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詩みたいな【歩く】#シロクマ文芸部

お題「走らない」から始まる物語

【歩く】

走らない。
走ると転ぶから。
足元に気をつけて、ゆっくりと歩く。
ちゃんと前も見て。
時々は後ろも振り返りながら。

走らない。
追い抜かれるとドキッとするけど。
それはぼくのペースじゃないから。
振り返って笑われても、だまって見送る。
お先にどうぞ、ぼくはまた歩き出す。

走らない。
走ると踏んじゃうから。
アリさんとか、ミミズさんとか。
気をつけて避けながら歩く。
人間以外は、みんなマイペース。

走らない。
走って転んだ人が泣いている。
さっき追い抜いて行った人。
だいじょうぶ?って手を差し出す。
その人は、走らなきゃよかったって言う。

走らない。
でもそれはぼくのペース。
転んだ人は、また走りたくなって走り始める。
ごめんね、ありがとう。
いいんだよ、じゃあね。

……その人は、あっという間に見えなくなる。
あとから、ぼくも走ればよかったって思うだろうか。

ううん。
やっぱりぼくは走らない。
だって、歩くのがぼくだから。
秋風が吹いて、金木犀の香りが漂ってくる。
ぼくは香りと一緒に、ゆっくりと歩く。


おわり

(2023/10/7 作)

小牧幸助さんの『シロクマ文芸部』イベントに参加させていただきました。

わたしも
走らない。
走ると転ぶから。

事実です。

(ノД`)・゜・。



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