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【読書メモ】コンテクスト・マネジメント 個を活かし、経営の質を高める

経営者や経営を担うリーダーの皆さんとこれを探求したい、そう強く思いました。

著者は大学院大学至善館の理事長兼学長の野田智義さん。野田さんの著書「リーダーシップの旅」を15年前に読み、深く感銘を受けました。その野田さんの本が出てることにAmazon で気づき、すぐにKindleで読み始めました。

本書は、至善館での講義録のような形をとっています。野田さんが受講者に敬意を払いながら、対話している様子もまた素敵だと思いました。

組織の壊れやすさと人のポテンシャル

本書で、もっとも印象に残ったのはこちらです。

組織は、壊れやすい繊細な細工のようなものだ。1人ではできないことができる代わりに、1人でいるときには考えられないようないろいろな問題が起きる。だから、人という存在が持つポテンシャルを信じながら、有機体としての組織をつくり、その中にたえずウォーク・ザ・トークで魂を吹き込み続けて、人が持つエネルギーを最大化させていく必要がある。そして、それこそが、経営者リーダーにとっての最大の挑戦にほかならない。

『コンテクスト・マネジメント』野田智義

私自身、組織づくりやそのためのリーダーシップのあり方をテーマにコンサルタントとして活動しながら、研究をしています。ここのところ思っていたのは「壊れやすい繊細な」組織で起こる矛盾や葛藤をどう活かすかということです。

大抵の場合、矛盾や葛藤は避けたいものだと思います。でも、避けられるものではありません。そして、これは経営に限った話ではありません。大きくいうと、人生って矛盾や葛藤だらけだと思います。

それを避けることも選択肢としてはあると思います。でも、それでは成長しない。だからどう向き合うか。矛盾や葛藤から何を学ぶかが大切で、その姿勢にリーダーシップが現れます。私は、このことをお客様との実践から学びました。

コントロールとコンテクストの違い

いちばん、グッときたのは、「人のポテンシャルを信じて、そのエネルギーを最大化させていくことが、経営者リーダーにとっての最大の挑戦」という言葉です。

出典:『コンテクスト・マネジメント』野田智義

詳細は、本書をお読みいただければと思いますが、そのカギは、コントロールとコンテクストの違いにあります。

コントロールとは、上図の左にあるように「成約」「追従」「管理」「ノルマ」によって人の行動を規定しようというものです。組織運営上は効率的ですが、一人ひとりの主体性を無視しており、ポテンシャルを活かす態度ではないでしょう。

一方の右側がコンテクストです。「挑戦」「支援」「規律」「率先」によって人の行動を促そうとしています。ある種のコンテクスト、環境を作ってその中で一人ひとりのポテンシャルを最大化していくという考えです。規律はあるけど、そのなかで自由に行動します。結果として、矛盾や葛藤も起こるでしょう。

矛盾や葛藤を活かす視点

とはいえ、前提として真ん中のピラミッドにある「組織構造」「システム」「プロセス」といった仕組みがあるので、マネジメントが大きく崩壊することはありません。そのうえで、「人の行動」という原動力をどうやって最大化するかが経営者リーダーが探求すべきこととなります。その際に矛盾や葛藤を受け入れて、そのままに活かしていくことができるかどうかです。

私自身は、組織づくりのなかで「仕組み」「仕掛け」「仕切り」という言葉を使ってコンテクストを作ろうとしています。

「仕組み」は、上図のピラミッド部分です。ここには、職務規定や人事制度などが含まれます。ただ、それだけでは人の原動力が生まれないので「仕掛け」として、自由闊達に対話する場を仕掛けます。戦略検討の合宿などがそうです。

そして「仕切り」です。誰にでもポテンシャルはありますが、そこには大切な個性もあります。そうなると、コンフリクトも起こります。そのとき「仕切り」としてコントロールではなく、コンテクストを使うのが、組織能力を高めるための経営者の最大のチャレンジだと野田さんはおっしゃっているように思います。

トップダウンのコンテクスト構築

「コンテクストづくり」というとボトムアップの取組みのように思いがちですが、経営者リーダーの立場からすれば、その言動は構造的にトップダウンになります。

組織行動のコンテクストは、組織の伝統に根ざした揺るぎない価値観を持つトップが、常に社員に語りかけ、自身の行動でも示していく中で形づくられ、組織に浸透してゆきます。

『コンテクスト・マネジメント』野田智義

このとき大切なのは、「組織の伝統」「価値観」「語りかけ」「行動で示す」という点です。トップダウンでコンテクストをつくり、ボトムのポテンシャルを活かそうということです。

微妙な違いですが、人の力を最大化するということにおいては、大きく結果が変わってきます。

ただ、これを実践するのはなかなか難しい。ゆえに経営者リーダーの「最大の挑戦」だと表現しているのだと思います。

ジレンマとリーダーシップの課題

多くの経営者リーダーと接していて感じるのは、彼らにとっては、組織の価値観や存在意義は、ほぼ自分の価値観、存在意義とイコールです。ですが、社員一人ひとりの価値観や感じている存在意義は異なります。このとき、その違いを埋めていくコントロールに執着してしまうと、コミュニケーションエラーが起こります。

「なぜ分かってくれないのか」
「どうして分からないのか」
「あいつは分かっていない」
「いうことを聞かない」
「いいからやれ」
「もっと、前向きになれよ」

こんな言葉がでてきます。
聞かされる側は、鼓舞されているようで、自分のことを分かろうとしてくれていない、と感じてしまいます。結果、忖度や面従腹背の行動が起こります。これでは、ポテンシャルに蓋がされてしまいます。つまり、リーダーがやろうとしていることと反対のことが起きてしまう。まさに、ジレンマ、葛藤です。

最後に:コンサルタントとしての実践

問題は、このジレンマがあることに気づかずに、責任感だけでトップダウンのメッセージを発するところにあるのではないかと思います。

矛盾や葛藤をなかったことにせずにいかに向き合っていただくか。そして、ともに向き合うか。コンサルタントとしての私の最大の挑戦もまた、ここにあるように思います。


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