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銀河で唯一のあーちゃんとフキの漬け物。

おばあちゃんにとっての私は、この宇宙でたった1人の初孫だったから、とっても愛されて育ったと思う。

と言っても、私には歳の近い兄妹もいたし、歳の近いイトコもたくさんいたから、愛情を独り占めではなかったと思うけど。

40代でおばあちゃんになってしまった私の祖母は、おばあちゃんと呼ばれるのがいやだったらしく「あーちゃん」と私たちに呼ばせた。

だから、32歳になったいまでもおばあちゃんは「あーちゃん」で、発音は「チャーハン」と同じ。


父方の祖父母は私が生まれる前に他界していたから、私にとってのおばあちゃんは、銀河中探しまわったって、あーちゃんただ一人。



あーちゃんはよく喋るあーちゃんで、毎晩だれかと電話していた。休みの日にはいつも友だちとランチを食べて、あーちゃんの家に見知らぬおばあちゃん友だちが遊びにきていた。


私が札幌のとなりの田舎に住んでいた一方、あーちゃんは札幌に住んでいた。高校は札幌新川高校に進学することにしたのだが、あーちゃんの家からはとても近かった。



いまでも覚えてる。


一般入試で高校を受験した私は、試験後まっすぐ田舎の家に帰り、夕方ごろに地方テレビで放送される「北海道高校受験解答速報」を見て、リビングの床で自己採点した。

妹たちも採点の様子をゴクリと見ていた。

1教科の満点が60点の試験を5教科受ける。国語・数学・理科・社会、そして英語。300点満点の試験だ。

札幌新川高校の合格ラインは約7割超の220点。私は運よく8割以上の得点だったから、合格を確信してすぐに電話した。


だれに?


あーちゃんに。


「あーちゃん、きっと合格だよ。これでたくさんあーちゃんの家に泊まれる」


あーちゃんが喜んでいたかどうかは忘れた。

が、高校に進学してからはしょっちゅう、
あーちゃんの家に泊まった。

田舎からは電車と自転車で通っていたが、サッカー部の朝練に参加するためには早朝5時半に起床しなければならなかった。


あーちゃんの家から通えば、朝はもう少し眠れるから、自転車であーちゃんの家に帰った。

頻度は忘れた。


ある日、あーちゃんが私に言った。


「ダーキ、フキの漬け物は好き?」

フキの漬け物?

緑の? でっかいやつ?

食べたこともなかった。

フキはよく食べてた気がするが、漬け物にできるとは知らなかった。


好きかどうかはわからないけど、
あーちゃんはフキの漬物を食べさせてくれた。

パクリとひと口食べると、少しの苦味と塩っ気、食感はシャキシャキしていて、これがおいしいんだ。

こんなやつ


「うん、おいしい!」

むちょむちょ



高校にはお弁当を持っていく必要があったから、あーちゃんの家に泊まると、あーちゃんがお弁当を作ってくれた。

私が大好きなウインナーの横に、
おいしいフキの漬け物が追加されたのである。


「じゃあ、明日からフキの漬け物入れるからね」


が、高校でそのお弁当を食べるのは、
やや気が引けた。

まわりでフキの漬け物を食べている友人はいなかったし、なにより田舎からやってきた私だから、札幌のシティ派の人間から馬鹿にされるのではないだろうかと心配だったのだ。



が、味のおいしさは真実だし、なにより私たちが大好きな、全宇宙でたった1人のあーちゃんが作ってくれたものだから、堂々と食べることにした。



ある日のお昼休み、いつものようにフキの漬け物を食べていると、陽キャの男友だちが私のところに来て言った。


「ダーキ、その変な食べ物は、なんだ?」

「あぁ、これ? フキの漬け物だよ。おばあちゃんが作ってくれたんだ。めちゃめちゃうまいよ」

「え? フキ? お弁当に? さすが田舎だなぁ」

「まあまあ、食べてみなよ、本当にうまいから」


と言って、フキの漬け物をあげた。
半信半疑の陽キャがパクリとひと口。


モグモグ。


「うまっ!」

「だろ?」

というわけだから、あーちゃんのフキの美味しさを陽キャがクラスに広めてくれた。

「これはうまいぞ、これはうまいぞ」と。


1週間後、クラスの男子の一部では、お母さんにフキの漬け物を作ってもらうブームが到来した。

「おれもフキ作ってもらったんだ〜」という会話がそこかしこで聴こえてくる。


そのブームの話をあーちゃんに話したら、あーちゃんは静かに喜んでいて、次の日も、その次の日も、フキの量はどんどんと増えていった。


「ダーキ、フキはいるかい?」

「ダーキ、フキたくさん作ったよ」

「ダーキ、フキ」

「フキ」



が、何度も続くと悲しいかな、
さすがの私もフキには飽きるもので。

「あーちゃん、フキはもういらないや」

と言ったら、あーちゃんは少し悲しそうだった。


高校以来、あーちゃんのフキは食べていないから、もう15年近く食べていないことになる。でも、今もあの味はすっかり思い出せる。


……



私は知っている。


あーちゃん、これ読んでるんでしょう?

この記事を友だちに読ませてあげて。

たくさん書きたいことがあるよ。

今度、フキを食べさせてね。

<あとがき>
知ってるんです。実はあーちゃんはnoteのアカウントを持っていて、たまに私の文章を読んでくれてるってこと。あーちゃんは同じ札幌市内に住んでいるはずなのに、もうずっと会えていません。早く会いに行かなきゃ。なかなかタイミングが合わないけれど、今度会いにいくよ。今日もありがとうございました。

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