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掌編小説【出逢い】

お題「座敷童」

【出逢い】

わたしはいつからこの家に住んでいるのかわからない。
でもずっと一人で誰かを待っている。

春、この家に三人が引っ越してきた。多分、家族。
お父さん、お母さん、女の子。
お父さんが玄関の前で家を見上げながら言った。
「この家は築百年だぞ。座敷童もいるかもしれないな」
「座敷童ってなに?」
女の子がお父さんに聞いた。
「古い家に住んでいる子どもの妖怪だよ。でも怖くないんだ。座敷童に会うと幸せになるらしい」
わたしは胸のあたりがぽうっと温かくなった。この人たちは、わたしに会うとしあわせになるんだ。でも基本的にわたしの姿は人からは見えない…。
もし人に見てもらえたら、わたしも人間になれるって大昔に誰かに聞いた。

わたしは女の子のことが気になって、ずっと見ている。見ていたら目から水が出てきた。なんだっけこれ、なみだ…だったかな。涙はなかなか止まらなかった。
人間になって、この子と一緒にあそべたらいいのに。

わたしはある日、女の子と廊下でバッタリ会った。廊下を曲がったらそこに女の子がいたのだ。でもわたしの姿は見えないはず。でも、真ん前に立っている女の子は目を丸くしている。びっくりしてる?見えてるの?
「あなた、座敷童…?」
わたしはハッとした。この子には私の姿が見えるんだ。わたしはふるえた。
「たぶん…」
答えた声は自分じゃないみたいだったけど、女の子にはちゃんと聞こえたらしい。
女の子はニコッと笑った。怖くないんだ、わたしのこと。
「やったぁ。座敷童に会うとしあわせになれるんだよ」
女の子が平気なので、わたしも思いきって聞いてみた。
「座敷童も…、しあわせになれる?」
「おたがいさま、だよ。きっと」
女の子は笑顔のまま答えた。
「ありがとう」
わたしは人間になれるかもしれない。

・・・・・・・・・・・・・・・

「子どもの頃、座敷童に会ったことがあるの」
記憶というのは時に嘘をつくから、もしかしたら寝ている時に見た夢か、本で読んだことなのかもしれない。でも、いま彼女に会って蘇ったこの記憶はとても鮮明だ。

「…その座敷童が私に似てたん?」
私の話を聞き終えた彼女が笑って言う。今日は大学の新入生歓迎会。隣同士になった彼女とはすぐに打ち解けた。
「似てたのかも。初めてあなたを見た瞬間、思い出したから」
「もしかしてその座敷童、人間になれたんとちがう?妖怪人間かて人間になる可能性あるんやから。夏休みに見とったやろ、妖怪人間ベム」
「そんな、オドロオドロしくなかったよ…」
「私が可愛らしかったから、乗り移ったんかもしれんな」
ひょっとしたら本当にそうかも。
座敷童に会えたのは、その時が最初で最後だったから。

「座敷童に会うとしあわせになるんだって」
「なぁエリちゃん、座敷童も…、しあわせになれるん?」
「おたがいさま、だよ。きっと」

あれ、この会話、知ってる気がするわ…。
サユリがつぶやくのを見て、私はクスッと笑う。
春、である。

おわり

(2023/3/25 作)



・・・まったくねらっていなかったのですが
「雛祭り」「春が来た」 の、おまけ作品にもなってしまいました。
書いてみないとわかんないもので。
サユリが出たがりなのかも…
上記作品も、ご興味あれば(*´ω`*)


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