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掌編小説【あめふらし】

お題「異常気象」
※イベントではなく個人的に立てたお題です。
※知る人ぞ知る『タカシとおじいちゃん』シリーズ第四作めです。
第二作が行方不明でしたが、発見していただきました。汗

【あめふらし】(1300文字)

「おじいちゃん、暑いねぇ」
「まったくじゃなぁ…。異常気象じゃ」
「イジョーキショー!?」
 タカシはピンときた。このコトバはとってもオモシロイあそびになる。
「ねぇ、おじいちゃん。イジョーキショーごっこしよう」

 相変わらず我が孫は不思議なことを言う…。
 しかし、おじいちゃんの孫を受容する心は銀河系よりも広くマリアナ海溝よりも深かった。
「それはどんな遊びかな?」
「んとね、ちょっと待ってね」
 かわいらしく顎に手をあてて考える孫の姿に目を細めながら、おじいちゃんはタカシの答えを待った。孫が「待って」と言えば来世まででも待っていることだろう。

「えっとね、雨をふらせるの。だって暑いもんね。雨ふるとすずしくなるよね?」
「おお、その通りじゃよ。タカシはかしこいなぁ」
 イジョーキショーの意味からそう離れてもいないし、とおじいちゃんは孫を誇らしく感じた。

 二人は早速、雨を降らせる準備を始めた。
 おじいちゃんの想像力ではジョウロで庭に水をまくくらいのことだったが、孫の想像力はおじいちゃんの遥かナナメ上、北極星レベルであった。
「おじいちゃん、ハチマキ貸して」
「ハチマキをどうするんじゃ?」
「頭にまくの」
 そりゃそうだなと納得して、おじいちゃんは町内会の運動会で使うハチマキをタカシの頭に巻いてやった。キリリとしてかわいいぞ。

 するとタカシはそのハチマキにペロペロキャンディーを二本さした。そして台所からお母さんのフリル付エプロンを持ってきてマントのように羽織ると、エヘンという感じで腰に手を当てておじいちゃんの前に立った。
 なにか言ってほしそうである。

「…聞いてもいいかの?それは…なにかな?」
「あめふらしだよ!」
 タカシは自慢気に言い放つと、隣の部屋からヨイショ、ヨイショと言いながら分厚い図鑑を持って来て『アメフラシ』の項をおじいちゃんに見せた。
 それは海に住む軟体動物で、殻のない巨大なカタツムリのようにも見えた。少し前に随分熱心に図鑑を見とったが、こんなん見とったのか…。

「ぼくがあめふらしをするから、おじいちゃんはイジョーキショーって叫んでね」
「わしが叫ぶのかの?」
「うん。ぼく踊るから」
 そう言ってタカシは両手を上げ、腰をくねくねさせて変な踊りを踊り始めた。
 こりゃ大変なことになったな、とおじいちゃんは思ったが、孫の創造性を損なうわけにはいかない。息をすうーっと大きく吸い込むと、思い切っておじいちゃんは叫んだ。
「イジョー!キショーーー!」
「イジョーキショー!」
 タカシもノリノリになってキャッキャと踊りながら叫んでいる。叫んでいるうちにおじいちゃんも楽しくなってきて、二人は蒸し風呂のような六畳の居間で、扇風機と一緒にグルグル回りながら踊り回った。

・・・・・

「もーう、急に夕立がくるからびっくりしたわぁ~」
 びしょ濡れで仕事から帰って来たお母さんは、居間の前で立ちすくんだ。

 目の前に展開されていたのは、ギックリ腰になってうめきながら倒れているおじいちゃんと、額にキャンディーハチマキ、肩にエプロンの姿で、おじいちゃんと同じ格好でスヤスヤと寝ているタカシであった…。

 雨乞いとは多大な犠牲を強いるものなのかもしれない。


おわり

(2023/7/31 作)

【タカシとおじいちゃんシリーズ】
第一作 …やっぱりギックリ腰になってます

第二作 …行方不明…でしたが、発見していただきました!
二本立て作品の二本目の方です…ちゃんと書いてた…(;・∀・)
ハミングバードさんはそやmさん、ありがとうございました☆

第三作 …個人的にお気に入り作品(*´ω`*)


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