アーティスト・コレクティヴ

自己表現と理想

初めて会う人に自分がアーティストだと自己紹介すると、「えっ、絵画とか彫刻するの?」って、言われることがほとんどなんですが、いつも上手に答えられないので、なるべく自分の作品を資料を見せて伝えます。ただ、そこで伝えるのが、作品も制作しますが、企画や講座などもやりますと伝えます。実際のところ、彫刻科で立体作品を制作していたこともありますが、一番面白いと思ったものは、作らずに表現するという頓智のような表現でした。自己表現で出せる自分ならではのオリジナルな世界観も面白いのですが、人と関わって、お互いのコントロールが完全に行き渡らないところで、表出するアイデアや表現などが、今でもとてもおもしろく感じます。自分の理想を表現することは、気持ちのいいものですが、人の数だけ理想があり、それがぶつかり合っているのが現実社会だなといつも思います。思うようにいかない。田中功起さんの作品で、複数名の有能な陶芸家やヘアードレッサーが一つのものを手がけても、最終的には誰の理想にも到達できないような結末になる、または自分でも他の人でもない何か別のものになるという映像作品が頭をよぎります。

この何か別のものになるという部分がとても面白いと思うようになったのは、やはり大学院の頃にラファエル・ルビンスタイン教授が担当していた「クリティカル・スタディーズ」という専門の中で、「ヴァーチャル・キュレーティング」という展覧会企画のコンセプトやアーティストの選考などのプロセスを学ぶクラスを受講していた時に、「アーティスト・コレクティヴ」の紹介を受けた頃に遡ります。アーティストというとどうしても一人で制作に没頭している印象が強いのですが、「アーティスト・コレクティヴ」は、日本語に直訳すると「アーティスト集団」となるでしょうか?複数名が集まって、何らかの表現をする構成になっています。自分自身がもともと学部の頃に文化人類学などを専攻していたこともあり、もともと社会との関わりということを大事に考えてきていました。なので、これまでにご紹介したProject Row HousesやWorkshop Houstonのような社会に向けたプログラムを展開する団体にいつも目が向いていました。同時にアーティストが主体となって、複数名で制作や表現をするということもあるのだなと、当時はちょっとした衝撃でした。というのも、アーティストは自己表現や自分の理想の世界を追求していくものと捉えていたからだと思います。

Otabenga Jones & Associates

さて、実はこの授業で「アーティスト・コレクティヴ」の概念を教えてもらう前に、すでに「アーティスト・コレクティヴ」には出会っていました。それは、以前、少し触れたProject Row Housesでスタジオを構えていたロバート・プルーイットさんの所属するOtabenga Jones & Associates(オタベンガ・ジョーンズ・アンド・アソシエーツ)でした。ここのアーティストには、時折会って、話を聞いていたのですが、改めてその構成を聞くと、本当にユーモアと批判的な姿勢のあいまった内容でした。名前を日本語に直訳すると「オタベンガ・ジョーンズと仲間」みたいになると思います。もともとは、1904年のミズーリ州・セントルイスで開催された万国博覧会の中で、人間動物園という人類学展の展示の一部となったコンゴのオタ・ベンガさんを想起させるようなネーミングです。実は、その人類学展では、日本のアイヌの人々も展示されたとのことです。人類学の研究とはいえ、非人道的な捉え方が横行していたのが、悲しいですね。

さて、そのような背景がある中、ジョーンズという姓をあえてつけて、アメリカナイズドされた人物をリーダーとしているところが、とてもユニークで頓智の効いた手法だと思います。実在するのか実在しないのか…オタベンガ・ジョーンズが指揮をとり、仲間たちのロバートさん、ジャマールさん、ケニヤさん、ジャバリさんがプロジェクトを遂行するという構造で、さまざまな社会的教育プロジェクトなどを手がけてきています。一人のアーティストの表現ではなく、複数名で実行するために、それぞれの理想やイメージが何か別のものになる制作や表現、しかもリーダーはアバターのような存在。アーティスト・コレクティヴの手法は、実際の大きな社会の縮図のようなものを象徴しているのかもしれないと思います。


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