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小論文、これはダメ!

こんばんは。お湯です。今回は、私が「意味のわからない小論文(=悪文)を自作して、それを模範解答レベルにもっていく」という試みをしてみます。
「文章を書くには○○をすればいい」というアドバイスはよく見ますが、実際の「悪文」ってなかなか例としては挙げられないですよね。私もそれを思ったことがあるので、書いてみます。

悪文の例

問:日本大学松戸歯学部小論文より
チームワークとはどのようなことかあなたの体験も交えて述べなさい。
[300字以上400字以内 50分]
解答
 高校生のときに学園祭の運営委員会に属した。運営委員会はとても楽しく、学ぶことが多くあった。だから、みんなもチームワークを大切にするべきだと思う。チームワークをうまく使うことで、そのチームに入っているメンバーみんなが、自分たちの活動は楽しい。それに、自分たちの活動を和気あいあいと進めるのはチームワークの活用になる。そのため、一人がみんなのため、みんなが一人のために活動することが大事だ。
 それに、スポーツでも大切にするべきだ。スポーツをする仲間なのだから、仲間同士のチームワークは大切に決まっている。私はそういったスポーツチームを応援したい。だから、チームワークは大事なのだ。チームワークを大切にするために必要なのは、チームに属するメンバーの間の信頼関係と、スポーツマンシップを守ることだ。チームワークにはこの二つが必要不可欠である。
 私はもっとチームワークを大事にしたい。

小論文を書く際に必要なのは、読み手が納得感をもって最後まで読めることです。それを妨げる要素は、大きく分けて3つあります。

説得力を持たせることを妨げる要素
・主張を書くだけで理由がなく説得力がない
・主張と理由の内容がずれている
・反対意見を考慮せず自説の主張で終わっている
・自説が感情論になっている

論理的な文章表現としての整合性を妨げる要素
・主語と述語がねじれている
・論題とずれた問題設定をしている
・自分の体験を一般化している
・同じ意味をもつ表現・文を重複して使っている(同義反復)
・段落と段落の間の関係性がない
・並列関係として述べているもののレベル(階層)が違う
・因果関係がねじれている
・唐突に別のテーマが出てくる

一貫した論理性を妨げる要素
・様々な意味にとれる言葉を明確に定義せずに使用している
・一つの段落に複数のテーマが混在している
・結論がなく、何が言いたいのかわからない
・小論文の最後に、全く関係のない「付け足し」の表現がある

これらのいわば「小論文でやってはいけないこと」を念頭に置いて、先ほどの小論文を添削します。

高校生のときに学園祭の運営委員会に属した。運営委員会はとても楽しく、学ぶことが多くあった。だから、みんなもチームワークを大切にするべきだと思う。チームワークをうまく使うことで、そのチームに入っているメンバーみんなが、自分たちの活動は楽しい。

この問題の論題は、「チームワークとはどのようなことか」です。つまり、「チームワーク」を定義し、それを「自分の体験を交えて」説得力のある小論文にするのが適切な書き方でしょう。

ですが、<悪文>では「チームワークを大切にするべきだ」と書いています。これは「定義」でなく「チームワークをどのようにすべきか」という「価値判断」になってしまっています。論題を読み違えていますね。

「だから、みんなもチームワークを大切にすべきだ」とありますが、「だから」の前にあるのは「高校の学園祭で楽しかった」という「個人の経験」です。これは「個人の体験の一般化」であり、避けるべきです。

さらに「だから」は「前に言った事柄が、後から言う事柄の原因・理由になる接続詞」ですが、<悪文>では前の事柄(自分の体験)が後から言う事柄(チームワークの大切さ)の理由とは言えません。

<悪文>の3行目より「チームワークをうまく使うことで、そのチームに入っているメンバーみんなが、自分たちの活動は楽しい。」とありますが、これは主語と述語がねじれています。本来は「・・・みんなが自分たちの活動を楽しむことができる」とすべきです。

チームワークをうまく使うことで、そのチームに入っているメンバーみんなが、自分たちの活動は楽しい。それに、自分たちの活動を和気あいあいと進めるのはチームワークの活用になる。そのため、一人がみんなのため、みんなが一人のために活動することが大事だ。

