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獣害が増える理由と、ソーシャルでバイオロジカルな対策の可能性について。

いきなりですが、こんな話を聞いたことありませんか?

「人間のせいで山が弱り、やむを得ず獣が里に降りてくる」と。

これ、ほとんどウソに近いそうです。

まず、日本の山はかつて無いほど豊かになっています。森林資源量は増加しています。外材に頼っているせいで木を切らなくなったこともありますが、終戦直後に比べれば、ずっと緑が増え、ワサワサしてます。

人工林は針葉樹が中心のため、エサとなる実が広葉樹や果樹に比べて少ない、という点はあります。しかし、獣からすれば樹皮も竹も若芽もエサになりますし、何より木が増えれば生物は増えますから、食物連鎖の観点では豊かになります。

と、ここで気付くことがあります。

食物連鎖は回っているのか?ということです。
鹿、猿、猪、狸、ハクビシンあたりが増えても、それらを捉える肉食獣、とりわけオオカミは絶滅しているため、雑食動物パラダイスになっているのではないか?と。

おそらく、これは正しいです。

森は豊かになっているが、動物が増えすぎてエサが相対的に足りないんじゃないのか?だからエサを探し求めて行動範囲を広げている個体が里に来るようになったのでは、という説が今の主流だそうです。が、ちょっと待て。

山には肉食獣のクマがいるじゃないか。

そうです、日本の山には生態系の暫定王者、クマがいます。クマが鹿や他の獣を狩りまくっていれば増えないのでは?と思いきや。これには落とし穴があります。

まず、クマが雑食であること。
わざわざ危険を冒してケモノを狩るよりも、木の実やタケノコ、ハチミツ、キノコ、果実、根菜、魚や水棲生物を採るだけでも生きていけること。(むしろ、クマが先に山の資源を食べちゃうから、鹿や猪が里の方に押し出されているのかも、という先生すらいらっしゃいます)

次に、クマは個体数も繁殖頭数も多くありません。
幾らクマが鹿や猪を狩っても狩っても、繁殖力が違いすぎて、相対的にケモノ全体の数は増えて行ってしまいます。これが山自体は豊かになっているにも関わらず、獣が溢れ出てくる構造のようです。

これに対して、もっと広葉樹や果樹を増やして山の餌を増やせば良い、という方もいらっしゃいますが、草食動物や雑食動物が無限に増えられる構造になっている以上、根本的な解決にはならないでしょう。

さらに疑問なことがあります。

何でクマまで里や市街地に現れるの?

という点。これ、単にクマの習性なのです。
もともと行動半径を広げて探索するタイプの動物で、里だろうと市街地だろうと、彼らの活動エリアに入ります。そこで"たまたま"抵抗されるような敵や危険もなく、"たまたま"雑食の彼らにはちょうど良いエサ(生ゴミ、貯蔵物、畑)が溢れ、"たまたま"スキだらけで狩り放題の動物(人間)がいたに過ぎません。つまり、

クマのパラダイスが、そこにあった。味をしめてしまって、テリトリーになった。

というだけの話です。
人間の脇が甘い、に尽きます。

とはいえ。

この20年くらい、年を追うごとに獣害や、市街地でのクマや猿の出没が激しくなっています。

あまりに急激に増えている。

と先生方や、自治体の方たちも口を揃えます。しかし、生態学は経年の観察が必要な分野でもあり、その急激な変化の理由はまだ明らかになっていません。

この点、私が各地を歩いていて、複数の生産者さんとお話をする限り、獣害が増える一つの仮説(可能性)が見えてきました。それは同時に、獣害対策のヒントにもなる気がしています。

それは何かと言うと、里や市街地から

犬(中型、大型犬)が減った、ということです。

一昔前であれば、あちこちの農家さんの家で柴犬や秋田犬、時にはもう少し大きな犬が飼われていました。不審者に対する番犬でもありますが、当然、鹿や蛇や猪などにも反応し、吠えかかる場合もあります。

最近でも、ビニールハウスの横で犬を飼われている生産者さんの畑はまったく獣害がなく、犬のいない用水と道路を挟んだ反対側だけ荒らされている、という現場を見たことがあります。

元を辿れば狼でもあるおかげか、この犬の存在が、人の生活と獣の間に「防衛線」や「境界線」を引いてくれていたのではないか?
しかし、産地の高齢化や人口減少に伴い犬を飼う戸数は激減し、その結果として獣害が激増した、という可能性があります。

こうした状況に対し、
二つ、提案したいと思うことがあります。

一つは、保護犬(大型犬)の活用です。

保護犬の中でも中〜大型犬は維持費も高く、小型の(都市の狭い部屋でも飼える、愛玩目的の)犬に比べ、引き取り手も少ないそうです。つまり殺処分に至るケースが多いということですね。

僕なら、そうした中〜大型犬を「里山犬」や「守護犬」として、産地や中山間地の皆さんで引き取り、地域の守り手として新たな人生(犬生)を歩んでもらいたいです。

こうした考えに対して、「犬は道具じゃない。家族だ。人と同じように家に入れてあげて。野生動物と争ってケガしたらどうするんだ。」などなど、エモーショナルな議論をされる方もいるでしょう。理想は共感しますが、殺処分にならない選択肢としては一考に値します。

古来より狼を家畜化したのは、防犯や自衛はもちろんのこと、酪農や農業を外敵から護るためでした。大型犬を地域が迎え入れ、共同で大切に養う中で、その存在が人と獣の境界線を引く「役割」を担うのは、良い姿だなぁと思っています。

さらにもう一つ。
これはもっと暴論ですが。

「オオカミ」をもう一度、山に放つことです。

野犬でも構いません。もともと、日本の山の王者は「オオカミ」です。暫定王座のクマではありません。オオカミを毛皮のためや、襲われる人がいるからなどの理由で「駆除」したのは人間です。(危険生物であるオオカミは、山や森林の活用に邪魔になるので駆除すべき、という国際世論みたいなものも過去にはあったそうです。)

過去の人間が悪いというつもりはありませんし、駆除したならまた戻せば良いみたいな簡単な話でもありません。山間部で人が襲われる可能性も、もちろんあります。

しかし、イエローストーン国立公園におけるオオカミの再誘致の例もありますし、一考の余地はあるように思っています。

オオカミが増えると小鳥も増える?
生態系に大きな影響を与える“キーストーン種”
https://logmi.jp/business/articles/187311
wikiでも色々紹介されています。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%82%AA%E3%82%AB%E3%83%9F%E3%81%AE%E5%86%8D%E5%B0%8E%E5%85%A5

正直、ハンターによる駆除とか、電柵張り巡らせるとか、日本の獣害対策は「対症療法以下」で「焼け石に水」です。中山間の小規模農業とかを軽視する国らしい稚拙さですが、生産者や地域住民からすると深刻な課題です。

イエローストーンほどのチャレンジには国としての判断も必要ですが、上記の案のようなソーシャルで、より生態系の研究を活用したプロジェクトが、この日本でももっと意欲的に取り組まれて行って欲しいなと思っています。

最後に。

こうした「人」と「生態系」の関わり方デザインや、様々なプロジェクトは、僕の新会社(いきものカンパニー)で取り組んでいくことです。

ご関心をお持ちの方は、是非noteのフォローをお願いします。また、twitterにもいますので、こちら↓からお気軽に話しかけたりして下さいね。

シンキクチ@いきもの&たべもの。 https://twitter.com/Shin_Kikuchi?s=09

それでは。

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