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ねこペティREMIX#2「ブリ」 (エッセイ「伝家の宝刀」)


ブリ
(yellowtail fish)

しゅっせしようが
ながかわろうが
みせのおやじが
どなろうが
くわえたままで
はこべるならば
そいつはぜんぶ
おれのえものだ


今回登場したねこ:ボス
年齢不詳(8~10歳?)オス。群れのリーダーではないが、そのふてぶてしい態度から誰もがそう呼ぶ街の顔。



「伝家の宝刀」


実家は母が料理をしたが、魚を捌くのは父の役目だった。
父は宇和島港にほど近い材木屋の倅で、魚には慣れていたのか、釣ったハゼなど小さな魚も左手に握った包丁で器用に開いた。

いつからか、父の代わりに家業を継いだ宇和島の叔父から、年末ブリがまるまる一匹届くようになり、大皿に並べられた薄桃色の切り身を、帰省した兄たちと取り合う時期があった。鯵ぐらいしか下ろせなかった僕は、でかい魚の捌き方をいつかは習うつもりでいた。

母の病気を機に、ひとりだけ結婚していた僕は親の負担を考え年末の帰省を遠慮するようになる。その間にでかい魚捌きの技は下の兄に継承され、衰えた父は包丁を手放した。

母からは、りんごの剥き方ぐらいしか習った覚えはないものの、実家の味は舌の記憶からある程度再生できるため、勝手に僕が引き継いだ気でいる。
父の技術を教われなかったのは残念だが、親が持っていたものが息子たちに分散して継がれたことにはなんだかすこしロマンを感じる。

だから伝家の宝刀は、このまま兄のものでいい。



※ウェブマガジン「にゃなか」掲載作品(2016~18)に書き下ろしエッセイを添えてお送りします。掲載順は当時の連載どおりではありません。

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