ドビーは悪い子

自分に生産性がない日は、サラダにドレッシングをかけちゃいけない気がする

僕はラジオが好きで最近UR LIFESTYLE COLLEGEという吉岡里帆さんがパーソナリティを務めるJ-WAVEの番組をよく聴いている。

ゲストの生い立ちや内面、プライベートの話を聞いていく中で、吉岡里帆さんが共感して盛り上がっていく様子がとても好きなのだが、小説家の朝井リョウさんがゲストの回での会話がすごく印象的だった。

仕事のエネルギー配分についての話。

うまく書けないと、一日何枚とか書けないと、なんかサラダにドレッシングとかかけられなくなるんですよ。なんか美味しく食べる権利ないみたいな。

仕事がうまいっていない時、自分は今何も生み出していないと思ってしまうと、何故か自分に厳しく当たってしまう。自分自身に批判的な目を向け、誰に見られてなくとも申し訳なさそうに行動してしまう。

何故人は自罰的になるだろう?

誰かじゃなくて、自分に見張られている

自信の無さから「自分には似合わないから、生意気だから」と言って、高くてお洒落な服を買うのを何となく避けたりすることはよくあるだろう。

エスカレートしていくと「私なんて全然価値がないんだから」と言って、あえてサラダにドレッシングをかけないといった意味のない行動を起こすようになる。

この時当人は気付いてすらいない可能性もあるが、そんな行動を取ったところで、誰も気にしていない。
客観的に見れば、自分自身にまるで必要のない罰を与えているのである。

それを何故か「他人の目が気になるから」と思い込んでいる。しかし実際には「自分が自分自身に向ける目」を気にしているのだ。

ドビーは本当に悪い子?

自分自身が認識している自分の価値に対して、不釣り合いに価値がある物を手に入れてしまうと罪悪感に駆られてしまう。
特に自己肯定感の低い人にとっては、あらゆることが不釣り合いに感じてしまい、興味を無くすことで自分を保っているのかもしれない。

ドビー効果(Dobby effect)”という言葉がある。御察しの通りハリー・ポッターのドビーというキャラクターが元になっている言葉だ。

ドビーは「主人に忠実で無休無償で奉仕することが名誉」という価値観を持っており、少しでも要求に答えられないと「ドビーは悪い子」と言って自分の頭を打ち付けてハリーを困惑させるのだ。

ハリーはドビーを叱責したりしないし、ドビーが悪い子などとは少しも思っていない。しかしドビーは「奉仕しないといけない」「出来ない自分は悪い子」と刷り込まれており、頭を打ち付けて自分を罰することで釣り合いを取っている。

これと同じようなことを、実は自分自身にしてはいないだろうか?
しているとしたら、もう気付けるだろう。

客観的に見ればドビーは悪い子なんかじゃないし、悪い子と思ってしまう理由は自分自身の中にある。価値観の歪みや自己肯定感の不足が原因なのだ。

大切にしたい"deserve"という感覚

英語に"deserve"という言葉がある。
「〜に値する」「〜に相応しい」といった意味をもつ言葉だ。

"You deserve it"といった表現はよく使われ、「あなたにはその価値がある」「あなたはそれに相応しい」といった意味で使われることが多い。賞や称賛に対して「あなたはそれを受ける権利がある、それに値するほど価値がある」といった肯定のニュアンスだ。

反対に「罰を受けるに値する」「当然それ相応の罰を受けるべき」といったニュアンスで使うことも出来る。

卑下したり謙遜したりして、価値をボヤかすのが上手い日本人にとって、”deserve”をフランクな言葉で訳すことが難しいのも、なんだか納得してしまう。

「いやいや私なんて全然ですよ」と言って肯定を避け、反対に「私なんてクソですよ」と言って自分を下げようとする。そうすることで罪悪感を処理しているのだろう。

ここにも価値観の歪みが存在している。
そもそも「自分は褒めてもらうに値する人間だ」と認識出来ていれば、自分を下げる必要なんてないのだ。罪悪感を感じる必要などなくなる。

英語圏の人がみんな自己肯定できていると言っているわけではないが、”deserve”という言葉の意味に触れ、少しでもその感覚を考えてもらえれば嬉しい。

ドレッシングかけて、明日また頑張ろう

自意識が過剰になってしまって負のループになってしまうことは往々にしてある。すっかりハマって自分に価値がないと思ってしまう日には、ちょっと立ち止まって価値観に歪みがないかチェックしてみよう。

アナタの中に「忠実で無休無償で奉仕することが名誉」とまでは言わないが、行き過ぎた価値観はないだろうか?
「自分に価値がないのは、客観的に見ても事実だろう」と思ってしまっても、一度「果たして本当にそうだろうか?」と反証してみよう。

ドビーが悪い子じゃないことが理解できれば、きっとアナタが悪い子じゃないこともわかるだ。

そしてちょっと息をついたら、サラダいっぱいにドレッシングをかけて、明日また頑張ろうと思たら、幾分幸せなのではないだろうか?


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