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82年生まれ、キム・ジヨン を読んで

ーーー(少しネタバレがあります)ーーー

電子書籍にしたら300ページ程度の本なのに、めくるごとに心がざわつき、なかなか最後まで読み切るのに時間がかかってしまった。

ざわつく理由を、鈍感なわたしはうまく言葉にできなくて、終始気持ち悪いような、でもどこかで感じたことあるようなモヤモヤを抱えていた。

なぜ、単純な嫌悪感ではなく、「なんとなくモヤモヤした気持ち」なのかというと、多分大きくみっつある。

ひとつ目に、この本で取り上げられる女性差別の度合いと数。
この本には「女性だから暴力を受けた」とか「女性を明らかに軽視する発言された」とか、あきらかな非が出てくる場面は少ない。(あるけど)
どちらかというと、回数としては日々の細かい会話の中で見え隠れする、大人の無邪気な一言が主人公にとってクローズアップされることが多い。
でもだからこそ、じわじわと、キム・ジヨンが、そして読者自身も、この小説にやられていくのだとおもう。

ふたつめに、フィクションとノンフィクションをふらついている感覚。
ここで取り上げられていることは、韓国の話ではあるが、日本でも同じようなざわつきを覚えることは多い。
フィクションという前提がありながら、そして異国の話ではありながら、妙な現実味が重なりわたしは今なにを読んでいるのだろう、と不思議な気持ちに何度もなった。

私自身が女性として生きる中で、それほど苦痛な体験をしたことはないと思っていたのだけれど、
今一度立ち止まって考え直してみると、「あの人の言動にはもしかしてこんな背景があったのか」と考え込んでしまう過去が、簡単にひとつふたつ思い浮かんだ。
こういうことは考えるとキリがないものなのだけれど、これを読んで気づいた(気づいてしまった)ことはたくさんある。

言葉として明確に表出していないし、女性すらも気づいていないこともあるかもしれないけれど、具体的な話を読んで、初めて、背景・前提の認識の違い(女性はこうあるべき、男性はこうあるべき の認識の違い)による、コミュニケーションの齟齬が起きていることを認識した。

ーーー(以下めっちゃネタバレがあります)ーーー

最後にみっつ目、
この本の解説に書かれていたように、
ミラーリングをして、男性の名前・男性の存在を消すことが、多分わたしのモヤモヤの根幹だったのだと思う。
本を読んでいても、主人公の表情・様子や、女性の友達の様子はなんとなく思い浮かべられるのに、男性の表情はなかなか思い描けなかったのである。
ただただセリフが聞こえる情景が描けるだけで、セリフを言っている人の顔を思い描くことができない、男性だけは。

日本でもよく聞くように、女性はママ社会になると「〜〜ちゃんのママ」と、自分の名前を失っていく。
子供が主体になり、その女性は付属品のような聞こえ方になる。
それが、その人の顔を失わせるような、そんな気持ちとリンクした。

だから表紙のイラストには、顔が描かれておらず、一見平穏(そう)な景色が描かれているのか、
とそこまで勘ぐってしまった。

一つの小説・フィクションとしては、あまりに奥深く、これまでの生活を考えさせられるきっかけになる本だった。

もしフェミニズム・フェミニストに脊髄反射的に拒否反応を起こさない人であれば、小説の構成としても非常に面白いものなので、読んでみてほしい

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