「戦場のピアニスト」レビュー

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戦場のピアニスト - Wikipedia

公開

2002年

監督

ロマン・ポランスキー

キャスト

ウワディスワフ・シュピルマン・ウェイディク:エイドリアン・ブロディ
ヴィルム・ホーゼンフェルト陸軍大尉:トーマス・クレッチマン
ドロタ:エミリア・フォックス
ユーレク:ミハウ・ジェブロフスキー
ヘンリク:エド・ストッパード
父:フランク・フィンレー
母:モーリン・リップマン
ナチス親衛隊将校:ワーニャ・ミュエス
リパ:リチャード・リディングス
ベネク:アンドゼ・ブルーメンフェルド
ヤニナ:ルース・プラット
マヨレク:ダニエル・カルタジローン
アンジェイ(ヤニナの夫):ロナン・ヴィバート
ミルカ(ドロタの夫):ヴァレンタイン・ペルカ
イーツァク・ヘラー(ユダヤ人警察):ロイ・スマイルズ
ハリーナ:ジェシカ・ケイト・マイヤー
レギーナ:ジュリア・レイナー
イェフーダ:ポール・ブラッドリー
エーリック:ジョン・ベネット
グリュン:シリル・シャプス

感想

第二次世界大戦が始まった1939年、ワルシャワに在住していたユダヤ人のピアニストである主人公が戦争に翻弄されていく様子を描いた作品。
主人公家族が住み慣れた家を追われ、だんだん困窮し、散り散りになっていく様が克明に描写されており、ウクライナの報道ともあいまって胸が痛む。
また、ナチスドイツの非道もこれでもかと描かれており、そのしつこさにやや私怨がちらつくので調べてみると、ポランスキー監督は両親がポーランド人で父はナチスの強制収容所に送られ生き残ったが、母は虐殺されたらしい。
そりゃ私怨が出てもしゃーないわな。

主人公のシュピルマンがナチスの迫害から毎回ぎりぎりのところで逃れ、ツテを頼ってどうにか身を隠しながら生きながらえる。
しかしそのツテもだんだんと消えていき、最後は痩せ衰えた状態で濁った水や生の穀物で餓えをしのぐ様子が壮絶。
戦争をいち市民の視点から捉えた作品としてはとても秀逸だった。
ただ、そうしたシュピルマンの逃亡生活に音楽がそこまで深く食い込んでいなかったことが不満というか意外だった。

個人的には本作を「音楽が人や社会の極限状態に何をもたらすか」という主題の作品だと早合点しており(そういう位置付けで引き合いに出される作品なので)、ナチスの迫害から逃れ、餓えや病に苦しみながらも音楽への情熱は忘れられず、極限状態において音楽だけが彼の希望の光だった……という内容だと思っていたら、そこまで<音楽と人間>という主題は見えずがっかり。
まあリアリズムを考えると、いかにミュージシャンとて今日の食事もままならない、いつナチスに殺されてもおかしくないという状態で音楽もクソもないのだが、物語としてはそれでも常に音楽を想う主人公でいてほしかった。
もちろんそういう描写は時々あったし、主人公の心には常に音楽があったとは思うが、その辺の描き方がかなり少なかったのにがっかり。

あと、ドイツ将校にピアノを弾いて仲良くなるという有名なシーンだが、遅すぎるし少なすぎて拍子抜けした。
もっと毎晩のように何曲も弾いてちょっとずつ仲良くなっていくのかと思っていたら1曲だけとか……。
あとこの将校、最初から全然殺気がなくてなんか変な感じがした。
殺す気でピストルを構える将校に対し悠然とピアノを弾き、彼の心をほぐしていく……とかならもっと感動したのかも。
その後の将校とシュピルマンの交流もやたらとあっさりしていて『こんなもんか…』とがっかりした。
エピローグもさらさらしすぎていて余韻に欠けるし、将校のその後が単なる説明しかないのも萎えた。

結局、本作にとってピアノや音楽というのがプロットを成立させるちょっとしたガジェットでしかなかったのが一番がっかりした。
音楽じゃなくてもシュピルマンとドイツ将校の友情はいくらでも成立しただろう。
音楽が極限状態の人間精神に与える何かというのは、この作品には全く見えなかった。
戦争映画としてはとても秀逸だが、音楽映画としては失敗しているとしか思えない。
この作品を観て、『音楽は素晴らしい』とはならなかった。

八幡謙介の小説、書籍

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