
「歌姫」シリーズと違ってフルオーケストラではないが、ストリングスを効果的に織り交ぜることで楽曲の上品さ、荘厳さを際立たせているのは、流石の一言。

そのサウンドに乗せてくる明菜の歌声がまたとんでもなく低い。
地を這うような低いレンジを維持してサビまでいくので、怖さ、おどろおどろしささえ感じる。
だが詞の内容が過去愛した人への後悔なものだから、その内容と彼女の歌唱が絶妙に融合している。

当時京都にいた僕がタワーレコードだったかHMVだったかでこの8cmシングルを購入した際、ポップに「新しい挑戦を楽しくさせてもらった」といった趣旨の明菜本人の意欲が書かれていたのを覚えている。
Wikipediaによると、キー幅が広いこの曲に対して、声を抑えることに努めた、そして曲調に合うよう高音部が可愛くならないようにするのがとても難しかった、と明菜本人が述べていたようだ。
それだけ難曲だったのだろうし、実際最後まで聴き切ると、今までとは違うエネルギーを使って歌ったんだろうと想像できる(聴くほうもなかなかのエネルギーを消費した気にさえなる)。

「高音部が可愛くならないように」というのは、
「歌姫」での歌唱のようなファルセットに近い、
本人の実際の喋り方に近いようにはならないように、ということ。
そして声を抑えて歌う…
いつもならサビ、盛り上がり部分で声を張る彼女だが、この曲にはその歌い方は合わない。
その試行錯誤の結果が、サビで爆発的に発揮されている。

先に過去愛した人への後悔の詞と述べたが、それだけではない。
今でも大切に思っていること、そして幸せを祈っていること、そしてそう願っている自分自身への希望も織り込まれている。
その部分がサビであり、その高音のサビを身体全体を使った厚みのある声で彼女は歌い切った。
メロディーそのものが美しくも陰影に満ちた重いもの。
そのイメージに合わせる歌はこういうものだという一つの答えを明菜はまたこの曲で、苦しみながらも導き出した。
そしてこれが後の「オフェリア」や「赤い花」に繋がっていく。

個人的には90年代にリリースした中で、多くのリスナーが求める明菜らしさを一番表現できた作品であり、注いだ彼女の情熱が最も顕著に表れている作品だと思う。
詞、曲、アレンジも素晴らしく調和し、重厚感に満ちた力作。
所属レコード会社との確執といった経緯もあり、再リリースも難しくiTunesでも購入できない入手困難な作品になっているが、是非とも何らかの形で広く聴いてもらいたいし、永く歌い続けて欲しい名曲である。


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