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「未来の遺品整理」

去年、一昨年と30代・40代の知人や友人のご両親が次々に亡くなっていった。肺がんを宣告され数年の闘病生活を経て70代で亡くなった方、膵臓癌を宣告され、あっという間に亡くなった方、脳卒中で突然亡くなった方などがいた。私は怖くなった。両親もいつ何時、亡くなってしまうのかわからないと、不安でいっぱいになった。


そんな時、YouTubeでゴミ屋敷を片付けるお掃除会社の動画が目についた。見てみると遺品整理や生前整理を業者に頼むのは、ごく一般的な事なのだとお掃除会社の社長が話していた。しかし同時に何十万、下手すると百万近くのお金がかかる事を知った。あるゴミ屋敷の依頼者はこう言った。


「家を相続したはいいけど、どこから片付けて良いのかわからない。」と。依頼者の女性は50代ぐらいの女性だった。高齢の父親は物が捨てられず、彼の家はゴミ屋敷になっていた。私は決めた、「未来の遺品整理」に取り掛かると。


遺品整理は多くのエネルギーと時間、費用を要することを知りながら、実際にその作業に取り組むと、それがいかに複雑で感情的なプロセスであるかを身をもって理解することになった。まだ両親は健在だが実家は「ゴミ屋敷」とまではいかないにしても物で溢れかえっていた。両親は70代前半である。年齢を重ねるごとにゴミの整理や物を捨てる事が難しくなってきているよう見えた。


彼らが誰の助けもかりず、自ら粗大ゴミを捨てるなど想像も出来ないほどだ。老化が進むと同時に衰えるのは「認知機能」だ。では、認知機能が衰えるとは一体どんな事なのだろうか。

【老化による認知機能の衰え】

  1. 処理速度の低下: 年齢が上がると、情報を処理する速度が遅くなる傾向がある。

  2. 記憶の減退: 新しい情報を覚えにくくなり、短期記憶の減退が見られる。

  3. 注意力の持続性の低下: 長時間にわたって注意を維持することが難しくなる。

  4. 柔軟性の低下: 複数の情報を同時に処理する柔軟性が減少し、切り替えが難しくなる。

  5. 言葉の遅れ: 特定の言葉や用語を思い出すのに時間がかかることが増える。


ゴミの分別は、上記の1.2.3.4の機能が衰えているとかなり難しいだろう。そして片付けは何よりも体力勝負だ。物理的な整理の一方で、心の整理も同時に必要になると気づいた。片付けをしている最中、頭の中には幼少期の思い出が蘇り、それがトリガーとなりPTSDの症状が出てしまった。フラッシュバックに苦しみながらも、私は片付けを続けた。思い出の品々を手にするたびに、笑顔や涙、懐かしさとともに、心の奥底にしまっていた感情が湧き上がって来るのを感じた。それでも、両親のためにも、そして自分のためにもやり通すと決めた。「慢性うつ」を患う私にとっては簡単な事ではなかった。


家の押し入れやクローゼットには使わなくなった家具や電化製品、布団などがしまってあった。何年も袖を通していない洋服や着物、両親が子供の頃にもらった通知表や卒業証書まであった。電気コードだけでもゴミ袋一袋分になるほどたくさん出て来た。燃えるゴミ・不燃ゴミ・リサイクルゴミ・大型ゴミなどに分別する作業をしているだけでもどっと疲れ、滝のような汗をかいた。たった一人で大型家具をいくつも運び出した。一回のゴミ捨ての作業だけで3時間かかったこともあった。ゴミ置き場と家を何度往復しただろう。家のすぐそばにあるゴミ置き場が、果てしなく遠いところにあるように感じた。

使わなくなった電気コード
ゴミ袋の山
クリーニング店でもらったハンガー

片付けをしながら私は思った。どうして母はこんなにも物を溜め込んだのだろうか、どうしてこまめにゴミを捨てられなかったのか、と。怒りさえ湧いてくるほどのゴミの量だったからだ。けれど今になって考えてみるとわかった事がある。それは片付けやゴミ捨ては専業主婦である母だけの仕事ではないという事だ。家族全員で一致団結しゴミを捨てるべきだったのだ。家事に育児に奮闘していた母に「ゆっくりと片付けに取り組む心の余裕」などなかったのだろう。そして父も家の事をないがしろにしているわけではなかった。家族を養う為に毎日必死に働く中で、気づけば定年を迎える年齢になっていたのだろう。



3ヶ月間片付け続け大量のゴミ捨てをした私が捨てられなかったものがあった。

●父方の祖母が手作りしたひな祭りの飾り
●亡き叔父の思いが綴られた原稿用紙
●父や母が若かった頃の写真
●祖母が手縫いし母が私の入学式の時に着てくれた桜柄の着物


他にもいくつか捨てられない物があった。「未来の遺品整理」は家族の絆や過去の思い出が交錯する場面でもある。その中で、自らの心の整理と向き合いながら、家族の歴史を大切に受け継いでいきたいと思った。


家族の歴史について考えた時、高校生の時に父が私に言った言葉を思い出した。


「お父さんには思い出がない。あなたたちには思い出を残してやりたい。」


父は16歳の私にそう言った。当時はその言葉の意味を理解出来なかった。片付けを通して私は自分の人生という歴史と向き合っていた。そして気がついた。辛く悲しい思い出がたくさんあるのと同時に、私の心にはいつまでも覚えておきたい幸せな思い出もたくさんあるのだと。




Keilani


↑YouTubeで綴る40代独身女性の心模様 













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