この文では「チームワークをうまく使うことで…」の文と「…チームワークの活用になる。」の文がほぼ同じ内容を指しています。これは「同義反復」と呼ばれ、意味のない表現なので避けるべきです。

「そのため、一人がみんなのため、みんなが一人のために活動することが大事だ。」とありますが、どこかの本から引っ張ってきたような表現は本人の考えと思われないため、避けるべきですし、この小論文のテーマにそぐわないちぐはぐなものになっています。さらに、「チームワーク」とは別の話題となるため、一つの段落に複数のテーマが入り、読み手を混乱させてしまいます。

それに、スポーツでも大切にするべきだ。スポーツをする仲間なのだから、仲間同士のチームワークは大切に決まっている。私はそういったスポーツチームを応援したい。だから、チームワークは大事なのだ。

「スポーツでも大切にするべきだ」とありますが、具体例を二つ入れるのは冗長ですし、唐突感があります。唐突に別の話題を持ち出すのは避けるべきです。

「仲間同士のチームワークは大切に決まっている」とありますが、これには「理由」がありません。「スポーツをする仲間なのだから」は「同義反復」なので理由になりません。理由がない主張には説得力がなく、小論文では意味をなしません。

さらに、第一段落では「チームワークの活用」が重要だという話になっていますが、第二段落では「仲間だからチームワークを大切にしよう」という話になっています。段落間のつながりがありません。

「私はそういったスポーツチームを応援したい」とありますが、これは完全に主観です。小論文には不適切です。したがって、「だから、チームワークは大事なのだ」という主張の理由にもなりえません。

チームワークを大切にするために必要なのは、チームに属するメンバーの間の信頼関係と、スポーツマンシップを守ることだ。チームワークにはこの二つが必要不可欠である。
 私はもっとチームワークを大事にしたい。

ここでは「信頼関係」と「スポーツマンシップを守ること」が並列されていますが、この二つは議論するレベルが違います。「信頼関係」は「スポーツをする上で大切なこと」であり、「スポーツマンシップ」は「スポーツをする上での前提」です。「大切なこと」と「前提」ではレベル(階層とも呼びます)が違うため、並列するとちぐはぐな印象を受けます。

さらに「私はもっとチームワーク」を大事にしたいとありますが、これは結論ではありません。論題とは違うからです。「私は…」とあることで主観でしかない印象になります。また、この一文は、「他に書くことがないから最後に付け足した」ととられる可能性もあります。適当な付け足しというのは小論文を添削しているとよくある不適切な表現です。

長々と書きましたが、まっとうな講師が添削するとこのような指摘が飛んでくるはずです。

添削後の小論文は次のようになります。医療系小論文なので、最後に医療に関することに触れてあります。


チームワークとはどのようなことかあなたの体験も交えて述べなさい。
[300字以上400字以内 50分]
解答
 「チームワーク」とは何か。私の考えを述べる。
 私は、「チームワーク」とは、「個々人ではできないことを、複数人で取り組むことにより達成すること」だと考える。個人の能力にはどうしても限界があり、それを補うために複数人で目標達成のために努力することで、相乗効果が生まれ、結果的に目的を達成できる。集団での目標達成、それがチームワークの意義である。
 私は、高校時代に、学園祭の運営委員会に属した。その中では構成員それぞれに役割分担がなされていた。目的はもちろん文化祭を成功させることであり、それぞれが懸命に努力していた。1人ではできないことも当然あったが、個々が有する知識や経験を持ち寄り、課題を着実に解決し、文化祭を成功させた。
 このように、チームワークとは、1人では達成困難な課題を複数人の力で解決することだ。複雑化する社会においては、医療の世界も含めて、関係者と協働することが求められてくると考える。
(400字)

「チームワーク」の定義づけ(主張でもある)
→自身の体験による具体例
→具体例を利用した主張の裏付け

こういった流れができていると思います。小論文を書く際には、「やってはいけないこと」も意識して書くことが必要です。




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